第8話
「キュイッ!」
「ガウッ!」
「やっぱり疑似生命は強力だな。」
俺の作り出した二体の疑似生命は魔物を完全に絶命させると魔晶へ戻る。
「ありがとな、」
魔晶にそう話し掛けると、鞄の中へ直す。今倒したのはオーク。既に魔晶は持っているがまあいいだろう。ちなみに疑似生命が魔物を殺しても俺の魔力は回復された。
「んー、、見つからないなぁ。」
あれから探し続けて見つけたのはゴブリン、オーク、狼、大蛇くらいだった。強さ的に全部オークリーダーには劣っている。
「せめて昨日のオークくらいはなぁ。」
昨日のオークは強かった。強かったからこそ魔晶を回収するのを忘れていた。不覚だ。
ガサッ、
「今度はなんだ、」
さっきからずっと歩き続け見付けた魔物を狩って魔晶を回収する。こんなことを続ければ流石に疲れてくる。と言うことで疑似生命に任せた。しかしこれが思わぬ結果を招くとは…。
「や、止めてください!」
呼び出した疑似生命に殲滅の命令を出そうとすると、意思のある声が聞こえた。
「待て、」
疑似生命を一度解除して魔晶へ戻すと鞄へ直しながら声の聞こえた草村を掻き分ける。
「子供?」
しゃがんでビクビクと震えながら俺を見上げるのは子供。それも人の子供ではなく耳が尖っているので聖霊だろう。
「お前はどうしてこんな所に?」
「は、はひ。わ、私はエルフのティナです。」
「ティナ、、そうか。親はいるのか?」
「いません。私、奴隷商から逃げて来たんです。」
「チッ!」
「ひっ、怒らないでください。」
ティナは必死に手を合わせて助けてくださいと懇願する。
「ご、ごめん。ティナって言ったな。お前には怒ってないから、大丈夫だからさ。」
「本当ですか?」
「あぁ。怒ってない。」
ティナは胸を撫で下ろすと再び俺の方を向き…。
「アナタはなんて言うんですか?」
「ん、俺か?」
ティナはコクりと頷くと、答えを求めるように俺を見つめる。
「俺の名前はリョウだ。」
「リョウさん、、リョウさん、私を連れていってくれませんか?」
「んー、、、」
「む、無理にとは言わないんですよ。リョウさんの迷惑になるなら…。」
「いや、大丈夫だ。けれど、あと2日待ってくれないか?」
「2日?」
「あぁ。ティナを奴隷のまま連れると逃亡の身になるだろう。だから俺が合法でお前を買ってやる。そうすれば自由になれるだろ?」
「い、いいんですか?」
「あぁ。実は俺の連れも今、奴隷として商人の所なんだ。その時に一緒に買えばどうってこと無い。」
「ありがとうございます!」
「礼なんて言う必要はない。それよりもあとで俺の連れがいる奴隷商まで連れていってやろう。そこで少し話をつけるから、奴隷商に従ってくれ。悪いようにはしないと思う。」
「はい!」
「信用してくれるんだな、、」
「はい。私はエルフです。森の声が聞こえますし、昨日の夜のことも森が教えてくれます!」
「ははは、参ったな。じゃあ早速行こう。奴隷商には確実に話をつけてやる!」
俺はティナを担ぐと奴隷商の野営地へと走り始めた。まだ日も登って早い。場所はそこま変わっていないだろう。
「旦那、早いですなあ。」
「まあな。少し頼み事をしにきた。」
「頼み事ですか?」
「あぁ。このエルフを預かってほしい。」
「エルフ。奴隷ですか?」
「あぁ。道中で会ったんだが逃げ出してきたようだ。」
「それはそれは、こちらで厳重に処罰させていただきます。」
「いや、その必要はない。こいつも俺が買おう。」
「はいっ!?」
「ん?」
「買うって、二人も奴隷を買うのですか!?」
「あぁ。金はリアスと一緒に合わせて払おう。どうだ、悪い話じゃないだろう?」
「は、はい。それはそうですが、それは旦那に利益が無いんじゃ?」
「いや、、充分にあるんだ。こいつを俺が連れると非合法の奴隷になるからな。」
「そういうことでしたか。それでは正確な書類上の取引をいたしましょう」
「ああ、頼む。」
商人が奴隷売買の為の書類を取りに行ってる間、俺はティナへ向き直ると魔晶を渡す。
「ふぅ。疲れた。」
「大丈夫ですか、リョウさん。」
「あぁ、大丈夫だ。それよりもティナが入れられるのは俺の連れと同じ場所だ。そしてもしそこで何かあればこれに魔力を流せ」
「これは?」
「切り札だ。最低でもティナと俺の連れ二人くらいは守ってくれる。」
「分かりました。ありがとうございます。」
その頃、商人が一枚の紙を持って入ってきた。
「これは契約魔法を込めた契約書です。これに書いた内容を違えると、右腕が無くなります。」
「分かった。」
「それでは旦那、この内容でいいですな?」
「あぁ。大丈夫だ。」
俺は渡されたナイフで指を切ると、証明の血判をおす。そして商人も同じように血判をおすと書類が完成した。
「これで書類が完成しました。それでは2日後、頼みますぞ」
「あぁ。」
「旦那、サバイバルトーナメント、楽しみにしていますぞ!」
「知っていたのか、」
「はい。奴隷商人とはいえ情報は大事ですからな」
「そうか。まあいい。二人を頼んだぞ、」
「はい、ご心配なく。」
「ティナも、くれぐれも気を付けろよ」
「はい!」
ふぅ。まだまだ欲しいんだがな、、俺はテントを出て魔晶回収へとまた精をだした。
「かぁ。疲れた…。」
「お兄さんはよくやるよ。まさかサバイバルトーナメントの出場者だったなんてね…。」
「まあな。それよりも本当に世話になっていいのか?」
「あったり前だよ。サバイバルトーナメントなんて物に出るんだ。疲れが溜まってちゃ本来の力なんて出せないだろ。」
「ああ。そう言えばまだ名前を聞いてなかったな。良かったら名前を教えてくれないか?」
「あたいかい。あたいはシュラって言うんだよ。そう言うお兄さんは?」
「俺の名前はリョウだ。」
「リョウ、、リョウだね。改めてよろしく、リョウ。」
「ああ、よろしくシュラ。」
俺達は微笑み会うと軽く拳をぶつけた。
今日の成果は魔晶38種。内訳は次の通りだ。
・ゴブリン×17
・オーク×11
・狼×3
・大蛇×2
・黄虎×1
・鹿×4
これだけの魔晶を全て疑似生命に変えて鞄に入れた。明日戦闘に使うのは黄虎と大蛇と狼。あとはミスリルの短剣二本と消耗用の短剣全てだ。
「これ、でいいか。」
明日、自分がキツくなるまではオークの疑似生命とミスリル短剣で戦おうと思う。何故なら黄虎も大蛇も勿体無いからだ。それに消耗用の短剣も勿体無い。そうこうしていると、下から俺を呼ぶ声が聞こえた。
「リョウー、夕飯だよー!」
二階を貸してもらっているのだが、なんと上がる時にご飯も用意してくれると言うのだ。
「分かった。」
俺は出していた魔晶を鞄へ直すと下へ降りていった。
「そこまで良い物はだせないんだけど良いかな?」
「大丈夫だ。何か食べられるだけで満足だよ」
「それって…」
「昨日は食ってない、」
「リョウ、サバイバルトーナメントが終わっても泊まっていいからさ、ちゃんとした物を食べた方がいいよ?」
「ありがとう、そうするよ。」
「ホントにね。あたいの不味い料理だけどどうぞ、」
確かにシュラの料理は一般的で絶品とは言えない。けど、懐かしい家庭の味がする。
「美味しいじゃないか。これなんていい火加減だと思うけどな、」
「ほ、本当かい。ありがとよ、あたい、人に料理を出すなんてしたことなかったから内心ドキドキしてたんだよ。」
「自信を持って食べさせてあげられる味だ。美味しい」
「そんな、、照れるじゃない、」
久しぶりに飯らしい飯を食べられて良かった。今夜はぐっすり眠れるぞ。