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第149話 世界の半分

「はぁ……行ったか」


 俺はひとまず長い溜息を吐く。正直に言ってネアの相手は疲れる。常に気を張っていないと、こちらの懐に容易く潜り込んできてしまう気がして。


「ジェイド、あの子本当に何者なの?」


「……帝都の兵たちは誰も潜入に気付かなかったが、ネアには捕捉された。そのあとネアの家に案内されたんだが、立体の魔法陣が設置されていたんだ。あんなのは初めて見たよ。そして見惚れている間に魔法が発動。気付いたときには知らない場所に転移していた。五体満足でな。つまり魔法陣の中身は完璧な人体転移魔法だったというわけだ」


 俺は力なく笑いながら、改めてネアの異常性を説明する。ミーナはなんと言っていいか分からないようで固まっている。ヴァルはピクリと眉を動かし、僅かに興味を持ったようだ。


「ほぅ。人体転移か。あれは第四位階魔法に相当するからな。今までこの世界で見てきた魔法は第三位階魔法までだったのだから文字通り次元が違ってくるな」


 位階魔法? 聞き慣れない単語だ。ミーナと顔を見合わせる。どうやらミーナも知らない言葉のようだ。


「……この世界の外で定められている魔法の分類方法の一つだ。第一位階から順に単純操作、物理操作、時空操作、法則操作、概念操作までの五段階だな。まぁともかく人体、というか生物転移というのは単純に時空を越える魔法ではないということだ」


 そんな俺たちの顔を見て、ヴァルは面倒くさそうにそう説明をしてくれた。


「そんな魔法をあの子が?」


 ミーナの疑問は当然のものだろう。だが、この疑問に対しては──。


「いや、それは分からない。はぐらかされたよ。だが、その可能性を感じさせるほどには異質な子供だ。喋っていて、どちらが大人で子供かわからなくなるよ」


 既に俺が聞いたあとだ。だが、ネア自身が指摘した通り、どちらと答えてもその真偽が分からないのだからイヤにもなる。そしてそんな得体の知れない子供を──。


「ジェイドは信用しているの?」


「協力してもらうつもりだからここまで連れてきた、というところだ。……なんて言いながら自分自身おかしなことになってしまっていることは自覚している」


 頼ることに決めた自分自身の頭を疑わざるを得ない。だからこそ、ヴァルとミーナに冷静に現状を理解、把握してもらって必要なら俺の判断を正してほしいのだ。


「フンッ、面白いではないか。我はその設置魔法陣を見てみたくなったぞ。それに転移魔法陣であれば潜入も楽だしな。墓守もいつ処刑されるか分からんのだろう? なら、ぱっぱと案内してもらって助けに行けばよいではないか」


 ヴァルは口角を僅かに上げ、簡単にそんなことを言う。


「カルナヴァレルさん……。でも得体が知れないと言ってもまだ子供なんですから、捕まっているところまで連れていくのは──」


 ミーナは呆れた表情を浮かべ、ヴァルを(たしな)めようとする。だがヴァルは予想の斜め上の回答を放ってきた。


「ん? ちなみにエルも連れていくからな? となれば契約者のミコも連れていくことになるな」


「え?」


 ミーナの考えでは恐らく、俺、ミーナ、ヴァル、ネアあたりで墓守救出に向かうと考えていたのだろう。というか、俺がそう考えていた。だが、ヴァルの一言はそれを簡単に打ち砕いてしまった。


「ガッハッハ、そんな楽しそうなことを我がエル抜きですると思うか? 当然、フローネも連れていくぞ。まぁ安心しろ、エルとミコ、ついでにアマネも我が守ってやるわ」


 ご機嫌なヴァルは言葉をそう続ける。確かにそうなってしまえばアマネだけ別行動というのは難しいだろう。リスクは高いが、どうせ言い出したら聞かないんだ。ご機嫌を損ねる前に了承してしまうのが最善手、そう考え──。


「頼んだぞ、ヴァル。というわけでミーナ。俺たちは全員で墓守を助けに行く。ネアの正体や目的は不明だ。俺たちはそれを見極めつつ、生徒を守り、魔帝国相手に墓守を救出しにいく。やることは決まったな」


 結論を出す。やや強引に話をまとめた結果はと言えば──。


「ほんっと、男の人って勝手よね」


 ニコリと笑顔なミーナからのお小言だ。この世界の半分を敵に回してもいいと言わんばかりに大きな主語で(俺たち)を非難してきたのであった。

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