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第19話 幼馴染には全てお見通し

「では、以上で会議を終わりとする。また明日からよろしく頼む。では、解散」


「あー、その、ミーナ先生? どうですかな? この後昼食を取りながら教員生活についての相談などがあれば──」


「フロイド先生、ありがとうございます。でも申し訳ありません。午後から予定が入っていまして、急ぐので……」


「あぁ、そういうことであれば仕方ありませんな。ハハハハ、それではまた明日」


「はい、フロイド先生また」


 私が今日配られた新学期の授業指針などの冊子を鞄に入れているとフロイド先生から声が掛かった。だけど私はそれを断ってしまう。別に午後からの予定は嘘でもなんでもない。ただ、もしなかったとしても断ってしまったかも知れないけど。


「ん? ミーナ先生午後から予定があるのか?」


 反対にいるジェイドがさも他人事のようにそう聞いてくる。確かに本人には伝えていないが──。


「ジェイド先生との用事だからね? ほら、片付けて」


「お、おう?」


 私が早口にそう言うと、ジェイドは慌てて荷物を鞄に仕舞う。明日からの教科書や資料なども渡されたたため、かなりの量だ。しかし、ジェイドはすごく重たくなったであろう鞄をなんでもないようにひょいと担いでしまう。


「うし、行けるぞ? んで、怒らないで聞いて欲しいんだが……」


「なに?」


「俺、何か約束してましたっけ……?」


 どうやら午後からの約束を忘れてしまったと思って怖がっているみたいだ。なんだかこれじゃ本当に私が先生か母親みたいだ。もし本当に約束を忘れてたとしても私はそんなことで怒りは──うん、まぁそのときになってみないと分からないよね。


「してないからそんなに怖がらないでよ。そんなに私怖い?」


「はい」


 少しだけイラッとしたが、周りにはまだ他の先生方も残っている。笑顔、笑顔。


「ヒッ!?」


「なーに?」


「なんでもありません、なんでもありません」


 人の笑顔を見て悲鳴を上げるとは何事だろう。まったくジェイドってば本当に失礼。


「もうっ、冗談言えるじゃない。さっ、行くよ」


「いや、今のは冗談でも何でも──いえ、冗談でした。ハッハッハ、俺もついにジョークマスターになれたわけだ。さ、ミーナ先生行こう」


 そしてジェイドはそそくさと立ち上がり、逃げるように会議室を後にした。なぜ、私から誘っておいて、私が追いかけているのか。でもジェイドは会議室の扉のすぐ横で待っていてくれた。


「それでどこ行くんだ?」


「とりあえず学校を出よっか」


「ん」


 ジェイドはそれ以上追及することはなく、黙って私の隣を歩いてくれる。おどおどしたジェイドもジェイドらしくて良いけど、黙っている姿もこうミステリアスな雰囲気があって──。


(って、私、学校で何考えてるんだろ)


 つい気が緩んでしまった。まだ学校が始まってなくてよかった。こんなこと考えている姿を生徒たちには見せられないもんね。


 私は無人の校舎でキッと真剣な表情を作り直す。


「どうしたんだ? 変な顔して」


「変な顔じゃありません。教師らしい顔です」


「??? おかしなミーナ」


「ジェイド先生? 学校ではミーナ先生と呼んで下さい」


「はいはい、悪かったよミーナ先生。──ん」


 職員用の下駄箱で靴を履き替え、先に履き終えていたジェイドが扉を引いてくれる。こういうところは少しだけ男性として成長したみたい。十六年前だったら絶対、先に扉をくぐっておさえつけたもんね。


「今度はどうした? 急にニヤケはじめて」


「なんでもなーい。さっ、いこ?」


「? やっぱりミーナ先生のことは分からないな……」


 好きな人のことを考えると一喜一憂するものなんだよ、と教えてあげたい気もしたが、それは暫く先になるだろう。いや、もしかしたら一生言わないかも知れない。今はとにかくジェイドに再会できただけで幸せだから。


「じゃあジェイド行こうか」


 校門を出て、周りに人がいないのを確認してから普段の呼び方に戻す。やっぱりこっちの方がしっくりくる。


「あぁ、で、どこに行くんだ?」


「不動産屋さんに決まってるよ。まさか野宿するつもりだったの?」


「待て待て。なんで野宿って決めつける。それに俺が既にこちらに部屋を用意している可能性や、それこそ実家から通う可能性だって──」


「ちょうだい」


「……何を?」


「デレッサおばさんからの手紙」


「…………何で分かった?」


「フフ、この十六年の間、誰かさんは実家とまったく連絡を取っていなかったけど、私はデレッサさんとよくお茶を飲む仲だったの。こういうとき、きっとデレッサさんは私に色々とお使いを頼むと思ったの。はい」


 ジェイドの顔が固まったまま、恐ろしいものを見る目になる。相変わらず失礼な人だ。そして、渋々手紙を取り出した。私は封を切り、中身に目を通す。


「うん、やっぱりね」


「……なんて書いてあった?」


「ジェイドは家に帰ってきても、食事の支度の手伝いもしない、後片付けもまるで慣れていない。服もたたまないで脱ぎっぱなし、ベッドメイキング前のベッドに平気で寝ていた。衣食住に対してまったく頓着がない。実家ではこんなの面倒見れないからそっちで面倒見てあげてね、だって」


 ジェイドが今度は苦虫を噛み潰したような表情になる。だが全て事実のようだ。何も言い返してこない。


「というわけで、部屋を探しにいこ?」


「へーい」


 実は手紙の最後の文は『ミーナちゃんの部屋で面倒見てあげてね』だったが、流石にいきなり同棲は無理ですデレッサさん。そんな一つ飛ばしどころか、四つ飛ばしくらいの大胆なこと私に出来るわけがない。でも、きっとデレッサさんはそれが分かっていながらこうやって発破を掛けてくれたのだろう。

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