第72話
「ふわぁぁぁ…」
まだリリスは起きてないので静かに部屋を出ると広間へと降りる。外を見るとまだ陽は満足に出ておらず朝も早いことが分かる。
「流石にまだ起きてないよな、」
扉を開けるが誰もいない。まだ薄暗い部屋に蝋燭に火を灯した明かりをつける。
「寒いなぁ……」
暖炉もついていなかった部屋の中にはヒヤッとした寒さが立ち込めていて骨の髄までヒシヒシと伝わってくる。
「ぅぅ、寒い。こんな時は温かいものだ『等価錬成』」
湯気をたてるそれを口へいれると肩の方から腹の下までジワァと温かくなって満たされた感じになる。寒い朝には温かい飲み物が合うよな。
「てか、一向に暖かくならないんだよな……」
暖房とは違い放置すれば暖かくなるなんて便利機能は無い。炭が燃え残る暖炉へ腕を翳すとその中一点へ魔力を集中させる。このような簡単な普段の作業も集中することで完成度を上げられる。
「火魔法・灯火」
拡散した魔力ではどうしても肥大する炎が集中させた一点に収縮され小さな火種のようになる。ゆっくりと空中で燃える炎を炭の山へ忍ばせると暖かい炎が揺らめき始めた。
「よし、出来た!」
土と違い炎に決まった形は無く揺らめくのだ。それを支配するのは魔法でも難しく、炎を作ることは出来てもそれを完璧に操ることは至難の技なのだ。
「ひょぃっと!」
忍び込ませた炎の一部を手元へ戻し握り混んでみる。すると決して物理的には壊れない炎は指の隙間を通り手にまとわりつく。
「ふっ、」
手に絡まる炎を人差し指に集めるとヒョイッと飛び上がらせ破裂させる。それはまるで花火みたいに散って再び手中に戻ってきた。まあ、操作しただけで魔法を解除したわけではないから。
「ばんっ!」
グサッ!
いつもなら着弾点を中心に爆発し部屋の中じゃ絶対に行えない。しかしほぼ全神経を集中したこの弾丸は鋭利に尖り余分な炎も除去され、まるでナイフのように壁に刺さった。
「まだ、使えないな」
確かに即殺の熱を持ち鋭く深く突き刺さるこの魔法は使えるが集中に時間が掛かりすぎる。一点に集めるまでの集中時間が長すぎる。やはりこれは俺の力不足だな。
「んっ、」
廊下から足音が聞こえる。ゆっくりとした歩みで近付いてくることから俺がここにいるのを知ってのようだ。
「誰だ?」
「うわっ! リョウさん…」
「優司か。早いな、」
「いえ…、藍夏ちゃんの為に何か出来ないかと思いまして」
「ふふ、」
「どうして笑うんですか!」
「いや、何でもない。で、お前はその藍夏の為に何をすると?」
「んぐ……」
「なんだ、何も考えてないのか?」
「ぼ、僕を奴隷にしてください。売っても斬っても捨てても何をしても構いませんから…、そ、その変わり、藍夏ちゃんを助けてあげてください!」
「ふふっ、」
「だからどうして笑うんですか!?」
「あまりにも同じで笑えてくるんだよ、」
この2人、気付いてないが相思相愛だな。この幸せ者が!
「へっ、どういうことですか?」
「言わない。と言うかそれよりもお前は好きにしていいって言ったよな?」
「は、はい!」
「ふっ、ならそのお言葉に甘えさせて頂こう。俺はこう見えて血が好きでな、タラッと流れる血が1番好きだ。お前、いいよな?」
「っ! は、はい!」
なにっ!
その瞳には恐れはあっても一切の揺るぎはない。ただの臆病者かと思っていたがその瞳からは強い意志が感じられた。
「そうか。ならお言葉に甘えさせてもらおう!」
念のため、ナイフを取り出しそのクリクリとした目の前まで刃を近付ける、が、それでも意志は揺るがない。これは見込みがあるかもしれないな!
「っ!?」
「合格だ。お前、相当あの娘が好きだな?」
振りかざしたナイフをアイテムボックスに直しながら席につくとポカーンとしている優司へ問いかける。
「へへ、僕、確かに藍夏ちゃんのこと大好きだけど釣り合わないよ。臆病で貧弱な僕みたいなのには、」
「ふっ。お前の努力次第ではお前の願い叶えてやろう」
「へっ……、な、なんでもします! お願いです!」
「ふっ、簡単なことだ。条件は2つ。お前の力で俺に攻撃を加えられるくらい強くなれ」
「へ……む、無‥」
ギロッと言うような効果音がつくかと思うほど弱音を吐こうとした優司を睨み付ける。有無は言わせない。
「いいか?」
「が、頑張ります…」
「よし分かった。なら俺がいる間、つまり次の町までは俺が完璧に守ってやるよ」
「ありがとうございます!」
「それで2つ目は、」
「っ!」
「藍夏との仲を進展させろ、」
「へっ、ど、どういうことですか?」
「お前、藍夏と手を繋いだことは?」
「ありません……」
「ならそこからだ。俺のいる間にそれくらいは進展させろ。その約束をしてくれれば守ってやるよ」
「へ、け、けど藍夏ちゃんに迷惑じゃ……」
「手を繋ぐくらい仲の良い友達同士ならあることだ。頑張れ!」
「………。約束します!」
「そうこなくちゃな! まあ、取り敢えずは体力作りだ。走ってこい、」
「分かりました!」
階段から足音が聞こえている。そしてそれはリリスのではない。となると……、
「あっ、」
「あっ、」
「2人共偶然だな。そうだ! お前達2人で走ってこい!」
「はい!」
「リョウさん…」
「頑張れよ。優司もそんなに喜ぶな。じゃあな、」
「喜んでませんよ!」
怒る優司を無視し俺は階段をのぼる。そろそろウチの子が目を覚ましそうだから。
コンコン、
返事は帰ってこない。と言うことはまだ起きてないということだな。
「入るぞ、」
一応声を掛けながら扉を開けるとそこには…、
「んっ!」
バタンッ!
リリスはもう起きていた。唯一マズイところはそれも朝の着替え中だったところ…、
「ごめん…」
一応謝る。予想できない状況ではなかったから。
「もういいよ…」
扉の向こうから声が聞こえる。ゆっくりと慎重に扉を開けて中に入る。なんとも気まずい…。
「ごめん…」
「見た?」
「ん…」
「責めはしないよ。けど、そんなに謝らないでよ。私がいたたまれないよ……」
「分かった。取り敢えず…、降りるか?」
「そうだね……」
真っ赤になりながら俯くリリスの手を引くと部屋から連れ出す。正直俺も恥ずい。繋いだ手の当たる感触が逆に気まずさを増幅させてる。
「なあ、リリス。怒ってるか?」
「怒ってない……」
なんとも気まずい。けど、それとは逆に広間は近付いてくる。
「先に入るといい、」
「ありがと、」
会話が続かない。言葉で表しにくい嫌~な雰囲気だな。
「本当に怒ってないのか?」
「怒ってないよ、」
なら一か八かだ。少し悪戯してみよう。
「そっか。なら良かった。リリスに嫌われるなんて耐えられないからな、」
「そう……」
「ホントごめんな。着替え中に入ったりして、」
「それは私が返事できなかったから……」
「まあ、俺は艶めかしいリリスが見れて満足だったけどな~」
「っ!」
「冗談だ。悪かったよ、」
やっと無表情から変えられた。これで謝れたし気まずさも変えられた、だろう。
「ねえリョウ、」
「なんだ?」
「リョウが、望むのなら私は、いいよ…」
「っ! そ、そんな意味で言ったわけじゃ…」
「リョウ?」
「リリス…」
「なんちゃって、冗談だよ。やっと仕返し出来たよ!」
「っ…」
「私だってこんな流れは嫌だもん。けど、リョウが望むのなら私は……、やっぱり止めた。もう恥ずかしいよ…」
「ふっ、」
「笑わないでよ!」
「可愛いなって思ってな。ホントどうしてこんなにも可愛いんだろ!」
目の前に真っ赤で立ち尽くすリリスを抱き締めると俺の前へ座らせる。
「ちょ、リョウ止めてよ。恥ずかしいじゃない…」
「ふふっ。少しの間、こうしていたい」
「もう、リョウったら!」
あの2人に触発されたのかな。あの初な恋を見ているとゆっくりとした時間が恋しくなった。




