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第120話 窓際の君

 さて、休み明けからは教師モードである。学生を教えてるときは平穏そのものだ。なんとなくみんなの性格も掴んできた。


「おい、キース? ケルヴィン? 宿題はどうした?」


「実家の手伝いが忙しくて……」


「ハハ、右に同じぃ」


 この二人は興味があることには熱心だ。即ち鍛冶と物づくり、いやあとイタズラか。反面それ以外のものには全力で力を抜く。魔法にも興味があるはずなのに嘆かわしいことだ。


「キース? お前は魔工鍛冶師になりたいんじゃないのか? ケルヴィンは魔工技師に」


「……えぇ」


「うん」


 俺が説教モードに入ってると分かったのだろう。二人はやや気まずそうに視線を泳がせながら返事を返す。


「魔法が使えないやつがなれるわけないよな? んでもうぶっちゃけ進級試験まで時間がない。お前らの自主性を尊重していたが、そんな余裕がなくなってきてる。あれを見ろ」


 俺はそう言って、窓際の君を指をさす。


「なに、指ささないで。ウザイ」


 サーシャは酷く冷たい視線と言葉を投げ返し、そう吐き捨てると再び窓の方を向いてしまう。


「な? 先生はあの子もなんとかしなきゃいけないんだ。ぶっちゃけ会話が成り立つお前らのことは放っておいてサーシャの問題に取り掛かりたいくらいだ。だから今日中に課題魔法三つともクリアしてくれ」


 俺はガックリと肩を落とし、目の前の二人にそう零す。


「先生も大変ですね。分かりました。ボクたちの本気を見せましょう!」


「そうだね。分かったよ、先生。俺も本気出す」


「よく言ってくれた。二人ともありがとう!」


 だがそんな二人にも思いは通じるものだ。ガシッと三人で肩を組む。


「バッカみたい」


「「「…………」」」


 だが、そんな俺たちをサーシャはやはり冷たい言葉でなじるのであった。しかし、今は一つずつ解決していかねばなるまい。サーシャの言葉にグッと堪え、キースとケルヴィンへ言葉を掛ける。


「というわけで、お前たち二人は無理やり魔法を発動させる訓練を行うぞー。魔力器官が疲労してぶっ倒れるが心配するなー。先生も何度もぶっ倒れながら強くなったんだぞー。男の子なら平気だ。よし、みんな魔法場に移るぞー」


「「え?」」


 途端に蒼い顔をする二人。二人は目を合わせ頷くと逃げようとした。当然、逃亡など許すはずがない。俺は両手で二人の首根っこを捕まえ、ずるずると引きずっていく。


「横暴ですよ! これは立派な体罰であり、ボクの家族から──」


「先生、今日は腹痛いから、明日からにしません? それに帰ってから父さんの手伝いを──」


「ちなみにご両親からは許可を頂いているぞー。先生が最初に学長から教わったことは誓約書をとってくること、だ。ほれ、分かったらいくぞー」


 そして魔法場の片隅では努力クラスの二人が俺の魔力操作により無理やり魔法を発動させ、倒れては発動させを繰り返す地獄絵図が繰り広げられ、普段はイロモノを見るように眺めてくる他のクラスや学年の生徒も今日ばかりはこちらに視線を向けようとはしなかった。




「よし、キースとケルヴィンは休憩だ」


「ウ……ウィンド……」


「ア……ア、ア、ア、アンテ……」


 二人が意識を朦朧とさせながらうわごとの様に魔言を呟き、何度目かのダウンをしたところで休憩に入る。そのとき、スッと近寄ってくる一つの影があった。そう──。


「先生! 僕にも同じことをして下さいっ!!」


 ヒューリッツだ。彼は瞳をメラメラと燃やし、俺の眼前まで詰め寄ってくる。


「お、おう。とりあえず分かったから、一歩後ろに下がろうか?」


 俺がそう言うとヒューリッツは鼻息荒く、視線をまっすぐ向けたまま、それでも一歩下がってくれた。そして俺はどうしたものか考えあぐねる。


(さて、ヒューリッツの魔力回路は数も少なく、そして細い。魔力器官も人並みとは言えないしな。無理やり内魔力を操作して発動させたところで負担が大きすぎるよなぁ)


 魔力のコントロールができれば魔力器官や魔力回路に過度な負担を掛けず、今の自分の状態にあった魔法を使えるのだが、コントロールとは出力規模が十分にあって初めてできるものである。最小ギリギリの出力しか出せないヒューリッツは常に全力を出さなければ発動すらできないだろう。


「…………ヒューリッツ選べ。魔力回路と魔力器官に負荷をかけない程度に魔力を通して、ギリギリまでゆっくり鍛えるコースと、めちゃめちゃ痛いし、めちゃめちゃ気持ち悪くなるけど、最速で鍛える──」


「後者でお願いします」


 俺は人差し指と中指を立て、二通りの訓練方法を提案するがヒューリッツは迷うことなく後者を選んだ。その瞳は一切ブレない。


「……そうだな。まぁヒューリッツならそう言うよな。だが、キースやケルヴィンの比じゃないぞ? それでもと言うなら一度試してみよう」


「お願いします」


 どうやら決意は固いようだ。真面目なヒューリッツだ。魔法が使えないことに劣等感や悩みを抱えていたことだろう。俺はその意を汲み、ヒューリッツの決断を尊重する。


「分かった。なら移動しよう。この訓練の光景は…………見られると訴えられる可能性があるからな」


 最後の部分は小声でそう言うと、他の生徒たちも連れて、魔法場の個室部分に移動する。


「よーし、じゃあ始めるぞ。ヒューリッツ手を出せ」


「はい」


 ヒューリッツは手をまっすぐ差し出してくる。俺はその手を握り、真剣な表情で──。


「この訓練を選んだことを撤回してもいいからな? 本気でツライぞ?」


 そう告げる。だが、ヒューリッツは最後まで恐れや怯えを見せることなく、静かに頷いた。


「いいんちょー、がんばれー!」


 キューちゃんやミコ、レオ、フラフラになるまで訓練をしていたキースやケルヴィンがヒューリッツを応援する。


「あっ、そうだ。レオ、これ持っててくれ」


 そして俺はハタと思い出し、備品の棚を漁る。


「ん? 袋? なにするんだ?」


 俺はそこから小さめのゴミ袋を取り出し、レオに渡す。何かって? そりゃ当然──。


「ヒューリッツの口から魔言と一緒に飛び出すであろうキラキラを受け止める袋だ。頼んだぞ」

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