第82話
リリス視点です!
「冷たいっ!」
「もしかしてリョウさんが魔法を解いたからでしょうか?」
「私、行ってくる!」
「ダメですよ。風邪を引いてしまいます!」
「それでもよ。リョウを見捨てられない!」
空の高いところから墜ちたリョウは大きな音をたてて湖の中へ沈んだ。未だにその波は強くて水飛沫をあげている。
「リョウ、待ってて!」
私を岸に残したリョウの表情は笑みを浮かべていたけど辛そうだった。きっとさっきの魔法で体調をくずしてたのかもしれない。
「どこ、」
水に潜って探しても中々見付からない。きっともう深くまで沈んでるのかもしれない。けど私は諦めない!
「っ!」
私の下から泡がブクブクと見えてその方向へと泳いでいく。すると意識の無いリョウが水の中へと墜ちていく。
「もう、大丈夫だからね」
いつも助けてくれるリョウの弱った姿。私にはそれが心配で仕方ないけどそれと共に嬉しいって感じもする。やっと恩返しができる。こんなことリョウに言ったら怒られちゃうけど、私はそれでも…。
「ぅ……」
そろそろ息がきれてきた。少し苦しい。リョウの手を持ちながら泳ぐ。あともう少し……。
「くはっ…」
息が、持たない…。水面がもう見えているのに手が届かない。その時、私の体は何かに支えられてそのまた水面へと導かれる。
「ごめんな、迷惑かけた」
「リョ、リョウ、私、心配したんだから!」
「ふっ、リリスも、無理、するなよ、」
「だって、だってリョウが…」
「ありがとな、」
腰から回された手が凄く安心する。不安で震えてた心がすぐに温められちゃった。
「ふふ、」
「ん、どうした?」
「なんでもないよ。なんとなく、」
水面から上がると寒い風が濡れた体を撫でてブルッと震える。なのに全然寒くない。温かい気持ちが体を温めてくれるから。
「リョウさん!」
「心配かけたな。もう、大丈夫だ」
水の中ならまだリョウも普通にできたけど、陸に上がると体に重さが掛かって私に肩を借りてる状況になっていた。そんなのお安いご用だよ!
「無理しないで。1度は気絶したのに、」
「あぁ。少し、休むとしよう、」
その時、リョウの体が脱力したかと思うと膝から倒れて私までバランスが崩される。
「リョ、リョウ、どうしたの? 大丈夫!?」
「ごめんな。少し、無理してた……」
「そんなことないって。リョウは休んでて!」
「あぁ。ごめんな、」
倒れたリョウを背負うと取り敢えずは木の下に寝かせて、私の上着をその上から被せる。気絶して体の動かない時は体温が下がるからって父さんに聞いたことがあるから。
「リョウさん、だからさっき…」
「どうしたの?」
「さっきリョウさんがちゃんと見ててやってくれって、それと出来れば助けてやってくれって……」
「リョウさん、予想してたんですね……」
「リョウらしい気がする。リョウには敵わないよ……」
「リリスさん、少し僕に見させてくれませんか?」
「えっ、何を?」
「僕、お父さんが医者をしてたんで少し位はお役にたてるかもしれません、」
「そうなの!? 私から頼みたいくらい。お願いできる?」
「はい!」
男の子の方がリョウの側へと腰を降ろすと手首に手を置き静かにという合図を出す。けど私にはリョウの不調の理由は予想できてる。魔力を急に使ったせいだと思う。
「リリスさん、少しお手伝いしてくれますか?」
「うん。何をすればいいの?」
「リョウさんをうつ伏せにしてほしいんです。背中の状態が見たいんです」
「分かったよ。えーと、この場所のままでいいかな?」
「はい。お願いします」
男の子の指示通りリョウの体を持ち上げ逆向きに寝かせる。するとその背中には若干の血が滲んでいる。
「これでいい?」
「はい。ありがとうございます」
男の子はそう言うとリョウの服をめくり、背中の骨にかけて傷を確認していく。
「どう?」
「重度の打ち身と擦り傷ですね。魔力に関しては分かりませんが、脈が上がっているので体にはかなりの負担が掛かっているんだと思います」
「ありがとう。どうすれば、いいかな?」
「まずは体を洗います。綺麗な布で保護できれば最高ですが、きっと無いのでこの服のままで大丈夫です。あと魔力に関しては僕にはわかりません…」
「分かった。色々とありがとう、」
「はい。僕もリョウさんにはお世話になってますから…」
「本当にありがとう。私にとって、1番大事な人だから……」
再び仰向けにすると眠るリョウの髪を撫でる。純黒の髪は冷たい風に揺れる。
「2人共、今日はここに留まっていいかな?」
「はい。リョウさんがいなければ危険ですから!」
「僕も賛成です。リョウさんは僕達のことも気遣ってくれてますから!」
「ありがとう。あの狼達は使ってくれて良いから、獲物を捕ってきてくれるかな?」
「はい!」
「はい!」
『ワォーーーーーーン!』
私よりもあの狼達に馴れている2人は私よりもパッと飛び乗って早速獲物を仕留めに出掛ける。狼達もリョウを心配してるみたい。
「リョウ、皆心配してくれてるよ。早く目を覚ましてね、」
寝てるリョウにそう呼び掛けると頬を何かが流れていく。私の気持ちを体現したかのようなそれはポトポトと地面へ落ちていく。
「ごめんね。私が、私の、せいだよね」
私の中では所謂自責の念が込み上げてきていた。例えば私が遊びたいな、なんて言わなければリョウは不調をきたさなかった。他には私がもっと用心深く戦ってればリョウが出る必要もなかった。これって私が仕向けたのと同じじゃない……。
「ごめんね……」
水に入り冷えきった手をギュッと握る。こんな私でも少しくらい温めてあげられればいいのに。
「リ、リス?」
「っ!」
握ってた手が私を握り返してくれた。そして私を呼ぶ声。
「心配かけたな、」
「そんなことないよ。私、ごめんね、」
「謝るな。俺が判断して行ったことだ。全ては俺の計算不足が原因なんだ。だから、泣くなよ…」
「っ!」
いつの間にか涙が溢れ出していた。それに気付いた瞬間、涙と一緒に感情までも溢れてきた。
「お前が泣いてちゃ、俺が、助けた意味、ないだろ?」
「リョウ~~!」
今甘えられる状況じゃないのは分かってるけど込み上げてくれる気持ちが抑えられない。感謝、謝意、安心、色々な気持ちが溢れてきてどうしても…、
「ごめん。不安にさせたな、」
傷を負って体を動かすのでさえ痛い筈なのにリョウは抱き付く私を力強く抱き締めてくれる。こんな優しさが私の中では凄く大きな支えになってくれている。こんなリョウの優しさがあるからこそ、私の強い自責の念というのは拗らせなくて済む。
「ありがとうリョウ、ごめん。痛いよね、」
「大丈夫だ。こんなこと、リリスの涙に比べれば安いものだ」
「………。本当に、心配したんだから……」
「あぁ。分かってる。だから俺にも責任を取らせてくれ」
離れかけていた私を今度はリョウから抱き締めてくれた。水に濡れて冷たい筈なのにその手は温かくて私の全てを受け止めてくれているみたい。看病する側の私がこんなこと……。
「リョウ、もういいんじゃない?」
「………」
「リョウ! て、寝ちゃったんだ…」
力も弱まり話し掛けてみると返事がない。慌ててリョウを見ると静かに寝息をたてて眠っていた。
「…………」
「まあいいっか。仕方ないよね…」
コロンっと地面に寝転がるとリョウの横に私が寝る形になる。2人が帰ってくるまでだけ、いいよね…。




