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第114話 偶然の出会い

「あら、なーに? 食べてるところをジッと見られると少し恥ずかしいのだけど……」


「ふむ。美味い。中々新鮮な肉を使っているようだ。だが、熟成した肉もまたそれはそれで美味いんだがな。この世界にエイジドミートの概念や手法があるかは知らんが」


 二人はこの異様な状況でもマイペースに食べ続けた。食事のペースが緩まることはない。時折ワインを口に含むくらいだ。


「「ご馳走様でした」」


 そして平らげた。あれだけあった肉の山を全て食べきったのだ。俺は自然と拍手をしてしまった。ミーナも呆然としながら同じように手を叩く。そして従業員、周りのお客さんまで──。


「ちょっと、みなさん大袈裟ですよ?」


 そんな周りの反応にフローネさんは恥ずかしそうだ。一方、ヴァルはまったく気にすることなく、ソファーにドカリと身を沈めていた。


 そしてそのあとも周囲からのチラチラとした視線は止むことがなく、なんとなく落ち着かないまま食事を終え、そそくさとレストランを後にするのであった。


「さて、次は成獣コーナーを見てまわっていいか?」


「フフ、どうぞ。ジェイドのお目当てはそれだもんね」


 赤ちゃんたちは可愛かった。だが、やはりデカくて強くてこその魔獣だ。了承してくれたミーナの手を引き、俺はウキウキと成獣コーナーへと向かった。ヴァルとフローネさんも二人して笑いあったあと、俺たちの後ろをゆっくりとついてくる。


 だが、その道中とんでもないトラブルが発生したのだ。


「あれ? センセイ?」


「あ、せんせー! それにパパさんとママさんも!」


「パパー、ママー!!」


 バッタリとアマネ、ミコ、キューちゃんと出会ったのだ。そこまでは良い。だが三人の視線は俺とミーナの手元に──。


「よ、よう? 奇遇だな」


 俺は素早く手を離し、誤魔化すように薄ら笑いを浮かべる。声は……うん、大丈夫。きっと普段通り出せたはずだ。


「へー」


「わっ、わっ」


「なになにー!?」


 アマネは全て見透かしたように口元を歪め、ミコは両手を口に当て驚く。キューちゃんだけは何も分かっていないようで、ミコとアマネの間をウロウロしている。そんなキューちゃんの元へフローネさんが近づいた。


「あら、エルたちも偶然ね~。フフ、ママたちはね、今デート中なの。いいでしょー?」


「えぇぇデート!? ……んー? デート?」


 フローネさんはキューちゃんにそう自慢した。自慢されたキューちゃんはとても良いリアクションをするが、どうやら勢いで驚いてみただけで、デートという言葉にピンときていないようだ。


「そ、好きな異性と一緒に過ごすことをデートって言うの。ママはパパのことが好きだし、パパもママのことが……」


 フローネさんは青空教室で娘に恋愛教育を施しはじめた。そして最後の部分でチラリとヴァルの方を見る。


「………………我は家族を愛しているからな」


 ヴァルはその期待の眼差しに絶妙に濁しながらそう答える。


「えぇー!! エルもデートするー!!」


「フフ、ざんねーん。パパはママのものですー」


 キューちゃんは駄々をこねて、フローネさんにしがみつこうとする。だが、フローネさんはひょいっとそれを避け、ヴァルに抱きつく。なんだこれ。


「うぅー…………じゃあせんせでいい」


 悔しそうに下唇を噛むキューちゃん。キョロキョロして異性を探した結果俺しかいなかったための妥協案だろう。可愛いものだ。


「あぁ、じゃあキューちゃんは俺と──」


「ダメですー。ジェイくんはミーナちゃんのものですー」


 デートしようかと言う前にフローネさんに阻まれた。下唇を噛み、睨みつけるキューちゃん。余裕の笑みで受け流すフローネさん。いやだからこれなに。


「センセイ、ミーナ先生のものになったんですね、おめでとう」


「あっ、やっぱりそうだったんですね。せんせーおめでとうございます!」


 そして、そんな微笑ましい母娘喧嘩を聞いていたアマネとミコが何やらお祝いの言葉を発しはじめる。


「……いや、その、そういうんじゃないぞ? ほらアマネの言ってた例の作戦の予行練習だ」


 まぁその言葉はつまり、俺とミーナが恋人になったからおめでとうということなのだろう。だが、残念ながらこれはあくまでフリなのだ。ことが大きくなる前に二人にそう訂正をいれる。


「まぁ、そんなことだろうと思っていました。センセイヘタレですから」


「ちょっと、アマネちゃん。言い過ぎだよ?」


 アマネは相変わらずニヒルな笑みを浮かべてあっさりとそう返した。その言葉はグサリと心に深く突き刺さった。とても教師に対する言葉ではないのに、なぜか怒れなかった。ミコの気遣いが今は嬉しい。


「はい、あんまり大人をからかわないの。それにしてもキューちゃん上手に喋れるようになってきたね」


 成り行きを静かに見つめていたミーナがやんわりと二人に注意する。そして話題を変えるべくキューちゃんの方を振り向くが──。


(ん? そう言えば……)


 ついこの間までは赤ちゃん言葉だったのが今ははっきりとした発音になっている。


「うん! 頑張った! だってエルは赤ちゃんじゃないもん!」


 どうやら赤ちゃん言葉を使っていたことに気付いて、必死に練習したようだ。実に可愛らしい。胸を張って自慢げなキューちゃん。ミーナはトコトコと近づき、しゃがむと──。


「そっかそっか、キューちゃん頑張ったね。偉い偉い」


「えへへー」


 頭をサラサラと撫でる。キューちゃんはとても嬉しそうだ。


「うん、キューべぇ偉い偉い」


「うんうん、キューちゃん一緒に頑張ったもんね?」


 そしてミーナの目論見通り、注目はキューちゃんへと移り、アマネとミコも褒め散らかす。ここは俺も褒めた方がいいだろう。

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