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第06話 無職へのスカウト

 そしてミーナもスカーレットさんの言葉で少し冷静になった様子で、怒気が和らいだのが分かる。


「そうですね……。ジェイド? 久しぶりに会ったのに怒っちゃってごめんなさい」


「あぁ、いや、こちらこそすまない。その、色々とすまない」


 しかしこのとき俺はふと、七音節以上の新魔法を作るより、ミーナの機嫌を窺う方が難しい、と余計なことを考えてしまっていた。それがなぜかミーナにはバレていたみたいで、ジト目になったミーナに机の下で太ももを軽くつねられた。


「はぁ、まったく……。それでジェイド、パージ村に帰って何をするの?」


「いたたっ、ん? あぁ、帰って何をするか、か。うん、実は……考えていない」


「……そんなことだろうと思った。というわけで、もし良かったらなんだけどウチで働かない?」


「ん? ミーナとスカーレットさんのいる職場か? そう言えばミーナは今、何をしているんだ?」


 俺の問いかけにやや気恥ずかしそうな顔をするミーナ。スカーレットさんは逆に楽しそうに口角を上げていた。


「えーと、──ぃ」


「ん? なんて?」


「せんせいっ! 学校の先生をやってるの!」


「えぇぇぇ!? ミーナが!? あのドジでおっちょこちょいのミーナが!?」


 俺は本当に驚く。八歳の頃のミーナと言えば、いつも俺のあとをくっついてきて、一緒にいたずらをしては大人に怒られていたものだ。


(それがまさか教育する側になっているとは、いやはや年月とは恐ろしいものだな……)


 ちなみに、ドジでおっちょこちょいの印象は、いたずらをしてドジを踏み、バレるのはいつもミーナだったためである。


「ククク、ひどい言われようだなミーナ」


「もう、いつの話をしてるの! 今はもうドジでもおっちょこちょいでもありません!」


「おや、そうか? この前の──」


「スカーレットさん?」


「ふふ、すまない。ま、つまりはそういうことだジェイド君。我々はこのエルムで教師をしている。先日急に魔法科の教師が辞めてしまってね、困っていたところなんだ。というわけで、どうかな?」


 楽しそうに会話をする二人──。と、言ってもスカーレットさんが終始、ミーナをからかって楽しんでいるようでもある。そして急な仕事の紹介。ただの教師であれば断ったかも知れないが、魔法科の教師。子供たちに魔法を教え、成長を見守る。なんだか、とても楽しそうな気がしてきた。


「えと、前向きに検討させてもらっていいですか?」


 とは言っても、一拍置くくらいはしてもいいだろう。俺は宮廷魔法師時代に貴族とのやり取りで嫌というほど慎重さを学んだのだ。


「ふむ。いいだろう。では、明日見学に来てくれ」


「はい、分かり──って明日!? きゅ、急ですね」


「善は急げだ。それに魔法科の子供たちは困っているんだ」


「……そうですね。分かりました。明日伺います」


「んむ。ご両親の顔も見たいだろうに無茶を言ってすまない。では、明日ミーナが迎えにくる」


 スカーレットさんの言葉にミーナは目を見開き、聞いていませんけど、というような表情をしている。だが、このときもやはりスカーレットさんは楽しそうで──。


「なんだ? 嫌なのか? それともやはり寝坊が心配か? ならジェイド君の部屋に泊まっていっても──」


「大丈夫です! ジェイド、明日朝七時に宿の入り口で待ってるから遅れないでね」


「お、おう」


 こうして、俺は幼馴染と偶然の再会を果たし、なぜか職を失った次の日に職場見学が決まるのであった。人生とは実に奇妙である。



 翌朝。


 当然、俺は寝坊などしない。一日に二時間も寝れば十分体は休まるし、三徹くらいまでは余裕だ。魔法の研究で一週間寝なかったときは流石につらかったが。というわけで──。


「遅い。約束の時間違ったっけ?」


 胸元の懐中時計を開けて覗けば、針は七時十五分を指している。自分の時計が壊れているのかもと思い、宿に入って壁に掛けられている時計を見ても時刻は同じだ。


(まさか、本当に寝坊をしたのか?)


 俺はまさか綺麗にオチをつけるつもりかと心配になり、辺りをキョロキョロ見渡す。すると、遠くから早足で近づいてくる幼馴染が見えた。


「……その、ごめんなさい」


「いや、大丈夫だが、寝坊か?」


「えと、その、少し支度に時間が掛かっちゃって……」


「なるほど。まぁ、女性は支度に時間が掛かるからな。じゃあ案内して──いだっ」


「あら、ごめんなさい?」


  明らかに故意であった。やや高めのヒールで俺のつま先を踏んづけたミーナはぷいっと振り向き、後ろを確認することなく歩きはじめる。遅刻したのは彼女の方、別に俺は悪いことをしていないはずだ。困惑するばかりである。やはりミーナは難しい、そう思いながら俺は慌てて追いかけるのであった。

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