第85話
波一つ無い水面が月光を反射し俺達を照らす。時々聞こえる獣の嘶きが森という場所を語る。
「綺麗だね、」
「あぁ。月と言うとはいつでも変わらないな、」
見上ると美しく月が光々と輝いている。それと共に笑みを浮かべたリリスの顔が月よりも美しく見えた。
「何見てるの? 恥ずかしいでしょ!」
「綺麗だなって、」
「な、何よ! 今日はダメだからね!」
「しないさ。また今度な、」
「………」
「なんだ? 期待してたのか?」
「し、してないよ! 私がいつ‥」
「ふっ!」
「ん、む…」
手を繋いだリリスを後ろの木へ押し付けると顎を持ち唇を重ねる。何故か俺の中では俺自身の感情が掴めない。
「どうした?」
「ダメって、言ったのに…」
「そんな顔するなよ。ごめんな。あまりに可愛いから、」
「もう! そんなこと言われたら怒れないじゃないのよ!」
「ふっ、だからそんな顔するなって。なっ、」
ポンポンと頭に手を乗せると肩を抱き寄せる。フワリとバラけた髪を月光が美しく彩った。
「もう! リョウはどうしてそんな言葉を平気で言えるの? 恥ずかしくないの?」
「恥ずかしい、か。まあ、恥ずかしいけどお前の笑顔を見れるなら、どうってこと無いんだ!」
「っ!」
「ほら、また笑ったろ?」
「ふふ、私はまるでリョウの手の中だね!」
「いいじゃないか。いつでも抜け出せる篭なんだから、」
「そんなわけないでしょ! 私がリョウから離れたくないもん!」
「ふっ、行こう。長々と話すと恥ずかしくなってくる!」
「そ、そうだね。行こっか、」
「あぁ、」
若干変な年頃の雰囲気を感じながら俺達は歩く。けれどもそんな中でもお互いの手と手はしっかりと握りしめていた。
「どうする? ここで待つか?」
「リョウが決めて良いよ。どうせ2人で共来るんでしょ?」
「来ると思う。確実に藍夏はな、」
「えっ、どうして?」
「藍夏は深夜、優司は早朝に来るんだ。2人の得意な時間なんじゃないか?」
「そう言うことね。なら今夜は藍夏ちゃんかな?」
「あぁ。あと優司のも聞きたいなら早く起きるんだぞ、」
「うん!」
「寝坊するなよ、」
「わ、分かってるよ…」
城にいる時はリリスは早起きだった。まあそれも早く寝るのもあるのだろう。が、俺と旅するようになってからは俺と遅くまでイチャついてたりするのもあり俺の方が早かった。
「そう言えばアイツ等は一緒に寝てるのか?」
「えー、流石に無いんじゃない?」
「そうかな。なら、どうしてんだろな?」
「優司くんが座って、藍夏ちゃんに譲ってるんじゃない?」
「あー、優司の奴、妙に男らしいもんな!」
「そうそう。しっかりと藍夏ちゃんのこと気遣ってあげてるし、気弱そうに見えて男らしいよね!?」
「あぁ。俺が女なら惚れるかもな、」
「ふふ、私はリョウに一途だけどね!」
「俺ってそこまで良い奴じゃないと思うぞ?」
「気付いてなだけだよ!」
どこか消化不良だ。優司を見ていて長所は見付けられるが俺なんか長所なんてないだろう。あっ、圧倒的なスキルくらいかな?
「………」
「ねえリョウ。そんなこと言うけど私のいい所って何?」
「純情な所? 性格?」
「どうして疑問形なのよ!」
「人を好きになる理由ってはっきり分かるか?」
「そうだけど…」
「だろ。そんな理由なんて考えずノンビリすればいいんだよ、」
ノンビリとした空気の中、寄り添う肩に手を伸ばすとリリスを抱き寄せる。日緋色の光が俺達の隙間を通りすぎた。
「ちゃっかり抱き寄せられた!」
「ちゃっかり抱き寄せた!」
「ふふ、」
「ふっ、」
「面白いね。前もあった気がするけど…」
「だな。リリスといると心が休まる、」
「嬉しいこと言うじゃない!」
「こんな日が続けばいいな~」
「続くよ!」
「ん?」
「絶対に私達は離れないって約束したでしょ!」
「ふっ、そうだったな、」
「絶対に…」
冬ながら焚き火の炎は心身を暖かく包んでくれる。その中でリリスはウトウトと眠ってしまったがな、
「予想通りだ、」
リリスには悪いが俺は2人の相談を真面目に受けてやるつもりだ。だからリリスには眠ってもらう方が好都合。俺以外がいると話しにくいこともあるだろうからな。
「お前はどこまで純情なんだろうな、」
あどけない寝顔を見てるとそう思う。俺達はこんな壮絶な日々を送っているが、まだ年齢的には中二なんだからな、
「先に寝てろ、」
もたれ掛かるリリスの体を抱き上げるとテントの中へ運び毛布を掛けておく。
「おやすみ、」
最後まで俺に抱き付いていた手をゆっくりと剥がし、毛布の中へ忍ばせる。今回は起きてないことを願うよ…。
「さあ、待っててくれたのか?」
「はい。折角の雰囲気を壊しては失礼ですから、」
「そうか。ありがとな、」
外に出ると焚き火の所に腰掛けた藍夏。やっぱり優秀な奴だな。
「仲が良いのですね、」
「まあな。会って1ヶ月経ってないが、」
「1ヶ月!」
「あぁ。この世界ではそれくらいが普通なのだろう。あまり奥手になるなよ、」
「はい…」
「まあ、俺の話はこれくらいにして相談なんだろ?」
「は、はい! 何故分かるのですか?」
「直感だ。そろそろかと思ってな、」
「…………」
「で、何を聞きたい? 答えられる限りは答えてやるぞ?」
「きょ、今日、初めて優司が、手を繋いでくれました!」
「少しは進んだってことか?」
「はい……」
「で、俺に何を聞きたい?」
「その、私、どうやって答えたらいいか…」
「と言うことは、優司から手を繋いでくれたんだな?」
「はい…」
やるなあ。もしかしたらアイツが奥手だったのは迷惑とか考えてただえで、そこを打開すれば以外とスムーズに進むのかもしれない。
「なら、しっかりと握り返してやればいい。あとはお礼を伝えたりしても良いかもしれないな!」
「はい…。リョウさんは?」
「俺達か? 俺達なら手を繋いでくれたら、ちゃんと受け止めて握り返すくらいかな、」
「分かりました。ありがとうございます、」
「相談は終わりか?」
「はい…」
「ならここからはアドバイスを出してやろう!」
「アドバイス?」
「あぁ。アドバイスだ!」
「それは、例えばどんなことなのでしょうか?」
「まあ聞けよ。取り敢えず今度でいい、優司にもたれ掛かってみればいい、」
「もたれ掛かる、ですか?」
「あぁ。お前達お互い恋愛経験皆無だろ? 優司には効くんじゃないかな?」
「そ、そうなんですか? やってみます、」
「あぁ。俺の出来るアドバイスは今のところはこれくらいだ。頑張れよ!」
「はい!」
戻っていく藍夏を見ながら考える。俺達2人にこんか期間はあっただろうか?
いや、無かったと思う。なら何故俺とリリスはこうやって旅をするような仲になったのか?
「やはり分からないな、」
人の感情というのは深く考えれば考える程、混乱し複雑になる。分からなければ止めるというのも大事なんだと実感してしまう。
「もし、アイツ等が生きてたら……」
俺の中ではそれだけが引っ掛かっていた。何も過去を引きずっているわけではない。しかしあれは俺が殺したも同然なのだから、忘れることは出来ない。
「薬、良いときも悪いときもあるな、」
あの時、2人には睡眠薬を使った。量を調節して死なないように、でも出来るだけ長く続くように調節して…。
「2度目は、無い…」
今度は絶対に離さない。たとえ危険でもなんでも絶対に俺の傍を離れさせたくない。もう絶対に失いたくないから……。
「もう寝よう、」
思考が過去を悔いる方向にドンドンと進んでいた。過去を悔やんでも仕方ない。今俺が守るのはリリスなのだから!




