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第131話 最高のワンツーならず

(あれはあれでなんだかプレッシャーだな)


 サーシャはミコのポジションへと入ったが、宣言通りプレイする気などなかった。腕を組み、まっすぐ立って相手を睨んでいるだけ。だが、その威圧感たるや、まるで動かないのに抜き去ることができないような──。


「あっ……」


 と思ったが相手は普通にサーシャの横を駆け抜けていった。それはそうだ。


「あはは……本当にサーシャちゃん動かないですね」


「まぁ、分かってたことだ。だが大丈夫。うちにはキューちゃんがいる」


 キューちゃんの体力は無限だ。二十分くらいの全力疾走では息切れ一つしない。さらにボディバランス、反射神経、技術習得速度もずば抜けていた。流石はドラゴンである。うちの自慢のエースだ。


「えへへー。もーらいっと」


「チクショウ! ちょこまかと動き回りやがって!」


 度々前線でボールを奪われてイライラしたアーノルドが叫ぶ。残り時間は一分だ。ラストワンプレーかツープレーだろう。


「キュウべぇ」


「ん? はーい」


 珍しくアマネがボールを要求した。キューちゃんから速く鋭いグラウンダーのパスがアマネに通る。


「最後の授業だ。カケル……見ててくれ。うん、兄ちゃん」


 そして何やらブツブツと独り言を言いながらゆっくりとボールを運び出した。


「ケルヴィン」


 アマネは敵のディフェンダーをひきつけるわけでも、かわすわけでもなくケルヴィンへショートパスを出した。そして、すぐに戻せと手で合図をする。だがケルヴィンは──。


「レオ!!」


 アマネの要求などまるっきり無視して前線にボールを送った。当然である。特進クラスは点を取ろうと躍起になっており、守備がスカスカになっているのだ。つまりカウンターのチャンスということ。ケルヴィンの至極冷静な判断に俺は大きく頷く。


「あっ……、私のワンツー……」


 一方アマネは胸を押さえながら、うな垂れる。いや、前線のフォローに行きなさい? レオはと言えば既に一人選手を抜き去り、ゴール直前だ。


「クソチビがぁ!! かかってこいやっ!!」


「うるせーよ、でくの坊。これで終わりだよ」


 レオは大きく右足を振りかぶり──空振る。キックフェイントだ。このフェイントでグレゴラスは僅かに前のめりに重心を移動させてしまい動けなくなってしまう。その一瞬を見逃さず左足でキック。サッカー大好きおじさんたちから教えてもらったオシャレな蹴り方、ラボーナだ。


 ボールはふわりと浮き、そして──。


「ナイスパスだ」


 走りこんだヒューリッツの頭にピタリと合う。


 ピピーッ。


 大きく笛の音が鳴り、追加得点と試合終了の宣言がされる。


「勝った……。勝ったぞ!! みんなよくやった!!」


 なるほど、スカーレットさんが監督にハマる理由が分かった。これは嬉しい。っと──。


「──コホン。すまない、ミコ。ちょっと整列して挨拶だけしてくる。そしたらすぐに保健室に行こう」


「はーい」


 わざとらしく咳払いをする。ミコの前だというのについ大人げなくはしゃいでしまった。そんな俺をニコニコと見つめるミコ。


(まったくどっちが監督者か分からないな……)


 そして俺はやはりニヤけた顔でピッチへと駆け寄り、審判に従い整列をし、挨拶をすまし、皆と一緒にベンチに戻る。


「よーし、みんなよくやったぞ! 俺はミコを保健室に連れてく。次の試合も──」


「私、もう出ないから」


「へ? あ、おーいサーシャさーん? おーい……。やれやれ。ありがとな!」


 サーシャは勝利の喜びを分かち合う素振りなど見せず、そして俺の声など届いていないとばかりにスタスタと去っていく。ありがとうと言ったとき、ピクリと止まったのだから聞こえてはいるだろう。


「んーー、てことは勝ち逃げってやつだな」


 そんな俺の横で大きく伸びをしながらレオがそう呟く。そこにやってきたのは──。


「フンッ、赤チビやるじゃねぇが」


「おぅ、グレゴリもまぁまぁだったが、まだまだだな」


「チッ、誰がグレゴリだ。たかが一回まぐれで勝ったくらいでいい気になりやがって。おい、来年はリベンジしてやるから精々首を洗って待ってろ」


「ふんっ、上等だ」


 グレゴラスだ。そして、まるで決勝戦を終えたかのような雰囲気でお互いの胸をトンッと叩く。あえて教師が水を差すようなことを言ってはいけないと思い黙っているが、これは一回戦だ。


 そしてこちらでは──。


「ヒューリッツ……。今回は俺の負けだ。だが魔法では負けないからな」


「ん? あぁ、魔法でも負ける気はないぞ? 来年はこのメンバーで特進クラスに進む」


「なっ……!? ッフン。言ってろ」


 クーリッツが最後までヒューリッツに対してつっかかっていた。恐らくこれも兄弟愛としての一つの形なのだろう。そしてヒューリッツの後半のセリフはあえて聞かなかったことにする。


「……あれ、私全然活躍していない?」


「……あれ、ボクもだ」


 アマネは不思議そうな顔で呟く。お前は終始ふざけてしかいなかったぞ。キースに関しては……うん、何度かスーパーセーブがあった気がする。うんうん。


「えへへー、エルは大活躍~!!」


「キューちゃんはやっぱりすごかったな。けど、一番頑張ったのはケルヴィンだな。難しいポジションで周りを見ながらよく動いてくれた」


「……へへ」


 俺はキューちゃんの頭を撫で、そして生徒たちを一人ひとりを労う。みんな汗だくで泥だらけだが、顔はキラキラと輝いていた。


「さて、じゃあ今日は解散だ。お疲れさん。みんなゆっくり休んでくれ。ミコ、待たせてすまなかったな。お前も頑張ったな」


「えへへ、最後まで出たかったけど、サーシャちゃんが出てくれたからこれはこれで良かったと思いますっ」


「……フ、ミコは考え方が大人だな。さて、んじゃ行くぞ」


「わっ……」


「エルもいくー!」


「あぁ、いいぞ」


 こうして俺はミコを抱え、キューちゃんとともに保健室へと向かうのであった。


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