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第43話 レオの意地

「で、だ。あとはレオだが……」


「……なんだよ」


「いや、なんだよじゃなくて、魔法を使ってみてくれないか?」


 そう、レオは昨日と態度を変えずに俺に対してずっとブスッとしていた。だが、いくら俺のことを嫌ってもいいが、魔法を使えるようにはなってもらいたい。そうアゼルに憧れると言ったこの少年に俺は好感を持ってしまったのだから。


「……使えないんだよ」


「いや、だから使えないのは分かるんだが、なんで使えないかを調べるためにも使ってみて──」


「だーかーら! まったくわかんねぇの!! 内魔力ってなんだよ! そんなのわかんねぇし、魔言? 普通の言葉と何が違うんだよ!」


 清清しいまでの逆ギレをされ、面食らう。


「え? レオ、お前内魔力操作されたことないのか?」


「……なんだそれ?」


 周りの生徒も初めて聞いたという顔だ。


(あれー? 教科書にも書いてあるよな? 内魔力を操作するには最初に外部から有識者が魔力操作をして教えてあげましょうって)


 そして、ここでもミコが手を挙げる。


「せんせー。内魔力を外部から操作できる先生はこの学院にはいないみたいですよー? 聞いたことありません」


「え? マジ?」


 俺は首を傾げる。他人の内魔力を操作するってそんなに特殊な技術だっけか、と。学生時代を思い出す。俺は出来た。アゼルも出来た。エメリアも出来た。ダーヴィッツさんも出来たし……。出来ない人は周りには見当たらなかった。


 だが、この時俺は失念していた。俺の学生時代の近しい者はみな現魔法界のトップ集団であるということに。


「そうだったのかぁ。まぁそれなら仕方ないか。それにしてもミコはよく勉強しているなぁ」


「はい! 召喚魔法のことが書いていないか、最後まで教科書は読んでいたので」


 すごく勤勉であった。だが残念ながら教科書に召喚魔法のことはまったく書かれていない。召喚魔法を是が否でも成功させ、一刻も早く普通の魔法も使えるようになって欲しい。


「と、んじゃレオ。お前の内魔力を操作するぞー。右手を出せ」


「……ん」


 レオは渋々、小さく手を差し出した。俺はそれをグッと自身の右手で握る。


「おぉー、先生やりますね。反抗的なレオと無理やり仲直りする作戦ですね」


「いやーけど、逆効果だろー。レオのやつすげーイヤそうな顔してるもん」


 キースとケルヴィンは余計なことを言ってくる。当然、手は止まっている。


「お前ら、無駄口を叩いてると宿題増やすからな?」


「「…………」」


 二人は黙って魔法陣の構成模写作業に戻った。


「さて、レオ始めるぞ」


「……はやくしろよ」


 内心はビビっているだろうに、最後まで反抗的な姿勢を崩さないレオに俺は少しだけ微笑ましくなる。だが、ここで笑うとまたレオは怒るだろうから無表情に留めておく。


 そして俺は自身の右手からレオの魔力回路を探る。


(ふむ、別段回路に問題なし、と)


 そして、魔力器官に到達する。


(魔力器官での内魔力量も特筆すべき点はないな)


「ん? レオどうした」


「……この感じきもちわりぃ」


「ハハハ、分かるか? 今通ってきたのが魔力回路だ。で、今モゾモゾしている場所が魔力器官だ。俺も人に動かされた時は気色悪かったよ。さて、レオ。この魔力器官にあるモゾモゾしているやつ、これが内魔力だ。これを言葉に乗せる感覚だ。言ってみ? 最初から成功させようなんて思わなくていいぞ」


「…………ウィンド」


 何も起こらなかった。そしていつもと変わらない結果にレオはプルプルと震えだし──。


「ほら、やっぱ無理じゃんか!! 俺には魔法なんか使え──」


「レオ。もう一度だ。魔力器官をちゃんと意識しろ」


 激昂するレオを俺は強めに(たしな)める。これはプライドの問題だ。レオは魔法を使えないことをカッコ悪いと思っているから投げ出そうとしている。だが、ここで逃げてしまえば一生魔法は使えない。俺は右手に力を入れ、逃げるなと手で言外に伝える。


「…………ッチ。ウィンド!!」


「魔力器官から回路に内魔力を移動させる感覚を教えるぞ? こうだ」


 俺は先ほどとは逆に魔力器官から回路にレオの内魔力を移動させる。


「…………」


 レオは黙って意識を内面に集中させているようだ。俺は何度か反復してみせる。


「……ウィンド」


「いいぞ、魔力器官から少し内魔力が動きかけた。その調子だ」


「……ウィンド!」




 こうして一時間ほど掛けただろうか。レオに限界が来ていた。


「おい、レオ今日はここまでにしないか? また明日から頑張ればいいじゃないか。いい線いってるし──」


「いやだ、できるまでやる」


 先ほどとは逆になっていた。即ち右手を強く握るのはレオ。そこには成功させるか倒れるかするまでやめないという強い意志が現れていた。


「…………」


 仕方なしに俺はそれを黙認する。教師であればここで止めるのが正解だろうが、極限ギリギリの中で何かを掴むことはよくある。少なくとも俺たちはそうであったし、ダーヴィッツさんもそんな時よく無茶に付き合ってくれていた。今思えば迷惑な生徒であったと思う。


 だが、がむしゃらに頑張る生徒と言うのは応援したくなる。先ほどまで反抗的だったレオは今まったくそんな素振りも見せず一心不乱に自分と戦っていた。


(若さってのは眩しいな)


 そして、そんなレオを見て、少しだけおっさんくさいことを思うのであった。


「ウィンドッ!!」


「……ん? おいレオ、今、お前──」

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