第70話
「あと、もう少しで昼時だから少しすれば降りてくるといい。飯でも作っててやるよ」
俺はそう言うとキッチンへ向かう。折角の転生者同士なので向こうで馴染みのある物を作ろうと思う。
「えーと…、」
向こうの料理なんて言っても作れるものなんて高がしれている。と言うことで夕飯に並べられるのは「だし巻き、塩魚、米」くらいだ。まあまあ、持て成す料理じゃないな。
「『等価錬成』」
卵と白米と鮭。はっきり言って俺に手持ちはない。料理ごと出せばとも思わなくないがそこは維持だ。
「あっ、忘れてた『等価錬成』」
俺は確かに材料は出したが調理道具は出していなかった。網や形を整えたフライパン等、必要不可欠な物が欠けてた。
「よし、改めて!」
ついでに作った茶碗やコップ、箸等を片付け茶碗の1つに卵を溶き入れその中へだしの素を入れかき混ぜる。
次にその卵は置いておいて、鍋を取り出し白米を研いでいく。そして鍋を火にかけ炊いていく。
「普通に焼くだけだったかな?」
火に網を被せその上へ鮭を並べる。上から塩をまぶし塩焼きにする。
「これが1番難しいんだよな、」
油を敷いてフライパンの表面を熱する。そしてその中へ溶き混ぜた卵を入れ四角く焼いていく。
「まあまあかな、」
焼いた卵は皿に出して切り分ける。白米も茶碗によそり鮭も4匹とも皿にのせる。
「リリス、取りに来てくれ~」
「はーい」
軽快な足音と共に開かれた扉の向こうにはいつもの鎧姿ではなく可愛らしい簡単な服装をしたリリスが出てくる。
「その服、どうしたんだ?」
「ふふん、いつも鎧だと思ってたんでしょ!?」
「ぅ、」
「私だって鎧ばっかりじゃ疲れちゃうし。部屋着くらい着るわよ」
ギャップが凄い。部屋以外はずっと鎧姿なのに部屋着になると滅茶苦茶ラフな普通の年相応の服って……。
「ふっ、可愛いじゃないか」
「んっ!」
「運ぶぞ。冷めたら勿体無いからな!」
「うん……」
だし巻きの皿とお盆に乗せた茶碗を持ちリリスにはもう片方を持たせる。思っていた以上に早く作れたのでまだ2人も降りてきていないだろう。
「よし、俺は2人を呼んでくるから待っててくれ」
「わ、私も行く!」
俺が立ち上がるとパッと俺の腕を掴み離さない。やっぱり怖い、のかな。
「仕方ないな。なら呼ぶだけに留めるぞ、」
「うん…」
「2人共~、降りてこいよ~」
「分かりました。すぐ行きます」
上からそんな返事が聞こえて俺達は広間に戻る。リリスは終始俺の腕を掴んで離さなかった。
「ねえリョウ、あの2人も一緒に行くの?」
「まあ、約束したしな。けど、次の町まででいいだろう。それ以上面倒なんて見てられないからな」
「そっか。けど次の町ってどこ?」
「ここを南側に行った所はもう港町だからな。そこならあの2人を任せても大丈夫だろうからな!」
「そうだね。ならそれまでは2人っきりはお預けだね……」
「お預け、何言ってんだ?」
横で静かに笑うリリスをソファーせ押し倒し片手を押さえる。
「な、何!?」
「アイツ等がいようが俺は態度を変えるつもりはない。嫌なら止めるがな、」
「ぅぅ……、ズルいよ!」
「ズルくないさ。俺は好きなときに好きなことをするさ!」
「ぅぅ……」
「因みに、アイツ等は気を使ってくれてるらしいな、」
「っ!」
一見誰もいないように見えるが黒い髪が廊下の端から見えている。それに魔力も小さいながら感じられる。
「退けようか?」
「うん。流石に見られちゃ恥ずかしいよ……」
「そうだな。これ以上はリリスもギブだろうしな!」
「そ、そんなこと!」
「ないのか?」
「………」
「2人共、もう来ていいぞ」
隠れていたのはやはり2人だったようで観念したように歩いてくる。その顔には若干の不安が宿っている。
「すいませんでした。盗み聞きする気では…」
「分かってるさ。短いながらお前達2人の性格は理解できたからな」
「ありがとうございます」
「2人共座れ。昼食は出来てるぞ」
「はい、」
「はい、」
2人を席に招き昼食を始める。なにも言わないがやはり2人には好評だったようだ。まあ、リリスは苦戦したようだがな。
「ふぁぁぁぁ。もう寝なきゃね~」
「そうだな。確かに眠い……」
あれから久し振りに何をすることない暇な時間を過ごし夕飯に突入した。そして夕飯も何事なく済ませた。
「リョウ、転生者ってどうやってここに来るの?」
「分からない。けど、俺や俺の知り合いは死んだって言ってたぞ」
「じゃあリョウは死んじゃったの?」
「あぁ。よく分からない者に撃たれてな、」
「んー、じゃああの子達も死んじゃったのかな?」
「そうかもな。まあ、断定は出来ないけどな」
「そうなんだ……。私、先に寝るね」
「分かった。気にせず布団着ろよ、」
「うん、ありがと」
手を振りながらリリスを見送ると客間の扉を閉める。引き出しの中へ入っていた蝋燭を明かりにしているのだが意外と明るくて部屋全体を照らしている。
「んっ、」
腕を蝋燭の蝋が机に零れた。咄嗟に防ごうとしたが左側に置いていたせいで防ぎきれなかった。
「はぁぁ。それにしても不便だな……」
仕方ないとはいえ左手を切り落としたのは愚策だった。戦闘にも若干支障が出ている。
「そうだ! 義手だ!」
無ければ作ればいい。とは言えまだまだ繊細な魔力操作も出来ないし先は長そうだ。
「まあ、取り敢えず練習だよな」
手始めに蝋燭を魔力で浮かす。そして1回転。クルクルと回せるようになると今度は魔力を蝋燭の糸の中を通しながら中で圧縮していく。
「ばんっ!」
圧縮した魔力を一気に解放すると内側から魔力は蝋燭を破裂させる。もしこれを生き物でやったならば最悪だな。
「次は属性有りで…。氷魔法・氷塊」
冷たい冷気と共に真四角の氷の塊が形成される。魔力で作った氷なので溶けることはない。
「あとは魔力で…、」
少量の魔力をぶつけながら削っていく。色々と工夫しながら使える魔力だがこの操作はウォータージェット等と同じイメージだ。
「あっ、ミスった」
途中で集中が乱され的がズレた。それに圧力も少し上がり亀裂が入っていまう。
コンコン、
「入ってもいいですか?」
ノックの音がして藍夏の声が聞こえる。リリスでも探してるんだろうか?
「どうぞ、」
念のため、割れた氷塊をアイテムボックスに収納してその代わりに拳銃を机に置く。
「失礼します」
「どうしたんだこんな夜更けに? リリスなら先に寝たぞ」
特に昼間と変わり無く、昼間と同じ服装に武器も持っていない。なら何をしにきた?
「分かっています。今日はリョウさんに用があって来ました」
「俺に、何のようだ?」
「優司を守ってあげてください!」
「ん、」
「この世界では私は力不足です。私はどうなっても構いません。私のことは自由にしてください。だからお願いします」
「………」
「御願いします!」
「言ったな?」
「はい!」
俺の目の前で立ち尽くす藍夏は真剣なようだ。一つ試してみるか!
「何でもと言ったな、」
まだまだか細い藍夏をソファーへ押し倒し片手を抑え付ける。昼間、リリスにしたのよりも強く。
「…………」
我慢していてもやはり年端もいかない子には怖いんだろう。なんせ殆ど会ったことない男に押し倒されてるんだから。
「………」
目を瞑り怯える藍夏。俺はそんな藍夏へ唇を近付ける。




