第71話
「っ!」
「合格だ」
本当は始めから奪おうとなんて考えていなかった。体の上から退けると抑え付けていた手をとり助け起こす。
「どういうことですか?」
「お前に覚悟があるか知りたかったんだよ。緊張しただろ?」
「…………」
「しかと見届けた。けれど、自分の体を簡単に投げ打つなよ」
「……ありがとうございます」
「アイツの為にもそんな方法は2度とするな。もし俺がクズだったら、お前、人生棒に振ることになるぞ」
「はい……」
「そしてまあ、覚悟を決めて俺に頼んでくれたのはいいが、俺はお前達を守ることはしない」
まだ立ったままの藍夏を座るように促しながら断言する。それを聞き再び立ち上がろうとした所も無理矢理制止させ言葉を続ける。
「けれど、身を守る方法は教えてやろう。お前達が始めに頼んだ通りだ。お前達には自分で自分を守れるくらいの力は指導してやるよ」
「いいんですか?」
「あぁ。これも何かの縁だ。お前達には次の町までみっちり鍛えてやる!」
「ありがとうございます、」
「気にするな。それにお前は女だろ? もっとアイツに頼ればいい、」
「出来ると思いますか?」
「出来ないだろうな。けど、気負いすぎるな」
「…………」
「お前は1人じゃないんだ。大切な人がいるだろ?」
「優司とはそんなんじゃありません!」
「ん、誰が優司と言った?」
「んっ!?」
「ふっ、頑張れよ」
顔を赤くして否定されても説得力がない。俺は必死に言い訳っぽいのを繰り返す藍夏をポンポンと叩くと2階へと上がる。明日からの訓練内容どうしようか? とは言え俺と違い戦闘経験ゼロの素人2人だ。まあ、始めは体力作りかな。
「ん、起きてたのか?」
階段前の廊下を行った先にある扉から寝室に入るとまだベッドの上でリリスが座っていた。
「ふふっ、もう寝てると思った?」
「あぁ。ん、どうした?」
「藍夏が降りたでしょ?」
「あぁ。少し頼まれごとをしてな、」
「頼まれごと?」
「あぁ。優司を守ってやってくれってな、」
「で、どうしたの?」
「断ったさ、」
「断った? どうして?」
「その代償が自分だったからな、」
「自分…、って、その、体を差し出すってこと?」
「そう。まあ、試してみてもその決意は揺るがなかったし、鍛えてやるって約束したがな!」
「試したって何したのよ!?」
「押し倒して動じるか試した。すると全く揺るがなかったし、決意は本物だって思ってな、」
「へー、私がここにいながらそんなことをね?」
「いやいや、誤解だ。俺は試しただけだし何もしてないって、」
「ホントかなあ。まあいいや、その変わり一緒に寝ようね」
「分かったよ。仕方ないなあ、」
「ふふふ、やった!」
と言うか、よくよく考えるとどちらにしても一緒に寝なきゃならないのか? いや、俺が引けばいいだけか。
「くぅぅ。久し振りにベッドの感触だな~」
「だね~。リョウは久し振りに寝たんじゃない?」
背中合わせにベッドに寝転がりながらする会話。暖っかい体温が背中越しに伝わる。
「そう言う訳じゃないぞ。昨日はちゃんと寝たしな」
「そうだっけ?」
「覚えてないのかよ…」
「ゴメンね。私、そろそろ寝るね。おやすみ~」
そう言うとリリスの声は聞こえなくなり、その代わり静かな寝息が聞こえ始める。
「おやすみリリス…」
魔力を最小限に抑え、『消音』を使いながらベッドを出る。大太刀を片手に階段を降りた。そして客間に灯りがついているのを確認すると扉を開けた。
「どうしたのですか?」
予想通り藍夏はまだ部屋の中にいて、何か考えていたようだった。
「リリスを寝かせてきた。そしてやはりお前にはしてもらうことがある、」
「………。なんですか?」
「簡単だ。明日は早く起きてこの村の柵に沿って5周してこい、」
「へっ……。それだけですか?」
「そうだ。5周するまで帰ってくるな」
「はい!」
「指導はその後する。それくらいは出来るようになれよ」
「はい!」
それだけ告げると俺は部屋を出ていく。これはついでに行ったもので本当の目的は別にある。
「さあ、久し振りに鍛えるか」
人に教えるとなると感覚で動いていた自分が自分を理解しなければならない。その為に1番手っ取り早いのが自分自身の鍛練だ。
「私もお供してもよろしいでしょうか?」
振り向くと既に用意をして行く気満々で待っている。ここで断っては色々とアウトな気がするな……。
「まあいい。けれど構ってはやれないぞ」
「はい!」
「勝手にするといい、」
コイツ1人ついてきた所で変わることはない。変わることと言えば魔物から守らなきゃならなくなるくらいか。
「ガウッ!」
「始めに言っておく。生き物の死なんぞ慣れろよ」
「はい、」
ドンッ!
迫ってくる頭を抑えると地面へ叩き付ける。そしてがら空きの腹へと一蹴り。吹き飛び身動きの取れない魔物へ大太刀を振り下ろしとどめをさす。
「な、コイツ等は俺達を殺しに来る。怯えては殺される。辛いかもしれないが殺せ」
「はい、」
「まあ、言葉で言っても分からないだろう。今夜ついてきた分だ。魔物を仕留めろ、」
「っ!」
「出来ないのか?」
「やります、」
未経験の藍夏へこれを強いるのはあまりにも残酷。だがここに来たのならするしかない。殺さねば殺られるのだから。手の中を分からないように発動させると魔物をつくりだす。
「コイツは狼の魔物でバイトハウンド。十分凶暴で自分と同等、もしくはそれ以下なら誰であれ立ち向かう奴だ。殺せ、」
一応藍夏にはこう言ったが疑似生命であるバイトハウンドには俺から命令できる。一先ずは殺さぬように戦えと命じる。
「ガウッ!」
「ん、」
予め渡していた直剣を構え走ってくるバイトハウンドを迎え撃つ。と言っても構えも成っていないので押し込まれる。
「ガウッ!」
「、」
近付くバイトハウンドに目を瞑った。こうなれば殺す見込みはない。俺はバイトハウンドの魔法を解き魔晶を手元へ戻す。
「目を閉じたな、」
「………」
「敵の前で目なんて閉じるな。降伏したも同然だ、」
「…………」
無言で立ち尽くす藍夏。けどまあ、初めてにしては泣き崩れないだけ頑張った。やはり酷だったかな。
「けど、よく頑張ったな。ちゃんと構えられたのもそうだし、これまでもな」
「…………」
「俺についてきたのも奴を守る為の努力だとおれは見ている。よく頑張ったな」
そう言って藍夏を抱き寄せる。ヤラシイ意味じゃなくて、不安そうにしている子供や落ち込んでいる時にはこうしてやれば安心する。自分自身も含んだ経験だがな。
「…………」
「奴を守りたいお前の気持ちは分かる。けどな、さっきも言ったが無理はするなよ」
「ぅ……ありがとう、ございます…」
「俺がいる間は2人共守ってやる」
「私、怖かったんです。こんな所に…、2人だけで……」
「俺がいる限り危険な目にはあわせない。ゆっくりと慣れていけばいい」
「リョウさん……」
「送っていってやる。努力もいいが自分を大事にしろよ」
しっかりと腰の所から体を固定すると思いっきり翼を羽ばたかせる。翼を使えば早く動けるからな。
空を飛べば数秒で元の場所へ戻れる。窓から部屋の中へ入ると手を引き部屋の前まで連れていく。
「今日は早く寝ろよ、」
「はい、」
「あと、今夜のことはリリスには秘密にしてくれよ、」
「?」
「言ったら妬くからな、」
「ふふ、分かりました」
「頼むな、」
笑みを浮かべ藍夏を見送ると俺自身も部屋に戻りベッドに入る。朝起きて居なかったらリリスにまた怒られそうだから。




