第79話
「ここは、どこ?」
目を開けると真っ暗で何もない所が広がっている。流石に暗闇の向こうまでは分からないけど手の届く範囲には何もない。
「ねえ、リアス? リョウ兄!?」
返事もない。と言うよりも声が届いているかさえ怪しく感じる。それに何処かどうでもよく感じてきた。あるのは熱の苦しさとリョウ兄に対する可笑しな憤りだけ。
「ふふっ、ここにいたのね?」
後ろを振り向くとティナと全く同じ外見の人がいる。真っ暗な中をその人だけはしっかり見ることができてどうしてだろう、目が離せない。
「貴女は、誰ですか?」
「ふふっ、私は貴女の裏よ。何も知らない人の方が多いけど貴女には特別に教えてあげる」
薄気味悪い笑みと共に断片だけだけれどこの人の考えていることが伝わってくる。音もイメージもないけど不思議と分かる気がするな。この人の言っていることは本当かもしれない…。
「………」
「どう? 今ので全部伝わったかな? 私のとこ来ない?」
「どういうこと!? 貴女には悪いけどティナには言ってることが分かんない!」
「貴女は力が欲しいんでしょ? もっと強くなりたいんでしょ?」
「………」
「なら私を受け入れるんだよ。抗わないで、受け入れるの!」
分からない。何も分からない。急に連れてこられたこの場所。目の前にいるのは自分と瓜二つの正体不明の人物。
「ティナ!」
何処からともなく声が聞こえる。この中で目の前の人よりもティナに響く声。
「ちっ! じゃあまたね。次の時は決めてちょうだいよ!」
そう言われると目の前の人とは現れた時と同じようにいつの間にか消えてく。
「ティナ! ティナ! 大丈夫っ!?」
「ん……ぅ……、リアス?」
目を開けると心配そうに覗き込むリアス。はっきりしない思考が今の自分を理解出来ない。
ここは何処? どうしてここにいる?
どうして心配されてるの?
「そうだよ。私、リアスだよ! 大丈夫!?」
「う、うん。何が、あったの?」
「分からないの? 寝ちゃったのかなって思ってたらうなされてるみたいだったから…。話し掛けても何も返ってこないから心配で……」
うなされてた?
もしかしてさっきの夢のせいなのかな?
体を動かすこともできるし、声も出る。さっきの変な人の声も聞こえないし特に奇妙なことは感じない。
「ご、ごめん。心配させちゃった……」
「そんなことないよ。そんなことより本当に大丈夫?」
「う、うん。早く、行かなきゃ」
「無理しちゃダメだって! 早くのって!」
「うん……」
立ち上がろうとすると足がフラついて立てない。そんなティナの前へ移動したリアスは背を低くして腰を下げる。
「じゃあ行くよ!」
ティナが背中にのるとリアスは歩き出す。ティナに衝撃がこないようにゆっくりと静かに歩いてくれる。こんな心遣いにリョウ兄も惹かれたのかもしれない。
「ありがとう…」
「ふふっ、友達の為ならこれくらいどうってことないよ!」
リアスの背中はリョウ兄みたいに大きなやけじゃない。どちらかと言うとティナと大差ないように思える。のに、何処か安心する。
「ティナ、リョウ兄もだけどリアスも大好き!」
「……。私もだよ、」
安心したせいか眠気が一気に襲ってくる。温かい体温がティナを安心させてくれる。
「ん、ぅ……」
「あっ、ティナ起きたの?」
「うん…。ここは、どこ?」
目を覚ますともう既に真っ暗でパチパチという焚き火の音が聞こえる。周囲は木々に囲まれて万全じゃないティナには少し怖い。
「ここは池の周りの森だよ。ティナが寝てからは意外に早く暗くなっちゃってあまり進めなかったの。ごめんね、」
「ティナは何もしてないのに言えるわけないよ。ここまで運んでくれてありがとう、」
「お礼なんていいよ! ティナも私のこと助けてくれるでしょ?」
「まあね。それより寒くない?」
「そう?」
「うん。ヒヤッとして、寒い……」
「じゃあ私の服着る?」
「いいの? それじゃあリアスが寒いんじゃない?」
「大丈夫大丈夫。それにティナは病人でしょ? 安静にしてなくちゃダメだよ!」
「………」
「さ、早く寝よ。私は見張ってるしティナはしっかり寝てて。早く治さなきゃ動きたくても動けないからね!」
「うん……。そうする…、」
こないだの雨が原因か、ここ最近の寒暖差が原因か…。やっぱり劣悪な奴隷生活の時はこんなこと日常茶飯事だったから何も感じなかったけど、少しの間だけでも過ごした幸せな3人の生活はティナ達の感覚を変えたのかもしれない。
「………」
「リアス、ここからはティナの独り言だからね、」
「…………」
「ティナは怖い。またリョウ兄に会いたいけど、本当に会えるのかが…」
「…………」
「こんなに広い世界でティナもリアスもリョウ兄もただの人間に過ぎない。こんなに広いのにどうすれば会えるのか分からない。離さないって、死ぬまで家族だって……」
「ティナ……」
ダメだね。リョウ兄と別れてからはずっとこんな感じ。いつでもリョウ兄が心の何処かにいてそれと共にまた会えるか不安で仕方ない。思わず溢れた涙を拭う。
「ごめんね。リアスだって同じだよね。ティナだけじゃないのに……」
「私は怖くないよ」
「えっ…」
手の隙間から見たリアスの目には一切の迷いがなかった。意志のこもった目はティナなんかよひもっと強く見える。
「私はティナみたいに賢くないよ。けど、リョウへの思いでは負けるつもりはないの。それに私達が会えないって思うと私達から離れてるみたいになっちゃうじゃない?」
「うん………」
「リョウは私達が離れない限り家族って言ってくれたでしょ?」
「うん……」
「だから私達が会えないって思わない限り離れていても私達とリョウは家族。だから私は絶対にそんなこと思わないし思っちゃいけないと思うの……」
「リアス、ありがとう」
「どういたしまして…」
言葉はないけれどお互いに礼が交わされてる気がする。リアスは私のことリョウ兄に似てるって言ったけどティナはリアスの方が似てる気がする。安心した心からは静かに哀しみがひいていった。
「おはよう…。ずっと起きてたの?」
「うん。病人を放置して寝られないでしょ?」
「それじゃあリアスが体調崩しちゃうよ!?」
「大丈夫だって! 今日には町に着くと思うし、今夜はぐっすり眠れるよ!」
「そうかなあ? 本当に大丈夫?」
「うん!」
「………」
「さあ行こう。今日には町につきたいしね」
「うん!」
「ティナ、行くよ、早くのって!」
「えっ!?」
「えっ、じゃないでしょ。まだ全然治ってないんでしょ?」
「………。くしゅんっ!」
肌寒い風が吹いて思わず咳をしてしまう。今、この状況じゃ逆効果だけど……。
「ほら、まだ万全じゃないティナを長時間歩かせられないよ。乗って!」
「本当に乗るの?」
「うん! 昨日乗ったでしょ?」
昨日は昨日だよ。意識も朦朧としてはっきりしていない昨日ならまだしても、今日のようなはっきりしてる状況で背負われるなんて……。それにそこまで大きくないこの森を越えれば小さな平野が広がる。そんなの恥ずかしすぎる。
「けど……」
「もう、行くよ!」
「えっ、そんな無理矢理…」
焚き火を掻き消し背中にティナを背負うとリアスは走り出す。自分で云うのもどうかと思うけど、リアスはティナよりも冷静な人じゃない。けど、ティナよりも強い愛情と情熱がある。




