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第146話 未知との遭遇

「へー。今、捕まっている原始の魔王の墓守に用事があったんだ。それでわざわざ潜入をね。それでどうするの?」


 俺は特殊な事情──アマネの件は伏せながら、目的だけを簡潔に告げる。ネアはそこからは踏み込まず、どうしたいのかを尋ねてきた。当然その男に用があるのだから──。


「……墓守に死なれてもらっては困るな」


 そう答える。では、どうするか。


「だね、じゃあ助けにいかないと」


 ネアがシンプルな解答を口にする。今回の旅の難易度は、ある意味では下がり、ある意味で上がった。つまり、何の手がかりもない状況で墓守を見つけるという難題はクリアした。しかし、それを魔帝国から助け出すということは──。


「魔帝国に喧嘩を売るということか。流石に国に対して喧嘩を売るのは初めてだ。さて、どうしたもんかな……」


 墓守は魔帝国に喧嘩を売った重罪人。それを助けるということはそれと同義ということだ。俺はリスクを考え、ミーナや生徒たちを巻き込まない方法を思案しはじめる。しかしそんな俺の発言に目を丸くしたネアは──。


「初めてなの? じゃあボクも手伝ってあげるね」


 まるで近所におつかいにでも行く気軽さでそう言ったのだ。これには俺もポカンと口が開いてしまう。


「……共犯者扱いで殺されてもおかしくないんだぞ?」


「フフ、いーの、いーの。ボクの都合もあるんだから」


 俺は低い声でそう忠告し、ネアをジッと見定める。だがネアはとても少年とは思えない肝の座った態度で受け流す。


「さて、じゃあひとまず作戦会議と行こうか。ボクの家に行こう。えぇとお兄さんは何人で来てるんだっけ?」


「……俺を含め、七人だ」


「なら、入れるかな。あぁ、安心して一人暮らしだから」


 その歳でか? と言いかけるが別にネアに深入りするつもりもない。お互いの都合のため協力し合うだけだ。ならば都合のいい状況であるならそれでいい。


「……だが、どうや──」


「あぁ、そうか。お兄さんの友達もこっそり入れなきゃいけないのかー。まぁ、それもボクの家に来れば解決するから、とりあえずお兄さんついてきて」


 俺の言葉を待たず、ネアは一人で話を完結させると、するりと暗い路地の奥へと身を滑らしていく。


「ちょっと待──ったく」


 制止の言葉を聞く様子もないため、慌てて追いかける。見失わないように必死だ。と言うのもネアはわざと人目につきにくいであろう路地を選び、更に方向感覚をわざと狂わせようとしているのではないかという位、複雑に曲がりながら走ったのだ。


「はい、とーちゃく」


「……ここか?」


「そ。どぞどぞー」


 十分程走り回り、辿り着いた先には二人も入れば狭く感じるのではと思う大きさしかないボロのほったて小屋。念の為ここで合っているのか確認するもネアはこちらを振り向くこともせず、扉かどうか認識しるのも難しい扉をキィと開け、鼻歌混じりに入っていく。こんなところに七人も入れるわけが──。


「な……」


「どしたの、お兄さん?」


 ようやく顔だけをこちらに向けるネア。その奥──小屋の中はカラだった。正確に言えば外観から予想していたものと大差ない天井と壁と床があるだけだ。だが、その壁にネアが手を当てると、小屋全体に魔法陣が浮かび上がったのだ。設置魔法陣──それもこのサイズは七音節級か、それ以上だ。しかも平面ではなく立体と来ている。その魔法陣を解読してみようとサッと全体を眺めてみるが、ウィンダム王国の魔法とは言語や体系がまったく異なるため、一瞬では何の魔法かは分からない。だが、明らかに高度な魔法だ。こんな魔法陣を設置できる魔法師が魔帝国にはいるというのだ。


「……ネア、念の為──」


「え? なに?」


「なっ……」


 ネアにこの魔法陣はお前が設置したんじゃないよな、と聞こうとした瞬間──目の前の景色が変わった。つまり、この魔法陣は転移魔法陣だったというわけだ。それも人を転移させる。それを理解した瞬間、俺はまたしても間抜けな顔で固まってしまった。と言うのもウィンダム王国には人を転移させる魔法は存在しない。いや存在することはしており、研究されていたのだが転移させられた人間が重大な損傷を負い絶命に至るという事故がなくならないため、研究は中止されたのだ。


「…………」


 俺はペタペタと自分の身体を触り、損傷がないか注意深く確認していく。だがそんな俺を見て、ネアは──。


「アハハハハ! 大丈夫だよ。ボクは毎日この魔法陣を使ってるんだから。そっちには転移魔法がないんだっけ? あれ? モノだけなら転移できるんだっけ? アハハハ、というか、お兄さんどこの国の人だっけ?」


 腹を抱えて笑ったのだ。笑い事ではない。生死が賭かった問題なのだ。俺は何の説明もなしに人体に対する転移魔法を使ったネアに文句を言おうとする。


「ネア、笑い事じゃない。俺の国にも転移魔法はあるが、人体転移は禁止されている。成功例がなく、そのほとんどが死に至るからだ。いいか──」


「ふーん、じゃあウィンダム王国から来たわけだ」


「…………ハァ」


 驚きはしなかった。ネアは今しがた俺の言った状況から国を絞り込んだのだろう。その知識量が少年のそれであるかは考えないこととする。ネアの見た目に騙されてはいけない。それが魔帝国でまず学んだことである。

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