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第156話 作成会議は続くよ

「なるほど、お兄さんはこう言いたいわけだ。そんな通路が果たしてあるのかないのか、もしあるとしたらどこにあるのか、それを知っていそうな人に聞けばいい(・・・・・)って」


 俺がそれを言う前にネアの口からそんな言葉が出た。俺はそれに静かに頷く。


「……そういうことだ」


 ネアは分かっていてわざとらしく聞けばいいと言ったが、つまり城の内部事情に詳しい者を捕えて(・・・)さっさと案内してもらうという話だ。その意図を察したミーナは当然──。


「……私は反対です。その手段が人道的なものとは到底思えないからです」


 反対する。想定の範囲内だ。俺は用意しておいた答え──あくまで選択肢を増やすための一案だということを説明する。だが、ミーナはどこか憮然とした表情だ。


「いいじゃねぇか。どの道戦闘は避けられねぇよ。そんな重要な罪人をかっさらうのにまったく気付かれずに行くなんて不可能だろ? むしろ、もし秘密の通路があるなら、怪我人は最小限に済ませられるかも知れねぇぞ?」


 逆にヴァルは乗り気であり、この案が上手く行けばお互い(・・・)に被害が少ないと言う。ヴァルらしからぬ穏便な意見だとは思ったが、最後にニヤリと笑って、まぁ見つかって大暴れするのも一興だがと付け加るあたり、やはりヴァルはヴァルだ。


「ミーナ先生の意見もヴァルの意見も分かる。俺だってこちらの都合で乗り込んで、帝国の人間に怪我を負わせるようなことはしたくない。というわけでみんなからもなるべく多くの──」


「はーいはーい!」


「……はい、キューちゃん」


 案が欲しいと言おうとした俺の言葉を遮り、身を乗り出して手を挙げたのは我らが癒やしのマスコット、キューちゃんだ。ずっと頬を膨らまし、腕を組んで考え事をしていたようだが、どうやらキューちゃんなりに案を考えてくれていたらしい。そして指名するとふんすっと鼻息荒く発言をした。


「はいっ! お城の人と仲良くなって、ハカモリさんとめんかいして色々聞けばいいと思うのー!」


 そしたら誰も怪我しない、と。実に優しい案だ。確かに事情を説明してそれが叶うならそれに越したことはない。俺はキューちゃんの頭を撫でながらそんなことを思う。


「キューちゃん、素晴らしい案だ。考えてくれてありがとうな。その案も候補の一つとして入れておこう。ミーナ先生、ホワイトボードに書いておいてくれ」


「えっ、ホワイトボード?」


「あるよー。ちょっと待っててー」


 俺がノリでそう言うとミーナは戸惑った。だが、その隣にいたネアは軽やかに駆け出し、ホワイトボードをガラガラと引いてくる。ネアはなんというか本当に優秀だ。


「……じゃあ、私書くね」


 そしてミーナはミーナで生真面目にも俺に言われた通り、ホワイトボードに案を書いていく。ちょっぴり罪悪感が生まれた。


「はい」


「……ん、アマネ」


 ミーナが先ほどまで出た案を書き終えたのを見計らって、今度はアマネが手を上げた。すまし顔だが、微妙に目尻が笑っているあたり、ふざけた意見の可能性が高いが、聞くだけは聞いてみるべきだろう。


「内通者をお金で買収する。もちろんセンセイのポケットマネー」


「……一案として検討しよう。あと、学生がそんな手つきをしてはいけません」


「ん」


 アマネの言い方はなんであれ、その案自体は魅力的であった。ぶっちゃけて言えば金で解決できることであれば金で解決してしまいたい。ミーナの顔をチラリと覗けば、しらーっと知らん顔である。人道的とは言えないが、無理やり捕えるのと比べれば、というとこであろう。


「他にはどうだ?」


「ん、センセイ」


「なんだアマネ、補足でもあるのか?」


 俺が次の案を聞こうと話を振ろうとしたところでアマネが再度手を上げる。何事かと思ったらその上げた手で自分の頭をちょいちょいと指さしている。


「あぁ、それはアマネの頭だぞ」


「自分の意見をきちんと言った」


「……そうだな。アマネもありがとう。偉いぞー」


 どうやら撫でろということらしい。俺はアマネの頭を軽く撫でる。


「むふー」


 そしてアマネはドヤ顔でサムズアップ。何がしたいのやら。


「ミコは何かないか?」


「えっ、ミコですか? えぇーと……」


「あぁ、こういうのは若くて柔軟な発想が功を奏したりするからな。むしろとんでもない案とかの方がいいんだ」


 なんとなく負けた気持ちになったので、アマネは無視し、ミコに無理やり話を振ると、ミコは唸りながら必死に考え出そうとしてくれた。

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