第67話
「グオオオォォォ!」
「熊っ!」
「ん、怖いのか?」
鼻息を歌い上機嫌に歩いていたリリスがその鋭い視線を受けた瞬間、俺の後ろへ隠れこんでしまう。当の熊も驚いたようで牙を剥き俺を睨み付ける。
「だ、大丈夫。ビックリしただけ…」
「仕方ないな。俺がやる、下がってろ」
俺からすると熊は因縁の相手。家の周辺で1番手強かったのがこの熊だから。
「グオオオォォォ!」
「久しぶりだな。その目、またも抉ってやる」
「グオオオォォォ!」
こちらも誠意を持って短剣だ。と言っても今の愛用は大太刀なので使うのは闇魔法の短剣。
「闇魔法・圧空剣!」
透明な何かで出来た小さな剣が両手に宿る。空間自体を圧縮する重力を応用した魔法なので空間自体を潰してるような感じだ。なので見た目はそこに有るようで無いように見える。
「グオオオォォォ!」
「ふふふ、『雷鳴ノ瞬撃』」
グサッ!
目にも止まらぬ早さで放たれた突きが熊の眼球を深く抉る。そしてスキルを使用したまま目の前へ移動すると喉元へ切っ先を突き刺す。
「もう叫び声も上げられないな、」
「グ…、ォ、ォ!」
「火魔法・爆破」
ボーンッ!
切っ先を中心にした爆発が喉元から体内を破壊する。荒れ狂う炎が体内から獲物を焼く。
「お疲れさま♪」
「なんだ、上機嫌だな?」
「なんでもないよ♪ それより魔物はどうするの?」
「魔晶だけ回収する、」
グサッ!
安い短剣よりも鋭い圧空剣は抵抗無く毛皮を切り裂き目的の心臓まで到達する。そのまま刃を引き抜かず心臓の中の魔晶を抉り取った。
「ぅー、私、こんなの苦手かも……」
「仕方のないことだ。慣れてない、それも女子にはキツいだろう」
「………」
「けど、これからはこんな物もよく見るだろう。慣れていないと旅がキツいぞ」
「うん…。私、実は本戦なんてしたことないの」
「そうか…、なら仕方ないさ。俺だってこの世界に来て初めてじゃないから出来ただけだ」
「ん? リョウ、向こうの世界はそんなことを普通にあるような世界なの?」
「いや、違う。俺は特別だったんだ。色々と事情が重なってな。所謂不幸だったよ、」
「ここに来てそれは変わった?」
「分からないな。先行き的には不幸の一本道だ」
「………」
「けどな、巡り会い的には向こうよりも何倍も幸せなんだ。俺が向こうで信用出来たなんてたった3人だけだったからな、」
「リョウの信用できる人に私は入ってる?」
「当然だ。今俺が信用できるのはリリスくらいだからな、」
「ふふ、嬉しい。信用してくれてるんだ?」
「まあな。惹かれた相手を信用しなくてどうするんだよ!」
「ひ、惹かれたって……」
「そのままの意味だ。もう行こう、まだまだ道は長いんだから!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
薄ら笑いを浮かべながら先に進むと後から走ってリリスがついてくる。そして俺の片腕を掴むとやっと追い付いたと引き留められた。
「必死だな?」
「当たり前よ! リョウったら歩くの早いんだもん!」
「ふっ、ついてこい!」
「当然よ! こんなことで立ち止まったりなんかしないからね!」
「頼もしいな。リリス、」
「ふふん! 当たり前よ!」
背伸びしたような強がりがどこか可愛い。なんと云うか経験したことのない可愛さだ。
「そんなリリスに朗報だ。今ここに5匹の狼型の魔物が近寄ってきている。出来るか?」
「んっ……」
「冗談だ。俺がやるよ」
「ダメ!」
「?」
「わ、私がやる…」
「無理しなくていいんだぞ?」
「大丈夫だもん!」
「そっか。なら気を付けろよ、」
その言葉と共に真ん前から黒い毛皮をした小さめのバイトハウンドが現れる。まだ子供か?
「ガウゥッ!」
「………」
緊張しているのか牙を剥くバイトハウンドに剣を向けダンマリだ。けど油断は無い。以外と心得があれば初めての方が怪我しにくいんだよな。
「ガウッ!」
「っ!」
姿勢を低くしスキルを使いながら詰められたリリスは突然のことに怯むが流石No2と言ったところか、怯んだ姿勢のまま飛び掛かるバイトハウンドへ斬りつける。
「ガウゥゥゥゥ…」
「危なかったなぁ、」
1度姿勢を整えると退いた相手にしっかりと目標を絞る。落ち着いた状態なら負けることはないだろう。
「ガウゥゥゥゥッ!」
「スキルばっかり使ってズルい! 私だって!」
「ガウッ!」
「■▧■▧■▧、火魔法・バーンウォール」
クイッと人指し指を上げる瞬間、飛び掛かってきたバイトハウンドの前を吹き出した炎が隔て炎壁を形成した。
「ふふふ、スキルはお互い様だよね、」
そんな言葉と共に前だけだった壁は四方、はたまたバイトハウンドの上までをも覆い完全なキューブとなった。
「ガウゥゥゥゥッ!」
中で鳴き声は聞こえる。しかし炎で身動きもできないのだろう。炎壁が破られる様子はない。
「どう?」
「スゴいじゃないか。初めてとは思えないぞ」
「へへ、魔法なら母さんに教え込まれたからね!」
「エリスやるなぁ…。けどリリス、油断は禁物だぞ。敵は5匹、だぞ」
「あっ!」
「まだまだだな。火炎魔法・四ノ炎竜」
詰めが甘い。けどまあ、初めてにしてはよく出来た方だろう。折角なのでリリスの炎壁から出ると云うパフォーマンスを見せながら忍び寄るバイトハウンド達を炎竜は噛み殺し自身の炎で燃やし尽くす。
「・・・・・」
「なにボウッとしてんた。最後、捕らえた1匹が残ってるだろ?」
「え、あっ、うん!」
グッと拳を握り締めると同時に囲む炎壁は圧縮するようにバイトハウンドを燃やし潰した。炎で燃やされたせいかそこには何も残らなかった。
「終わったな。けど、まだまだ詰めが甘いな」
「自分でやってみて分かったよ。けど中々やるでしょ?」
「まあな。けども過信が1番の敵だぞ!?」
「わ、分かってるよ!」
「ならよし! 今夜はここで野営だ。準備しろよ!」
「ここで!?」
「あぁ。意外にここなら開けているし焚き火もしやすいだろう。嫌か?」
「大丈夫だけど……」
「なら決定だ。土魔法・土塀」
グッと土が盛り上がり俺を中心にした半径5メートル程を2メートル程の土塀が囲む。装飾は一切無い。
「リョウ、前もそうだったけどこの土塀って魔力は消費しないの?」
「どういうことだ?」
「だってこんなに大きな物を作るのなら沢山の魔力が必要でしょ? なのにリョウったら顔色ひとつ変えないんだもん!」
「あー、普通に使うぞ」
「なら我慢?」
「いや、スキルだ!」
「スキル!?」
「あぁ。固有スキルだ。魔力が無限っていうスキルだ」
「反則じゃない!」
「まあな。その変わり魔力の量の調整は全て自分でしなきゃだけどな、」
「それでも反則よ!」
「まあまあ。そんなこといいじゃないか。それより夕飯はどうする?」
「食べる! もうお肉でいいよ」
「分かった。なら昨日の肉でいいよな?」
「うん!」
と言うことで焚き火に串に刺した肉を当てて甘ダレで焼いていく。数分後、香ばしい香りが周囲に漂い腹の虫が鳴き声をあげる。
「そろそろいいだろう。先に食べ始めといてくれ」
「どこいくの??」
「少し仕留めに行こうかなと思ってな。2人分には足り苦しいだろう?」
「大丈夫だよ。私これでも少食だよ、」
「そうか? まあいい。じゃあ食べよう。熱いうちの方がいいからな、」
「うん!」
香ばしさ漂う串を口へ運ぶと俺達は夕飯を済ませた。




