第66話
「分かっていたのか?」
「まあね。リョウが出てったから確信に変わったよ、」
「起きてたのか?」
「うん。気になったから目を瞑って足音を聞いてたの。そしたら出てったから、」
「はぁぁ。はじめからかよ、」
「ふふ、領主って云うのは大変なんだよ。人一人理解できなくて国は納められないからね」
「どこか悔しいな、」
「私は満足だよ。少しだけどリョウのそうな表情が見れたからね!」
「っ、」
「行こうよ。私ももう動けるよ?」
「そうか?」
これが普通の人間なら確実に止めている。しかしリリスは魔族。俺達人間とは基礎能力が違うんだ。まあ、俺も人は捨ててるがな…。
「うん! 行こうよ!」
「分かった。けど、今日はゆっくり行くぞ。今は薬で痛くないが今日の夜には効力が切れるからな、」
「分かってるよ! それなら昼間は大丈夫なんでしょ!?」
「まあな、」
「じゃあいいじゃない!」
「それもそうか、」
「そうだよ!」
「そうだな、行くか!」
一旦穴を出るとリリスを俺の後ろへ隠し右手に魔力を集める。
「火炎魔法・散爆連鎖」
飛んでいった炎球は穴の中の壁に当たりそこを中心に拡散する。そして拡散した各場所で大爆発を繰り返す。
「行くぞ、」
「えっ、いいの?」
「大丈夫だ。すぐに収まる、」
俺はリリスの手を引き穴から引き上げる。怪我人のリリスをあんか爆風でチリが巻き上げられる場所に長い間滞在させる訳にはいかない。
「ねえリョウ。そう言えば今は何処に向かってるの?」
「取り敢えずは港まで行こうかなって。そうすれば違う大陸にも渡れるだろう?」
「確かに! じゃあ次はどこの大陸に?」
「獣人とかかな。俺もリリスも獣人は含んでないが問題ないだろう、」
「まあ、リョウがいるしね!」
「頼りすぎじゃないか?」
「そう? じゃあリョウが教えてよ!」
「ん? 俺が?」
「うん。魔法も剣もリョウの方が強いし!」
「そうかな? まあ、俺でいいんならな、」
「じゃあお願いね!」
と言うことで俺がリリスの戦闘技術を指南することになったのだが少し待てよ…、
「リリス、取り敢えず次の町についてからだぞ」
「えー、どうして?」
「その傷、」
「ぅ……」
「自分が怪我人だってことを自覚しろ。間違えればそのまま痛手を負うぞ」
「もう喰らっちゃってるよ!」
そう言って笑うが冗談で言ってるわけじゃあない。俺は本当に些細な傷で猪から痛手を負った記憶がある。油断してはダメだ。
「なら尚更だ。そんな痛手を負ったまま戦闘は危ない。最低でも次の町までは俺が戦闘を担当するからな!」
「んー、分かったよ! けど、リョウは心配しすぎ!」
「そんなこともないさ。それにリリスに万一のことがあれば俺は耐えられないからな……」
「嬉しいこと言ってくれるじゃない!」
「ふっ、正直な気持ちだ。だが力が強くてもどうにもならないものがあるんだ。俺には力しかない。リリスを力で守ることは出来てもそれ以上は出来ないんだ…」
俺には多くのスキルと能力が備わっている。今ならこの周辺の魔物に負けることもなくなっている。しかしそんな俺も時間を操ることはできない。まして人の命など……。
「それって、どういう?」
「すまん。なんでもないんだ…、」
「それも昔の話?」
「………」
「分かった。これ以上は聞かないよ、」
「ありがたい……」
「私は詮索しないよ。リョウが隠したいんならそうすればいいと思う、」
そこで一旦言葉を切るとその場で止まり俺の方へ振り返る。
「けど、私は信じてるからね!」
ハッとさせられた。この世界に来て様々な経験をして様々な出会いと別れを経験しどうにかなっていたようだ。守ると言ったがそもそもそれは目に見えることだけ。俺は自分の得意な所を見失っていたようだな。それに俺は今ある、自分の手の届くものに集中すればいい。しかしそれを踏まえた上で…、
「ふふ、俺なんて信じていいのか?」
「当たり前じゃない!」
そんか答えが帰ってくるなんて向こうの世界じゃ無かっただろうな。ここに来て初めて俺が得た素晴らしいものだな。
バサバサバサ、
「うわっ!」
「大丈夫か?」
飛び出してきた鳥達に驚いたリリスを支えると、パッと触れた体があまりにも小さく感じた。俺の中で生まれた感情はまだ理解できない。
「う、うん。ビックリしちゃって……」
「気を付けろよ。俺がいなかったら転けてたぞ?」
「うん。ありがと、」
「本当に気を付けてくれよな。行くぞ、」
「え、待ってよ!」
そろそろ陽も頂点に達し昼時だ。出来れば今日か明日には町に着きたいが、それとは逆にリリスの傷か治らなければついてほしくないと云うのもある。
「そろそろ昼だ。一度休憩するか?」
「そう、だね。私も少し、疲れちゃった」
「傷のせいだ。いいから休んでろ、」
何か手伝おうと俺を見つめるリリスだがそれを手で制すると休むように釘を刺す。俺の弱い精霊魔法を使ったとはいえ、体の傷はまだまだ残っている。体力も相当削られているだろう。
「けど~!」
「けど、じゃない。全てスキルで出来るんだ。することなんてないさ、『等価錬成』」
昼間なんて重いものはキツいだろう。いつかどこかで食べた色とりどりのサンドウィッチが手の中に現れる。
「サンドウィッチっ!?」
「そうだ。食べられるか?」
「うん! 私大好きなんだ!」
「それは良かった。いくらでもあるし好きなだけ食べてもらって構わない」
「リョウも食べなよ。私1人で食べるより2人で食べた方が美味しいよ!」
「そうだな。なら俺も……」
それから数分後、パクパクと口に運べてすぐに無くなった。のだが腹にはドッシリと溜まる。少し違う意味で休憩が必要だな。
「食べ過ぎた~」
「俺も…。少し休憩だ!」
「それがいいよ。私も動けない……」
調子乗って作りすぎたし食べすぎた。正直言って美少女と言っても過言じゃないリリスとだ。飯も進むってものだろう?
それに既に見知った仲なのだ。遠慮の欠片もない。
「ふぅぅぅ。リリス、聞いてほしいことがあるんだ」
「ん、なに?」
さっきまだ無理とか言ったばかりだが、もう話したいんだ。いつまでも胸中に留めているのは苦しい。俺は俺だ。けど…、怖い。
「それは本当に近い過去の話、」
「リョウ、無理にはいいんだよ?」
「あぁ。話したいから話す」
「分かった…、」
「俺はな、ここの世界の人間じゃない。転生者だ」
「転生者、か……。ふふ、ははっ!」
「どうしたんだ?」
「リョウ、本当にこんなことってあるのかな? 実は父さんも転生者だよ!」
「っ!」
「驚いた? だから私も転生者のことは分かるの。だから向こうのこと、言われても分かるよ!」
「本当か!?」
「ふふ、隠してたことはお互い様だね。それに、リョウはそれだけじゃないんでしょ?」
「それまでをも見透かされるのか。凄いなリリス」
「そんなことないよ。私はリョウ程策士じゃないよ、」
「………。俺には仲間がいたんだ」
「仲間?」
「あぁ。リリスに言うのは酷だがもっと付き合いの長い恋人みたいな存在だった…」
「………」
「けどな、その町がどうなったかは言ったよな?」
「戦火に……」
「そう。そこでアイツ等も俺の前から消えたよ。その時、俺も想いを寄せてただけあって絶望したよ。最近どうも思い出すことが多くてな……」
「それがリョウが隠してたこと?」
「あぁ……」
「ふふ、可愛い。私、そんなこと気にしないよ。逆に今教えてくれて良かった。やっぱりリョウは心配し過ぎだよ!」
「本当にいい奴だよ。お前って奴は、」
「ありがと! そうやってお前なんて呼んでくれるの、初めてだね」
「そうだったな。言えたおかげかな、」
「なら良かったじゃない。出来るだけでいいと思う。私、信じてるからね!」
「その言葉、ズルくないか?」
「ふふ、特権だよ!」
「………」
「そろそろ行こ!」
何も無かったかのように立ち上がると俺の手を引き歩いていく。俺が前に立つべきなのにな……。




