第92話
《ん、何この雰囲気?》
急に出てきた裏背はクルクルと俺達の周囲を旅回ると、そう言いながら俺に近付いてくる。
《ちょっとあってだな……》
《そうなんだ。じゃあ僕がこの雰囲気、消してあげよっか?》
《出来るのか?》
《当たり前じゃない。行くよ!》
そう言うと魔力が裏背の手に集まり、手だけだが魔力での実体を作りだす。
「きゃっ!」
《ちょ、お前何をした!》
《ちょこんと首筋を触っただけだよ~》
《ちっ!》
呑気にフワフワと浮かぶ裏背に苛々しながら、今は無視してリリスへと近付く。
「リョウ……」
「大丈夫か? 何があった?」
「首を誰か触った感じがして……。けどごめん、私の勘違いだと思うよ……」
くそっ! ここで裏背を突き付けてやりたいが無理だな。リリスには見えないからな……。
「そうか……。何かあれば言えよ?」
「うん…。ありがと、」
裏背のニシシと笑う顔がウザい。確かに話し相手が出来たのは嬉しいが、俺を悩ます種になるかもしれないな……。
「優兄、向こう行こう?」
「そうだね。藍夏ちゃんもどう?」
「私もそうする…」
俺達の2人っきり雰囲気に気を使ってくれたのか、優司達3人は船の裏手へと歩いていった。エリは小さいのに気が利くよ…。
「3人共良い子ばっかりだね…」
「あぁ。ちゃんと雰囲気を感じてくれるもんな…」
しかしそんな中で雰囲気を一切読まない者が1人。フヨフヨと周囲を飛び回りながら遊んでいる。
《何処か行っててくれないか?》
《嫌だよ~。折角君の面白い所を見れそうなのに!》
《ちっ!》
アイツから貰ったにも関わらず悪いが左手を裏背へ翳すと魔力を集中させ…、
《なんだい?》
《1度死んでろ、》
バンッ!
圧縮された魔力は俺の指先で小さな爆発を繰り返し、その勢いは速度となって裏背を貫いた。
《ぐはっ! 酷いじゃないか…》
《効かないくせに…》
スッと消えていく裏背を確認すると黒い左手を服の下へと隠す。人がいないから良いものの、もし見られていたとすれば俺が人じゃないことは歴然となる……。
「どうしたの?」
「なんでもない。少し虫が飛んでたからな、」
「私より虫?」
「なわけないだろ!」
「ふふ、じゃあもっと私を見てほしいな~」
「欲しがりだな~。なら見ててやろうじゃないか!」
「欲しがりって、酷いこと言うじゃない!」
「ふっ」
「んぅっ!」
その驚く顔が見たかった。右手に抱き抱えた状態でキスをすると動きにくいのか抵抗が無い。
「ぷはっ、朝からキツいか?」
「ふふ、私はもう慣れたよ!」
「俺もだ。まあ、人がいないから出来るんだがなっ!」
ここは甲板。にも関わらず人が居ないのは今では助かる限りだ。誰かがいる状況では自分がここまで思いきれない気がする…。
「それにしても私達ってまだ1週間くらいしか経ってないんだよね…」
「まあな。それにしては随分と進んだ気がするけどな…」
「んー、進んだか~。正直私は一目惚れだったけどね!」
「一目惚れ、そうなのか?」
「うん。母さんに言われて部屋に入った時からだよ、」
「そっか~」
言えない。正直俺は初対面の時は苦手意識を抱いていたなんて……。
「リョウこそ私を意識したのっていつなのよ!?」
「一緒に歩いてた時かな。大通りとはいえ2人で歩いてた自然に意識してた。だからリリスに対して石なんて飛んできた時には殺そうかなとも思ったよ……」
「それはやりすぎ!」
「ふっ、今だってそんな物飛んできたら殺してるかもしれないな!」
「だからダメだって!」
ヒュ!
本当に暇しないな。後ろから飛んできたのはなんと短剣。本当にどんな処罰を与えるかな?
「リリス、いいよな?」
「いいよ!」
振り向いた先には人1人いない。逃げたか…。
「いないみたいだな、」
「だね。完璧に悪意がある仕方だよ!」
「あぁ…。そうだ! 1つゲームをしないか?」
「ゲーム?」
「あぁ。この船内から犯人を探し出すゲームだ。俺とリリスに分かれてどっちが先に見つける、とかな!」
「面白そうじゃない! やろうよ!」
「よし! なら決まりだな、」
「うん。けどリョウ…」
「ん?」
「敵対は止めよ?」
「分かったよ。なら協力していこう!」
「うん!」
と言うことで仲良し空気から一転。犯人を捜す闘争心滾る空気に変わった。
「優司、藍夏、エリ!」
リリスの手を引き船の裏手に回ると3人を呼び止めた。
「どうしたんですか?」
「これを見てくれ、」
俺が取り出したのはさっき俺達目掛けて飛んどきた短剣。今頃どんな心境でいるのか知らないが、犯人は大きな後悔をすることになるだろう。
「短剣ですか?」
「そうだ。俺達を狙って投げられたんだが犯人が見当たらなくてな!」
「それって大変じゃないですか! 狙われてるってことですよね?」
「そうだ。そこで相談なんだがこれを使って遊ばないか?」
「遊ぶ、ですか?」
「あぁ。これの犯人を見付けた人には1つだけ俺が出来る限りの願いを叶えてやるよ!」
「本当ですか!」
「あぁ。藍夏もそれでいいか?」
「はい!」
「エリも?」
「いいよ。お兄さんに何をお願いしよっかな~?」
「リリス、これでいいよな?」
「うん。平和的だね!」
「そうだな。なら今この瞬間からスタートだ。行け!」
『おおー!』
一斉に動き出した3人。バラバラに動くのかと思ったが意外に全員が一致団結して調べるようだ。
《面白いことしてるね、僕も入れてよ!》
コイツが唯一の例外かもしれないな……。
「私達も行かない?」
「そうだな。犯人の顔も見てみたいしな、」
《なら僕達も出発だ~》
俺がさっき確認した時、甲板を含め外に出ているのは俺達だけだった。ならば俺がリリスに気をとられている隙に出てきて攻撃し、その上隠れたことになる。
「リリス、取り敢えずは聞き込みだ。この短剣の所有者と出ていく人を見なかったを聞いてまわればいい!」
「だね。手分けするそれとも一緒に?」
「一緒に!」
「ん、じゃあ行こ!」
「あぁ、」
さっきここに来るまでの客間の数は3部屋。そしてそれが左右にあるらしいのでこの船の客間は計6部屋。そして1部屋に3人程と考えて計18名。その内の5名が俺達だとすれば残りは15名で、船内での容疑者は計13名となる。
「まずは右からよね!」
俺達5人の部屋が右側にあり、残る部屋は1つ。そう考えるとこっちからの方が効率がいい。
コンコンッ、
「はい、なんでしょう?」
扉を開けて出てきたのはヒョロヒョロの男性。丸い眼鏡を着けていて黄緑色の角が生えている。
「すいません。この短剣に見覚えはございませんか?」
「いえ。しかしその短剣、面白い紋様が刻まれていますねぇ」
「ん?」
男性が指摘する方を見ると柄の部分の先にある柄頭の部分に変わった形が刻まれている。
「リョウ、見せてくれる?」
「あぁ、」
柄の部分をリリスへ見せると何か分かったような表情をして、呆れたような表情に変わる。
「これ、人間の物だよ」
「人間…、それは種族だよな?」
「うん。だからこの容疑者の中で人間の人だね。そんなの数少ないよ…」
「そうだな。かなりの手掛かりだな…」
「バカだね、」
「バカだな、」
「行こうか?」
「あぁ、行こう。あと、アンタも助かったありがとう!」
「はい、お役にたてたようでなによりです」
男性はそう言うとイソイソと扉を閉める。まあ、手掛かりが見付かっただけ良かったな…。




