第97話
ソイツの体は真っ赤で船の至るところに体を絡ませている。強力な吸盤がしっかりと掴んで離さない。見た目は完璧タコだ。
「!!!!!!」
「リリス、雑魚を頼む。2人にも伝えてくれ!」
「ん!」
「!!!!!」
《じゃあ行くよ。今回は一部だから君の精神に僕は干渉しないよ!》
《ありがたい!》
俺が敵意を向けたことで俺を敵と判断した魔物は触手を俺に向ける。
「ふふっ、ふはははは。魔力が溢れてくるようだ。無限の魔力でも抑えられないとはな!」
「!!!!!」
ガキンッ!
「ほう、硬いな」
大太刀と打ち合った触手は金属のような音を鳴らす。見た目的には普通のタコだ。恐らくはスキルだな。
「!!!!!」
驚くことに魔物の眼球と眼球の間に亀裂が入ったかと思うとパックリと割れてその中からなにやら液体が飛んできた。
「くそっ、粘液か!」
身体中に絡み付く粘液は見た目よりも重く、動きにくい。
「!!!!!」
「捕まってたまるか!」
取り囲む触手は俺を逃がすつもりはないらしい。ならば斬ればいいだけのことだ!
「!!!!!」
「ふっ、『絶炎ノ矛』!」
渦巻く炎が迫り来る触手を退ける。しかしそれでは足りない。災いの種は斬る!
「!!!!!」
「はっ『雷鳴ノ瞬撃』!」
十万kmを越えるスピードでの攻撃は只でさえとんでもない威力を誇る『絶炎ノ矛』を助長し、あの硬い触手を数本まとめて切り落とした。
「!!!!!」
大太刀だけでなく俺全体を包む絶炎は触れる者全てを焼き斬る。
「このスキルは俺とある人の力で作ったんだ。とくと味わってくれよ『絶炎ノ矛』!」
魔物へと放つ魔力の塊に絶炎が渦巻く。当然着弾地点は弾けとぶ魔力のせいで予想以上のダメージを与えてくれた。
《なあ裏背、お前のおかげか滅茶苦茶魔力の操作が楽だ。それに各身体能力も上がってる気がする》
《それは良かった。なら僕は休んでおくよ》
《休む?》
《当然でしょ。それは僕の力で、力が自身である僕は自分を削っているのと同じなんだからさ~》
《確かに…》
《と言うことでおやすみ~》
そう言いながらも体が薄れて消えていく裏背。そして衝撃から立ち直った魔物は俺を一瞥すると海へ戻っていった。
「リリス、そっちはどうだ?」
「まずまずね。この船の人は皆戦えたらしくって加勢してくれてるけど……」
「そうか。なら俺達も行くぞ!」
「うん!」
飛来してくる何者かを切り捨てるとリリスを連れて甲板を走る。周囲で直剣を振るう優司達2人は初めての実戦なのに全く緊張していない。
「お前、子供は置いてきたが良かったな!?」
「はい。危険ですから、」
バンッ!
人間であるにも関わらず兄ちゃんは釘バットを振るだけで飛んでくる魔物を殴り潰す。
「お前もやるな。向こうのメガネもやるみたいだが、」
「そうなんですか。お互い、頑張りましょうね!」
「けっ、いらねえ心配だな!」
客間の扉の前では剣を持った少年が、友達なのであろう少女を守りながら魔物と戦っていた。加勢するかな、
「リリス、あの子供達を助けてやらないか?」
「私もそう思ってた!」
ガキンッ!
振り下ろされた鋏を弾き、関節の部分を切り落とす。蟹型の魔物は怯むと2,3歩引き下がる。
「あの時の…」
「こんな時は助け合いだ。お前の友達は戦えるのか?」
「僕だけです」
「そうか。なら俺達が防いでやるから避難させてやれ!」
「は、はい!」
「リリス行くぞ!」
「うん!」
「!!!!!!!」
海から次々と飛んでくる魚達は炎を纏っていたり鋭い牙を煌めかせたりと充分な殺傷能力を持っていた。
「はっ!」
「やっ!」
「やるなあリリス、」
「当然よ!」
ガキンッ!ガキンッ!
「!!!!!!」
迫り来る魔物を切り裂くと俺達を囲む蟹型達へと刃を向ける。
「炎魔法・純白炎。耐えられるモノなら耐えてみろ!」
「!!!!!!」
白い炎は俺の腕を伝いながら手中へと集中する。そして大太刀へと向かうとその日緋色の輝きが白い輝きへと変わる。
「お前たちは俺の昼食な、」
ブシュッ!
温度の高い刃は容易くその甲羅を切り裂き、炎は中の肉を丁度良い火加減で焼き斬った。
「なあリリス、これ食えないかな?」
「残念。猛毒入りだよ、」
「ぐっ、」
リリスへと忍び寄る蟹型が一匹。当の本人は正面の他の蟹型に気をとられ気付いていない。
「!!!!!!」
「っ!」
いつの間にか離れていたせいでここからは間に合わない。2度と同じことはしない。
「雷魔法・雷槍」
指から放たれた太さ2センチ未満の雷槍はリリスへと向けられた鋏を撃ち抜き甲板に縫い止める。
「リョ、リョウ…」
「気を付けなきゃダメだろ。お前を失ったら俺はどうすればいいんだよ!」
「ゴメン…」
「無事で良かった。もう離れるなよ、」
「うん、」
使い物にならなくなった鋏を自らの鋏で切り落とした蟹型は敵意を改めて俺に向ける。
「!!!!!!」
「わかってるだろうな。していいこととダメなことがあるんだよ」
炎に纏われた拳で睨み付ける眼球を握り潰すと声にならない悲鳴をあげる蟹型の甲羅を殴りつける。
グシャ…
「!!…!……」
「呆気ないな、」
右手に絡み付くカニミソは炎の熱で蒸発して既に残っていない。やはり絶炎まで使う必要はないな。
「流石だね、」
「まあな。それよりも多いな…炎魔法・炎世界」
「だね。やっぱりリーダーがいるのかな?」
「かもな。早いとこ倒さなければな、」
「どういうこと?」
「狙ってるのか偶然なのか知らないが、船への攻撃も多いようだ。沈没したら洒落にならないからな、」
「だね。守りきらなきゃ!」
海を見下ろすと真っ青な水面の下にウヨウヨと魚達が待ち構えている。そしてそんな中から跳び跳ねた者がいた。
「!!!!!!」
「きゃっ!」
「大丈夫か?」
「うん。ちょっと痛かったけど…」
跳び跳ねた魔物は少しだがリリスの二の腕を掠めて甲板へと落ちる。魔物は炎に包まれていて、当たった二の腕自体は肌の部分まで炎により焼き焦がされていた。その傷は深く痛いだろう。
「大丈夫か。本当に、痛いだろ?」
「だ、大丈夫。これくらい…」
「無理するな。精霊魔法・蘇生」
裏背のおかげで強化された魔力と操作性の上がった精霊魔法をもってしてもやはり傷は治りきらない。
「ありがとう、温かいよ…」
「立てるか?」
「うん、」
「優司、俺達は一旦中へ戻る!」
「はい!」
リリスに肩を貸しながら歩くこと自室まで。椅子へ腰を下ろした頃には血が既に手を伝って滴っていた。
「水魔法・流水。どうだ、痛むか?」
「だ、大丈夫…」
「ん、」
「ぃっ!」
「今回火傷は治療したが抉られた部分は蘇生しきれていない。数日は動かすなよ」
「うん…」
「さ、これで終わりだ。俺は戻る。くれぐれも出てくるなよ!」
「………」
「分かったな!?」
「ん……」
うつ向きながら小さな声で返事をした。
それを聞き取ると俺は部屋を出て…、
「氷魔法・氷結」
扉のドアノブから隙間にかけてを氷で固め動かないようにする。ヒドいかもしれないが今回だけは譲れない。手傷を負った者がいては邪魔になるだけだ。
「…………」
外への扉まで来ると再び凍り付いた扉を一瞥してからドアノブへ手を掛ける。心配じゃないわけじゃないが出なければ沈むのだから。




