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わたしの いきざま

作者: 黛かいこ

 中坊の頃の話だが、俺はボーカロイドのMAYUってのが好きで、そいつに「いぬのおまわりさん」の替え歌を歌わせたいと歌詞を考えたことがある。

「病ンデル病ンデルMAYUちゃんがー」ってナ。んで恋しい相手の鏡音レンに、「愛してくれなきゃ死んじゃうよ?」って言ってレンがワンワン泣くって歌詞だったんだが。まあボーカロイドは聴く専のまま現在に至る。

 けど、その頃から考えは変わってねえって感じる。


「愛してくれなきゃ死んじゃう」。


 実際、俺はそうなんだと思う。ヒトから愛されたいと、嫌われたくない 傷つきたくないと生きている。

 けど、けどな、肝心なのはそこじゃないんだ。ヒトから愛されてても、それを実感しても、死んじまう。

 人間にとって、最も必要な愛はヒトからもらう愛じゃないからだ。


 手前から手前への愛。


 自己愛が必要なんだ。


 自分を愛せなくっちゃ、ヒトは愛せねえ。だって、相手を好きな自分が信じられねえんだから。

 自分を愛するってのは、自分の基にならなくちゃならねえ。

 建築で言うなら柱どころじゃねえ、土壌、地面の部分だ。土地がなくちゃ建物は建たねえ。


 自分を愛せないとき、俺は死にたくなる。


 自分が信じられなくて、何もできてないとガク然として、一人ボッチだと落ち込んで。


 誰も助けちゃくれねえ。


 死にたいときだけじゃない、普通に過ごしている時だって、俺はそう考えてる。


 誰も、俺の死にたい気持ちをどうにかしちゃくれねえ。

 話したって、どうにもならねえ。

 自傷したって、心配されることに嬉しくなるだけだ。何にも好転しちゃいねえ。

 わかってる。わかってる。

 わかってるんだ。


 なら、なあ。

 この気持ち、どうすりゃいいんだ?


 己の中をぐつぐつぐるぐる、苦しくってたまらねえや。

「そんなだから駄目なんだ」と余計に自分が愛せやしねえ。

 ああ悪循環、悪循環。


 本当に、本当に、死にてえんだよ。

 けど、死ぬには足りねえんだ。


 そう、これは実話なんだが、俺は本気で死んでみたくって精神安定剤を数十、一度に飲んで寝たことがある。だけれどもな、俺はMAYUが好きだった頃、中坊の頃には既に薬に世話になってて、そのまま十年以上を過ごしてた。丸一日分の記憶をなくしただけで、その丸一日の間もフラフラしながら普通に過ごしてたんだとさ。なんてこったい、そりゃあねえ。せっかく、イチかバチか、賭けてみたってえのに負けちまった、あるいは勝っちまったと言うべきか。

 もう俺は、薬じゃあ死ねない体になっちまってた。

 じゃあ刃物だと包丁をそれ用に買ってみたが、俺は肉を切るのがへたくそで、ちょっとばかし血が出ただけだった。そりゃあねえ、二度目の失敗。仕事帰りにそれなりの金額を店にやって買った包丁だってのに、なんだってもうちょいスパスパ切れねえのか。いや、これは俺が某ゲームに夢を見すぎなだけかもしれねえな。俺、刃物なんぞ素人だし仕方がねえ。

 この二回よりも前から、三階にある我が家から飛び降りようと何度も画策していたもんだが、なんてことねえこの高さじゃほぼほぼ死ねねえと来たもんだ。どうしようもねえと思った。病院で置き物になるのは今よりも辛いだろうし、まあしょうがねえ。


 つまり、俺は死ぬ手段を全て失ったのである。


 ってところで、車とか電車とかあるいはもっと高い建物だとかあるだろ、とは考えたものの、そいつはいかにも他人への迷惑が恐ろしい。そんな死に方して親が恨まれでもしてみろ、死ななきゃよかったと思うに違いねえや。


 という理性と善性を投げ打って死ぬには、俺にはまだ足りねえもんがあるってことだ。

 大事なモン全部うっちゃってくたばるにゃ、俺はまだまだ足りねえ。そう、崖っぷちの心境でも、崖はあるんだ。立ってんだよ、俺は。これが、もう、倒れっちまって、落ちちまってるなら。俺はきっとすべてを押し殺して投げ出して、父ちゃん母ちゃん友達全部から俺を奪うんだ。なくすんだ。

 それを、どんなに良いだろうと思うし、それはどんなに酷だろうとも思う。

 だから俺は動けねえ。


 心臓から血を流し、

脳に血潮が波打って、

喉に張りが突き刺さっているけれど


 生きるだろう。


 生きなきゃならねえ。


 産まれたなら、祝われたなら、愛されたなら、生き抜かなきゃならねえ。

 そうじゃなきゃ、ここまで俺を愛してくれた母ちゃんはどうなる?

 働いてくれた父ちゃんはどうなるんだ。


 どれだけ脳内で手前を殺そうと。

 どれだけ心が死んだって。

 何度だって心にAEDを使って生き返らせて、死んで、死んで死んで死んで死んで!


 生きてやる。

 そうでなくっちゃあ、俺じゃねえ。

 人間じゃねえ!


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