第96話
俺に抱き着くリリスを1度隣へと下ろすと取り敢えず落ち着いた。
「けれどそれはまた今度だ。今日はもう遅いからなっ!」
「んー、分かったよ!」
「ふふっ、聞き分けがいいじゃないか」
「やっ、リョウ~」
頭をポンポンと触るとコテンとベッドに体を預けた。寝る前にリリスの笑顔を見れただけで俺は満足だ。
「なんだ、今日はやけに積極的だな?」
「だって朝からずっとリョウに会えなかったでしょ?」
「会いたかった、か?」
「うん!」
「俺もだ!」
「リョウ~」
1度寝転んだところをもう1度起き上がると、リリスを抱き締めながら再びベッドへと倒れる。
「今日は一緒に寝ようか?」
「うん!」
と言うことで俺達2人。今日は興奮冷めやらぬ間に眠りにつけた。
「ん!」
朝起きたらこれまで以上にリリスの顔が近い。そう言えば昨日は2人で抱きついてたんだったかな?
「んぅ…、リョウ?」
「起きたか。おはよう、」
「うんぅ、おはようリョウ~……わっ!」
「ふっ、驚きすぎだ!」
「だって~」
目を開けた瞬間俺が目の前にいてリリスはコロッとベッドから落ちてしまった。手をとり助け起こすとベッドの上へと這い上がってきた。
「忘れてたのか?」
「忘れてないし。ちょっと驚いただけだし!」
「ふっ、早く着替えてこいよ」
「出ちゃうの?」
「ん、俺に残れと?」
「そうだけど……」
「はぁ、なら後ろ向いててやるし早く着替えろよ」
「うん!」
なんと云うか本当に1人が苦手なんだなあ。とは言えこのタイミングは少しキツいぞ…。
《やあ君、おはよう!》
《あぁ、おはよう。お前って普段何処にいるんだ?》
《君の中!》
《………》
《とは言えあのリリスって娘、いい体してるね~》
《あっ? 殺されたいのか?》
《ご、ゴメンって。それは洒落にならないから~》
俺の手の中にはとてつもない魔力密度を誇る塊が渦巻いた。これを使えば町1つ壊滅させられるな。
《まったく。お前は軽いよなっ!》
《まあね。僕達裏人格は表の真逆だからね!》
《なんだと?》
《だから真逆なんだよ。君がそんなにも真面目だから僕は不真面目。君が紳士的だから僕は君達で言う下衆でしょ?》
《そうだな、》
《酷いな~》
《お前にはそれくらいが十分だっ!》
《うわっ!》
右手に貯めていた魔力を乗せた拳で霊体のコイツを思い切り殴り付ける。すると体の半分は消失した後、吹き飛んで壁の中へ消えていった。
「終わったよ!」
「ん、早かったな?」
と言って振り向くとまだ下着姿のリリスが俺に意味深な目線を向ける。取り敢えず、
「やっ!」
「着替えてから言え、」
一瞬で目の前へ移動すると爽快な音をたてるデコピンが見事ヒット。そのまま後ろを向くと壁際に戻る。
「ねえ酷くない?」
「酷くない!」
「ん~~」
「先に出ようか?」
「ダメ!」
必死な制止と共に急ぐ気配がする。そしてわずか十数秒後…、俺は肩を叩かれることになる。
「ん、早いな?」
「そうかな~?」
振り返った先のリリスは肩で息をしながら急いだと云うことがよく分かる。銀色の髪は乱れてどれだけ急いだのやら…。
「髪が乱れてるぞ。こっちに来てみろ!」
「はーい、」
ベッドに腰を掛ける俺の前へとリリスを座らせると、その銀色の髪を整えていく。
「んー、やりにくい。『等価錬成』」
手中に作り出されるのは漆を塗られた木製の櫛。俺が持っていた中でも正真正銘高級品ってやつだ。
「慣れてるね~」
「まあな。色々あったからな~」
「そーなんだ。リョウって優しい手つきだよね~」
「そうかなあ。普通だ、」
「ふふ、」
「ん?」
「なんでもないよ!」
朱色の櫛で銀色の髪をなぞっていると画になる。やっぱり赤系色は似合うな。
「よし、終わったぞ」
「ありがと。朝から疲れなかった?」
「大丈夫だ。これくらいなら慣れてるよ、」
昔、は山奥とは言え俺もよく町の友達と遊んだりその兄妹とかとも遊んだ。それに自分から動き回らない俺はこんなことをしてやってた方だったからな…。
「リョウ、今日には着くんでしょ?」
「らしいな。今日の夕方だったか?」
「どうだったっけ? けどこの船旅も今日で終わりだよね~」
「まあな。今日は2人でゆっくりするか!」
「うん!」
と言って外に出ると廊下の先に優司と藍夏2人が外に出ようと扉を通るところだった。と言うかアイツら、エリはどうするつもりなんだよ!
「リリス、少し待っててくれるか?」
「うん。いいよ!」
「ありがとな、」
と言うと俺は急いで優司達の部屋へ入り、布団を開ける。すると予想通りエリがまだ丸まって寝ていた。
「起きろエリ、朝だぞ!」
「もうちょっとだけ~」
「ダメだ!」
「んぅぅ…、お兄さん、どうしてここに?」
「お前を起こしに来たんだよ。今日は少し俺の知り合いの所で待っててくれるか?」
「いいよ!」
「ん、なら行こう」
「うん!」
と言って右肩に抱えあげると部屋を出る。そして向かったのら俺の部屋の裏側。
コンコンッ、
「あっ! て、またお前か?」
「はい。今日はお願いごとがあって…」
「なんだよ!」
「この子を預かっててくれませんか?」
「はっ、殺されたいのか?」
「どうぞ、」
差し出したのは束になった紙幣。もう底を尽きかけている……。
「けっ、仕方ないな。今日だけだぞ!」
「ありがとうございます!」
と言ってエリを裏の兄ちゃんに預けることに成功した俺は気兼ねなくリリスの所へ戻る。
「エリちゃん、預かってくれたんだ?」
「あぁ。やっぱりあの兄ちゃん、良い人だな」
「私は分かんないや!」
優司達が外へ行ったので俺達も行こう。と言うことで外に出た俺達を迎えたのは爛々と光り輝く陽の光だった。
「眩しいな~」
「けどポカポカして気持ちいいよ!」
真冬の陽光というのは何故こんなにも暖かくて気持ちいいんだろう。朝一の日光浴は日本の文化だよな~。
「くぅぅぅ。なあリリス、あそこに登ってみないか?」
「いいよ、行こっか!」
甲板に出ると一躍。
朝日が照り付ける客間側の屋根に上がった。
「ここなら誰も邪魔しないだろ?」
「うん。リョウ、今日1日は私のものだからね!」
「ふっ、お前も今日だけは俺のものだ!」
「ふふ、」
「ふふっ、」
「楽しいね~」
「だな~。こんな時が続けばいいな~」
《だよね!》
こんな時に出てくるのはコイツの悪い癖だと思う。絶対タイミング可笑しいだろ。もっとあっただろうもっとさ!
《本当だな。お前のいない平穏な時間を取り戻したいよ!》
《ふふっ、それは結構。君が僕を受け入れるだけさ!》
《嫌だ!》
《………》
《今日は攻めてこないな》
《ふふっ、物足りない?》
《ちっ!》
《そう言えば話は変わるけどもう少ししたら魔物の大群とぶつかるよ!》
《はっ!?》
《さっき浮かんでたら見付けちゃったんだよね~。向こうから進んでくる魔物達!》
《ちっ。お前の力、一部だけ貸してくれないか?》
《いいよ~》
《礼を言う!》
ホントに続けば良かったよ。けどやはりこんな平穏な時は続かないらしいな。
「リリス、ゴメンな。今日はゆっくりしてられないようだ」
「どういうこと?」
「魔物だ。この船と接触するだろう、」
「えっ!」
「行くぞ!」
「う、うん!」
久し振りの戦闘。リリスとの時間を壊された怒りもあるがこの戦闘に掛ける高揚感も俺のなかでは渦巻いていた。
「お前達、分かってるな!?」
『はい!』
「なら準備しろ!」
『はい!』
俺が甲板の先頭へ立ったのと同時にソイツは現れた。大きいな、
「さあ来いよ!」
『!!!!!!!!』




