第93話
「あと3部屋。回ろうか、」
「うん。ここの何処かに犯人がいるんだね?」
左側に回った俺達はその廊下を見渡す。特に理由もないのだが、まあ気分だな!
コンコンッ、
「何か?」
出てきたのは性格の堅そうな青年。爽やかな水色の髪とは裏腹に鋭い目と右手の辞書。ヤバい、ガリ勉だ……。
「す、すいません。この短剣に見覚えはございませんか?」
「ありません、」
「そうですか……」
バタンッ。怖い。
戦闘で怖いとかそんな意味じゃなくて鋭い視線と雰囲気にあてられ、俺は下手な言葉を放てなかった。
「今の人、怖かったね…」
「あぁ。苦手だ…」
中からはペンのカリカリとした何かを書くような音だけが聞こえる。
「次行こ、」
「だな。忘れよう、」
コンコンッ、
「は、はい。なんですか?」
次の扉を開くと防止を被った背の低い幼い感じの少年が上目遣いで扉を開けた。
「この短剣に見覚えはないかな? 大人の人がいればその人でもいいんだけど…」
「すみません。僕、友達と2人なんです。その短剣も見覚えないんです…」
「分かった。ありがとな、」
「は、はい!」
扉を閉めるとため息。この船内は濃い人しかいないな、まったく。
「リリス、次で最後だぞ」
「だね。いくよ!」
コンコンッ、
「あっ!?」
扉を開けると耳等に多数のピアスを開けた金髪の兄ちゃんが釘だらけのバットを持って出てきた。そして人間…。いや、どうみても確定だろ!
「すいません。この短剣に見覚えはございませんか?」
「あるわけねえだろ。俺の相棒はこの釘バットだ。そんなチンケな武器なんかに興味ねえよ!」
「………」
見事に鍛えぬかれた胸筋や腹筋。そしてそれを包むのは白いタオル1枚というのがこの人の常識と云う概念を物語っている。
「用事がねえんならとっとと失せな。俺は筋トレに忙しいんだよ!」
「はい…」
これまで以上に勢いよく閉められた扉。なんとなく取り残された感の漂う俺は扉の前に立ち尽くしていた。
「リョウ、決まりだね!」
「あぁ。リリスの予想とは違うがな、」
「えっ!」
「犯人はこの兄ちゃんじゃない、」
「えっ、どうして?」
「この兄ちゃんがこんなセコいことをするような人に見えない…」
「まあ…」
この兄ちゃんなら俺達の所へ割って入り、荒し尽くしていくだろう。そう考えると答えは見えてくる!
「答えはお楽しみだな、」
と言うことで反対側の客間へ戻ろうとすると向かっている場所に入っていく優司達。
「アイツ達も見付けたみたいだな!」
「だね。今回は私達の負けよね…」
「まあな。甲板で待っててやろう、」
バーンッ!
「ん!」
そう言いながら今来た廊下を引き返そうとすると、大きな音と共に扉を破って優司が吹き飛ばされてきた。
「大丈夫か?」
「はい。どうやらあの人が犯人のようです…」
部屋の中を見ると藍夏とエリ、2人を両手で捕らえたさっきのヒョロヒョロの男性が無表情で俺達を見ていた。
「どういうことだ。お前の者なら分かったよな?」
「ふふ、わたくしのではございません。それは港で仕留めた人の者です」
「………。そうか。まあいい。殺す!」
「出来ますか?」
ヒョロヒョロとした男性の短剣が2人の首筋へ触れた。流れる真っ赤な血が刃を濡らす。
「くっ!」
今にも優司が飛び出していきそうだ。剣を握る手には力が入り、ワナワナと震えていた。
「くくく、そちらの少年はこちらの御嬢さんですよね?」
「っ!」
「いきますよ、」
「止めろ!」
流石に優司も許せないようだ。放たれた魔力弾には今の優司の保有魔力のうち半分以上が使われていた。
ドカンッ!
「ぐはっ!」
されでも狙われたのは手の甲で、急所ではなかった。けれどそのウチに優司は藍夏を助け出していた。
「さあさあ、向こうの用事も済んだことだし俺も用事も済ませることにしよう」
俺の左手にはビックリしたかの表情のエリ。まあ、全速力で助け出したし気付いてなくても当然だな。
「ぐっ、この少年達をわたくしの所へ仕向けた貴方に負けるとでも!」
「負けるさ。弱いからな、『雷鳴ノ瞬撃』」
ドンッ!
秒速十万kmの拳が男性の体を突く。しかし流石魔族。その体は頑丈で貫くまでには至らなかった。けれど…、
「これくらいでくたばるんじゃねえぞ、」
ドンッ!
少なからずダメージはあったようで目は虚ろで、拳の当たった所からは煙があがる。
「ぐはっ!」
ドンッ!
コイツ、こともあろうに俺の腕の中へと体が倒れてくる。ならばすることは決まっている。そのまま蹴りあげるだけだ!
ドンッ!
「早く降りてこいよ!」
男性は天井の壁に突き刺さり落ちてこない。なので足を引っ張り叩き付けると、完全に意識の無い男性を踏みつける。
「ぐはっ!」
「起きたか、それは良かったな!」
既に息をしているのか怪しい男性の顔を掴むと思いっきり力を込めて叩き付ける。
「…………」
「初めの余裕はどこにいったんだ?」
胸ぐらを掴み持ち上げると真っ黒な右手を頭の前へ翳す。
「火魔法・爆破」
ドンッ!
「火魔法・爆破」
ドンッ!
「火魔法・爆破」
ドンッ!
「…………」
「生きてるか? ん、生きてるな」
口元へ手を当てると微かに息をしているのが確認された。まあこれくらいにしておくか!
「よく生きていたな。水魔法・放水」
ドーンッ!
最後に部屋の中へとほり投げると、大量の水をかけて扉を閉めた。2度と俺の前に現れるな!
「4人共、行こうか?」
「うん、」
『はい!』
「行こー」
何事も無かったかのように甲板へ戻ると俺達は外の海モドキを楽しんだ。
「リョウ、これは誰になるの?」
優司と藍夏とエリは協力して見付けたわけだし、リリスも見付けたのに変わりはない。なので…、
「全員だ。全員、1つずつ願いを聞いてやるよ!」
「いいの!?」
「あぁ。お前達、全員頑張っただろ?」
「ふふ、優っしい!」
「ありがとうございます!」
「お兄さ~~ん!」
「まずはリリスからだ、何がいい?」
「リョウとデート!」
「ふっ、分かった!」
俺もシアミドルへ着けば誘おうと思っていたから丁度良かった。リリスよ、けどこれってわざわざ願い事する必要無かったんだぞ……。
「つ、次私!」
「ん、エリか。言ってみな?」
「えーとね、お小遣いちょうだい!」
「分かった。ならこれくらいかな?」
と言って取り出したのは10000G紙幣3枚。向こうでは多いくらいだが、ここの物価は意外と高い節がある。
「こ、こんなにいいの!」
「あぁ。俺はこう見えていつでも稼げるからな。それに犯人を見付けてくれたんだ、報酬にしては安すぎるくらいだと思うけどな、」
「お兄さんだーい好きー!」
「ふっ、嬉しいことを言うな。次は優司だ、何がいい?」
「魔法について丸1日教えてください!」
「分かった。今度やってやるよ!」
「ありがとうございます!」
これでいよいよ最後。さっきからソワソワしてる藍夏には注目だな!
「次藍夏、なんでも言ってくれよ!」
「リョウさん…、」
横の優司に聞こえないように見えないように俺を手招きで呼び寄せる。もうそれだけで予想できるよ…。
「相談か?」
「はい……」
「なら今夜、俺の部屋に来い。リリスもいるから変わった目線でのアドバイスもくれるかもしれないぞ!」
「お願いします……」
と言うことで全員の「お願い」が決まった。リリスはデート。エリはお小遣い。優司は魔法講習。藍夏は恋愛相談。特に藍夏の恋愛相談は面白そうだな!




