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第45話 先輩教師の教え

(……さて、どうしようか)


 学長室から退室して、職員室へ向かう道すがら先ほどのベント伯からの言葉を思い出す。確かに連れていく生徒の親の許可を得ていない。ミコとレオとアマネの住所は職員室に戻れば分かる。これから訪問して許可を貰いにいくべきだろうか。いや、それも勝手にすれば学院に迷惑がかかるだろう。


 順番的には王立魔法研究所の許可が先決だ。──所長はエメリアということもあり、行けばなんとかなると思っていた。こちらも指摘された通り甘い考えだろう。この場合、俺個人で行くわけではなく、学院から向かうのだから学院から正式な書状なりが必要なはずだ。


 そして最後に俺自身の王都追放問題。俺一人であれば潜り込むことは可能だろう。しかし、その場合生徒の監督を誰がするかということになる。別行動し、生徒たちだけで行動させる?


(はぁ、そんなの無理に決まっている……)


 教師という仕事に就いたばかりだからというのは言い訳にはならない。大人として無責任なことをしようとしてしまった。そして現に生徒には既に次の休みに連れて行くと約束をしてしまっている。旅費は学院から出すから心配するな? 考えれば考えるほど自分の愚かさに嫌気が差す。


 気がつけば職員室の扉の前、兎にも角にも帰りの事務作業をしなければならない。俺は扉を開き、自分の席へと着く。


「ジェイド先生どうしたの?」


「ん? 何がだ?」


「いや、様子が変だけど……」


 そんなに俺は分かりやすいだろうか? 普段通りを取り繕ったはずだったが、隣の席の幼馴染は俺の異変に気付いたようだ。だが、これは自分が撒いた種だ。何から何までミーナに頼りっぱなしと言うのは良くない。


「いや、そうだな。慣れない仕事だから少し精神的に疲れているのかも知れないな」


「……ふーん、そう」


 俺は誤魔化すためにも少しおどけた調子でそう言う。ミーナはそれ以降は食い下がることなく自分の仕事に戻ったようだ。俺も事務作業に取り掛かる。


「じゃあ、お先失礼します。ジェイド先生もまた」


「あぁ、お疲れ様。また明日」


 しばらくして先に仕事が終わったようでミーナが席を離れた。俺は一度だけ首を回し、肩をほぐした後、先ほどからあまり進んでいない事務作業へと戻る。




 それからどれくらい時間が経っただろうか──。


「ジェイド先生、まだ仕事が残ってるのか?」


「……えぇ、まだ」


「そうか。だが根のつめすぎは良くない。今日はもう遅いし、明日に回せるなら回して今日はもう帰ってはどうだ?」


 スカーレットさんとの会話で反射的に時計に目を向ける。とうに夕飯を食べる時間を過ぎているようだ。教員も多くが退勤しており、残っているのは数人。


「……そうですね」


「……フ。最初から全て完璧に物事をこなせる人間などいない。あまり気を張りすぎるな。我々は支えあい、助け合うために組織として動いている。美味い食事をとって、暖かい風呂に入り、ゆっくり眠れ。人としての余裕がなくなった者が人を教えられると思うな、なんてな。この仕事を長く続けていると説教臭くなってかなわんな」


(人としての余裕がなくなったら教えられない、か。確かにその通りな気がするな……)


 スカーレットさんにもどうやら俺が凹んでいることがバレているようだ。もしかしたらベント伯から何か聞いているかも知れない。


 しかし、その気遣いと説教はストンと腑に落ちる。そしてベント伯にも言われた通り、一度冷静にこの件について考え、明朝自分の考えを伝えようと気持ちを切り替えることができた。


「スカーレット先生、ありがとうございます」


「フフ、いい顔に戻ったな。さ、早く家に帰って美味しいご飯を食べるといい」


「えぇ、そうします。けど、家に帰っても美味しいものはないので外で──」


「じゃあ前言を撤回しよう。今日は早く家に帰って、風呂に入って、寝るんだ。人間一食くらい食べなくたって死にはしない」


(えぇー……)


 先ほどと言っていることが真逆だ。そして今の今までは、空腹など感じなかったが少し気が緩んだのもあり、急に空腹感を感じてくる。できるなら外で夕飯を食べてから──。


「いいね?」


「……はい」


「では、お疲れ様」


「はい、お疲れ様です」


 と思ったのだが、有無を言わさぬその眼力に、つい返事を返してしまう。別にこの後食べて帰ってもバレはしないはずなのに、何故だかバレる気がした。俺は仕方なく帰り支度を素早く済まし、言われた通り早く寝てしまおうと家路を急ぐ。




「ん?」


 そして、まっすぐ家に帰り部屋の扉を開けようとしたところで違和感に気付く。


(手紙……?)


 ドアノブのすぐ横の隙間に四つ折りの紙が挟まっていた。手に取り、開けてみれば──。


『帰ってきたら教えて下さい。ミーナ』


 そう書いてあった。隣をチラリと覗く、明かりは点いているから部屋にはいるのだろう。


(なんだろうか?)


 俺は心当たりがないため、不思議に思いながらも手紙に従い、隣の部屋へと向かった。

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