第76話
「それでは朝食を済ましたと言うことで鍛練。と言いたいところだが、今日を含め当分はしない!」
「リョウさんっ!」
「どういうことですか?」
「聞け。お前達2人はまだ魔力も満足に扱えない。そんな奴等に魔法や剣術を覚えさせても意味がない!」
「………」
「………」
「だからと言って何もしない訳じゃない。まずは魔力をある程度使えるようになるまで練習だ。そして使えるようになればまずは本格的な鍛練を始める。まあ、基礎みたいなものだ」
「はい!」
「はい、」
「よし、なら魔力から教える。まあ教えるといってもなんとなく感じられるだろう?」
「はい、」
「ん、分かります」
「ならそれを動かして手の中へ集めることは出来るか?」
これが一番大事だ。魔力の集中の超基礎的な部分だからこれができなきゃ意味がない。これが出来ないとなれば俺には手のつけようがない。
「………」
「ん~」
2人共意識して頑張るようだが中々見える所までこない。けれど魔力の扱いに慣れた俺やリリスから見れば2人の魔力は手の中へ集まり始めていてもう少し集まれば視認とできる。
「んっ!」
「出来ました! 出来ましたよリョウさん!」
「2人共できたようだな。次はそれをもう片方の手に移せるか?」
「………」
「ん~」
再び集中。けれど一度操作して魔力と云うものを少なからず理解できた2人は難なくこれもクリア。
「出来ました、」
「僕も!」
「よくやったな2人共。なら次はそれを自分のまわりで回すことは出来るか?」
「…………」
「ん~~」
さっきのは短い間の移動で意識もしやすく、比較的扱いやすい手から手なのでまだ簡単だった。けれど今回のは自分の体に触れない自分のまわりで回すこと。これは難度が高い。
「……!」
「ん~!」
2人共何か掴んだようだ。それと同時に魔力の塊はゆっくりと回転を始め2人のまわりを周回し始めた。
「リョウさん、出来ました!」
「出来ましたー!」
「2人共頑張ったな。今日教えるのはこれくらいだ。疲れたろ?」
「はい! けど嬉しいです!」
「僕もです! 僕だって出来るんだって思って!」
「2人共その調子だぞ。また明日、進めるからな」
「はい!」
「はい!」
なんだろう、滅茶苦茶可愛い。リリスに対する感覚じゃなくて子供達がこうやって何か頑張ってたり喜んでたりする姿って可愛いよな~。
「私、こんなに簡単にできなかった……」
チラッと隣を見るとリリスがションボリとして肩をおとしている。俺はもっと簡単にできたんだが言わない方が得策だな。
「2人共、これを3秒で出来るくらいにはなれよ!」
「っ!」
「っ!」
「まあ、急ぎはしないさ。まだまだ次の町までは長い。あと一山くらいは越えるからな!」
「ん!」
「………」
明らかにウンザリしてるのが1人。取り敢えずは見なかったことにして話を続ける。
「と言うことで今日の鍛練は終了だが、体力作りは続けてもらう。と言っても俺達にしっかりついてくるだけでいい。なんせ基本的に山道だからな!」
ここからの道は緩やかにのぼってきた山を降りて、それから前にあるもう1つの山を越える。そこから山があるのか無いのか知らないが取り敢えずはそこしか見えないから。
「ここから、ずっとですか?」
「ん、」
「もしかして魔物ばっかりですか?」
「ん、」
「危険な場所もですか?」
「ん、」
「食べ物のと‥」
「優司! 何を言っても意味無いでしょ! ここから移動するには通るしかないんだから!」
「………」
「と言うことだ。出発するぞ!」
村の端から見下ろすとここは高い位置に、所謂山の斜面にあるようで下の方を広く見渡すことができた。そしてここから分かることは下の方に広い池と草原が広がりそれ以外は森林であること。そしてその池等はここから南側、俺達の進行方向にあるということだ。
「そう言えばリョウ、方向は合ってるんだよね?」
「まあな。太陽が向こうから昇ってるしな!」
どうやら太陽、月、方角このような自然現象の部分は地球と大差ないらしく太陽が東から昇る、月も同様、北の反対は南、等々そのような部分に限っては酷似している。
「そっか。そうだね。なら行こっか!」
「それなんだが……、」
俺はアイテムボックスからある物を取り出す。するとリリスの顔は引き攣る。
「魔晶…、もしかして?」
「コイツらで行こう!」
当然ムーンウルフの魔晶だ。白銀の毛並みが美しく風になびく。
「リョウさん、乗っていいの?」
「あぁ。今日1日はコイツらに世話になるからな。怒らすんじゃないぞ」
「はい!」
「さあリリス、乗るぞ」
「えー、怖いよ!」
「俺が支えててやるよ。それなら大丈夫だろ?」
「そうだけど……、」
「なら決定だ。藍夏と優司はそっちに2人で乗ってくれ。俺とリリスはこっちに乗る。あと、どちらかが片方に掴まるかしないと振り落とされるぞ」
「はい!」
「2人共決めたか? 早く乗れよ」
少し強引にリリスを連れムーンウルフへ跨がる。そして俺が支えるなら前の方がいいので俺の前へ座らせ片手でリリスを支える。
「さあ、行くぞ!」
向こうは優司が前で藍夏が後ろらしい。けどまあ、掴まれって言ったし藍夏が優司に掴まるんだろう。そこらへんは男らしいじゃないか。
「ワォーーーーーン!」
ムーンウルフの力強く長い遠吠えのあと、ドンッという音と共に走りだした。
「リリス、少しは慣れたか?」
景色が物凄い速さで変わりゆく。向こうでは以外と楽しんでいて優司も藍夏、2人共楽しそうだ。そして自分の手元を見ると俺にしがみつく娘が1人。
「ダメだよ~。こんなの怖すぎる……」
まあ、物凄い風圧が体に掛かったり少しの溝などで軽い浮遊感などもたまに襲ってくる。けれどここまでではない。これを踏まえ俺の中で決定したこと、それは……。
「コイツ、色んな意味で怖がりだな、」
俺の決定はリリスには聞こえず風の中を砕けて飛んでいく。けれど分かったことはリリスが色々な意味で怖がりということ。そしてその反応が凄く可愛いということ。
「ねえリョウ~、まだ?」
「もう少しだ。お前達、あそこの池で止まってくれ!」
「ガルッ!」
「ガルッ!」
「2人も、あそこの池で休憩だぞ!」
優司達2人にもそう伝え俺は怖がるリリスをギュッと抱き締める。不安、は、誰かといれば和むから。
「リョウ、」
「ん?」
「ありがと、」
「っ!」
今の反則。ふと見た瞬間に満面の笑顔で礼なんて俺慣れてないし。こう見えて俺も恋なんてほぼゼロの初な奴なんだが……。
「ふふっ、」
「しっかり掴まってろよ。加速するぞ、」
そろそろ傾斜45度を越える急な坂に差し掛かる。ここを降りる時はスピードが上がるはずだ。
『ワォーーーーン!』
ムーンウルフ達も気合いを入れたのか遠吠えを叫ぶと加速し坂を降りていく。目にもとまらない速さで進む景色がそのスピードを物語る。
「ガルッ!」
「ついたぞ、」
「へっ、もう?」
そこは既に広大な池の岸、いやもう湖と言ってもいいくらいの広さを持っているがな。
「あぁ。2人も降りろよ、ゆっくりとだぞ」
「はい、」
「お前達、今日は魔晶に戻さないからそこの木陰で休んでてくれ。これはご褒美だ、」
俺達を運んでくれた2匹のムーンウルフに朝の残りである肉のぶつ切りを渡すと喜んで木の下へ体を落ち着かせた。
「さ、少し休憩だ!」
揺れる背中の上とは違う地の感覚。俺達は今のうちに出来るだけ休憩しようと決めた。




