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第140話 極悪コンビ

「さて、バベル。艇内の状況を教えてくれ」


 一人で艇内の廊下を歩いているが、全ての設備を見てまわるより、損傷箇所や片付けるべき場所をバベルに聞いた方が早いと考え、そう問いかける。すぐに返事はあった。


『現在の艇内の状況はジェイドが一人仲間ハズレにされ、他の皆はラウンジで楽しく片付けをしている最中です』


「…………ありがとう」


 俺の問いかけにバベルはこれ以上ない程、現状を的確に説明してくれた。違う、俺が聞きたいのはそうじゃないと思ったが、二の句を継げなかった。傍から見ればこれは仲間ハズレ以外の何者でもないだろう。いや、慣れっこじゃないか……。


『ジェイド……申し訳ありません。言い過ぎました』


「いや、いいんだ……。事実だし」


 そして、わずかに押し黙ってしまったその間を察され、気を遣われる始末である。


『では話を戻しまして、ジェイドが本来聞きたいであろう飛空艇の損傷状況ですが、外観、内設備ともに損傷はまったくありません。ただ、どうしても固定できない備品があるため、それらは転がってしまっていますが、被害としては軽微でしょう。固定できない備品の多くは客室が主です』


「そうか、それは一安心だ」


 どうやらこの人工知能はかなり人の心の機微に(さと)いようだ。 場の状況や声の調子などから正確に意図を判断できてると言えよう。それゆえに精神的な攻撃方法も的確だったわけだ。いや、これ以上は言うまい。


「ヴァル、空の方はどうだ?」


 そして上空でバベルを引いているヴァルにも念の為、確認を取る。と言ってもこの急発進はヴァルが自ら起こしたのものなのだから問題はあるまい。


『ん? 至って快適だな』


「フ、そうか。それはなによりだ。予定通り、夜までに魔帝国まで着けそうか?」


『あー、そうだな。本気を出せば一分。のんびり行けばそれくらいか』


 一分? なんだそれは? とてつもない速度なのか、はたまた裏技なのか。いや、恐らく裏技であろう。次元を行き交うことのできるヴァルであれば単純な距離の移動などあってないようなものというわけだ。となれば当然──。


「頼むから本気を出さないでくれ。この空の旅を生徒たちは楽しみにしているみたいだからな」


『フ。分かっとるわ。我もそこまで無粋ではない。ま、半日バベルを吊るして、飛び続けるのは多少疲れるがな?』


 のんびり行ってくれと頼むが、それはつまりその分、ヴァルに負担を掛けるということである。半笑いでイヤミを言われてしまうが、冗談であろう。ならば俺も冗談で返すまで。


「数分なら、代わるぞ?」


 バベルの単独飛行モード。それはつまり、魔力供給源を俺が代わるということ。全力で魔力器官をぶん回して高度を維持しつづけることが可能なのは数分であろう。まぁしかし、現実的に考えて数分代わったところでヴァルの疲れは取れないであろうからこの提案は──。


『では、我が疲れたタイミングで代わってもらおう』


 当然、辞退され──。


「え?」


『ん? だから我が疲れたら数分間、貴様がバベルを飛ばせと言っているんだ。何だ? 自分から言い出したのにまさか嘘でしたとでも言うつもりか?』


 甘かった。これで無様な姿を晒してしまったら生徒たちからの信頼もなくなるであろう。つまり俺は数分間、本気を出してバベルを飛ばし続けなくてはいけなくなってしまったようだ。まったくバベルといい、ヴァルといい、意地の悪い連中だ。


『カルナヴァレル艇長、今、ジェイドから何やら悪意のある波動を検知しました』


『フン、大方心の中で我とバベルにいじめられたとグチグチ文句を言っているのであろう』


 え、なにこのコンビ。すごくイヤ。


「…………客室片付けてきます」


 というわけで敵前逃亡。いや、二人とも声だけだからどこにいても逃げられないんだけどね。だが、幸いそれ以上二人は追撃してくることはなく、俺は一人客室を回って散らかった備品を元の位置に戻す作業に勤しむのであった。

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