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第04話 エルムでの出会い

「お客さん、エルムに着いたよ。はい、大銀貨三枚ね」


「む。寝てしまっていたか。ありがとう」


 御者に行き先は伝えてあったため、目的である辺境伯の屋敷がある都市──エルムで起こされる。気付けば同乗者の姿は見えない。先に降りたのだろう。俺は荷物を担ぎ、御者にチップを含め、大銀貨四枚を渡す。御者はとても良い笑顔だ。


「ん~~~」


 随分長いこと馬車で揺られていたため、体のあちこちが痛む。日が暮れかかった馬車乗り場で大きく伸びをした。ここから馬車を乗り継いでパージ村へと言いたいところだが、残念ながらパージ村への馬車は存在しない。だが、エルムまで来ればパージ村は目と鼻の先で普通の人の足でも半日ほどだ。魔法をそれなりに(・・・・・)使えれば一時間もかからない。


(だが、わざわざ夜帰ることもないか)


 エルムは地方都市とは言え、辺境伯が住む街だ。ベント伯は内政にも秀でた人と聞いている。確かに街は豊かで治安も良さそうだ。ここなら質の良い宿があるだろうと考え、それを探すために街の人に話しかけた。


「あの、すみません。近くに宿はありませんか?」


「ん? あぁ、この通りをまっすぐ行って、二つ目の路地を右に進めばあるよ」


「ありがとうございます」


 人の良さそうなおじさんに教えてもらい、その通り歩くとすぐに宿は見つかった。予想通り外装は小奇麗で立派だ。俺は早速宿へ入る。


(うん、内装も良い。エルムという街は良い街だな)


 俺はかなり満足げな気持ちになりながら受け付けの女将らしき人に声を掛けた。


「こんばんは」


「あぁ、いらっしゃい。食事かい? 泊まりかい?」


「両方お願いしたいのですが、部屋は空いてますか?」


「あぁ、空いてるよ。泊まりは銀貨六枚で先払いだよ。食事は別会計だ」


「分かりました。お願いします」


 俺は皮の巾着袋から大銀貨一枚を取り出し、支払う。そして鍵とお釣りの銀貨四枚を受け取り──さっきからそわそわしている隣の少年にその内の一枚を渡した。


「重いけど、これを部屋まで運んでくれるかな?」


「はい!」


 こうして俺は荷物運びの少年に案内され、部屋へと向かう。少年は運び終えると、大きく頭を下げてきちんと挨拶をして出ていった。


(フ、魔法局の連中よりよっぽど礼儀正しく、仕事熱心だな)


 荷物は少ないと言ったが、それでも一人暮らしの引越し荷物だ。少年からすればとても重いものだろう。だが歩く際も、階段を昇る際も引きずることもなく、ふらふらしながらではあるが、決して落とさないよう、ぶつけないよう、配慮が見てとれた。銀貨一枚の価値は十分にあったと言える。


 荷物を置き、鍵を掛けると俺は良い気分のまま、一階にある酒場へと向かった。そこは宿泊客以外も大勢いるのだろう。随分賑わっており、空席はなさそうだ。俺は隅の方へ立ち、席が空くのを待つつもりであった。だが──。


「おや、すまないね。席が空いてなかったかい。ちょっと待っててくれるかい?」


「? はい」


 先ほど受付にいた女将さんが話しかけてきた。当然、待つつもりであったのだから俺は頷く。そして女将さんを目で追っていると、なにやら酒場内をうろうろし、誰かに話しかけているようだ。


(戻ってきたか。なんだったんだ?)


 女将さんの唐突な行動を不思議に思っていたが、答えはすぐに分かることとなる。


「ふふ、喜びな兄さん。相席の許可を貰ったよ。しかもとびきりの美人二人だ。悪さするんじゃないよ? まぁ兄さんは真面目そうだから大丈夫だろう。さぁ、こっちだ」


「え、あ、ありがとうござ──わ」


 女将さんは俺の手をむんずと掴むと、するすると客の間を通り抜け、奥の四人席へと案内した。そこには女性二人が向かい合って、食事をしていた。


(確かに綺麗だな)


 一人は自分よりやや若そうな子で、綺麗な栗色の髪をまっすぐ流し、クリクリとした可愛らしい目、鼻スジが高く、薄い唇とのバランスも良く、とても美しかった。もう一人は少し年上だろうか。赤い髪をロールアップにしており、目じりが少し吊り上がっている美人であった。


「兄さん、見惚れていないで座ったらどうだい」


「あ、あぁ、ありがとうございます」


 女将さんの一言で自分がボーっとつっ立っていることに気付き、栗色の髪の子の隣に慌てて腰掛ける。


「それじゃ、楽しんで。兄さんには悪さしないよう忠告しといたけど、あんたたちには逆だ。そろそろ嫁に行かなきゃいけないんだから積極的にね、カカカカ」


 どうやら女将さんはお節介焼きのタイプらしい。美人二人にそうアドバイスし、ウィンクするととても愉快そうに笑いながら去っていった。


「あー、えぇと、突然お邪魔してすみません」


「まったくデレイアさんにも困ったものだ。あぁ、いや勘違いしないでくれ。君が迷惑という話ではないぞ? まぁこれも何かの縁だ。気楽に喋りながら一緒に食事をしようじゃないか。な? ミーナ」


 俺がすこし気恥ずかしそうに話しかけると、赤髪の美人さんは気を遣ってそんなことを言ってくれた。第一印象はカッコいい姉御肌の美人さんだ。そして、赤髪の美人さんは俺の隣に座っている栗色の髪の美人──ミーナさんと言うらしい女性に話しかけた。だが、返事がない。俺は心配になり、隣のミーナさんの顔を控え目に覗く。

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