第65話
「そ、それってガン見じゃないのよ!」
「冗談だ。そんなズルいことはしないよ、」
「んー!」
「それより、もう痛くないのか?」
「正直まだまだ痛いよ。けど我慢するしかないから…、」
「そっか。まあそうだな。じゃあ気を紛らわす為にも飯でも食おう。リリスも腹へったろ?」
「うん。けど私、お肉はちょっと……、」
「そう思って、既に作ってあるよ、」
「えっ! ホント!?」
「あぁ。どうだ、動けるか?」
「だ、大丈夫だから‥」
フラフラのリリスの脇下へ手を回し片腕を自分の首へかけながら手に取る。所謂肩を貸すという状況だな。
「どうした、痛いか?」
「だ、大丈夫…」
傷を受けて、体が万全でないせいか体温が高い。まだまだ要安静だな。
「ゆっくりだぞ、座れるか?」
「うん……、」
ゆっくりと座布団へ下ろす時、白銀の髪が俺の手に触れた。なんというか、本当に分からない感情だ。
「食べながら話そう。不味いかもしれないがこんな物しか作れないんだ、」
「いいよ。作ってもらってるんだもん!」
本当にしょうもない物しか作れない。だしの素にうどんを入れネギをきざみ入れただけ。
「これは俺の故郷の食べ物だ。麺って言ったら分かるか?」
「麺?」
「ここら辺にはないのか?」
「うん、」
「まあ、食べてみてくれ。言葉で説明するのは難しい、」
「分かった、」
アクリル板の云う通りこの世界は西洋文化を多分に含んでいた。取り敢えずここで使うのはスプーン、フォーク、ナイフだ。箸なんてものはない。そう考えるとパスタくらいあっても不思議じゃない気がするんだがな。
「美味しいじゃない。謙遜する必要ないよ!」
「ありがとな。それはそうと、何があった?」
やはりパスタのように器用に食べるものだ。小さな頃から使う食器を使えばある程度の物は食べられるんだろう。
「はじめは遠くに魔物を見付けてリョウが教えてくれたので撃ってみたんだけど…、」
「そこで仕留め損なったと?」
「うーん。仕留めたのは仕留めたんだけど、その後ろから魔物が近付いてて襲われちゃって……」
「気配に気付かなかったんだな、」
「うん。その時に右手は怪我しちゃって、そのまま剣を突き刺して逃げたんだけど、その先で足が動かなくなっちゃって……」
「んっ、じゃあ胸の傷は?」
「その後、蛮刀を持ってる人達に襲われちゃって、体中傷だらけになっちゃった。結局私も連れていかれそうになったんだけど、その時、魔物が走ってきてその人達も逃げちゃった、」
「ほう……」
処刑決定。恐らくその人達と云うのは盗賊。害虫を殺すのに許可は必要ない。
「どうしたの?」
「いや、その魔物には感謝しなければなって思ってな。俺の大事なリリスを結果的に守ってくれたんだから、」
「ふふ、それじゃあ私も感謝しなきゃ。それにリョウにも、」
「感謝、か。生きててくれて、ありがとな…」
「ん、?」
やっちまった。ついつい変な雰囲気を出してしまったな。本当にここへ持ち込むものじゃないのに…。
「いや、なんでもない。忘れてくれ」
「気になるなぁ…」
「まあ、諦めてくれ。昔の話だ」
本当はつい最近の話。だけれどもう忘れるべき話だ。目を閉じればその前にまだ現れてくる。しかしそんなのは過去の思い出に浸る俺の弱さだ。
「分かった。リョウが話してくれるまで待つよ!」
「そう言ってもらえるとありがたい、」
「私だってそんな野暮なことはしないよ。リョウだってもし私の立場だったらそうするでしょ?」
「まあ、まず聞かないだろうな。と言うかもう止めよう。空気が可笑しくなった、」
「そ、そうだよね。私も食べ終わったし私、先に寝るね、」
「ん、ちょっと待ってくれ」
「ん?」
アイテムボックスの中を探し錬成した鎮痛剤を手に取る。錠剤型の鎮痛剤はリリスには慣れない物かもしれないがな。
「これ、飲んでくれるか?」
「なにこれ?」
「薬だ。傷を治すのを助けるのと痛みを消すんだ」
「うん……。けど、これどうやって?」
「飲むんだよ。噛むんじゃなくて、水で流し込むんだ」
「えーと………、これでいいの?」
俺のいった通り口へ含むと手元の水で一気に流し込む。初めてってむせたりするんだが……。
「あぁ。それで痛みは落ち着くはずだ。それにその薬は眠気も襲ってくる。眠くなるだろうから先に寝ているといい、」
「うん……。ふわぁぁ。ホントに眠くなってきちゃった。おやすみ……、」
この薬の嫌な所は副作用である眠気が強いところ。その分効果は凄まじく痛みもひき、傷の治りも早い。
「おやすみ。リリス…、」
もう既に寝ているリリスの髪を撫でると俺は穴を出た。まず始めにその盗賊とやらを成敗しなければな。それも夜のうちに…、
「お前達、探せ。そして見付けたら追跡しながら伝えろ」
闇魔法が使えるようになって作れるようになった闇鳥を真っ暗な夜空へ解き放つ。この暗さでは真っ黒な闇鳥の姿は視認できない。隠密行動に一番向いていると思う。
「キュィィィッ!」
「行けっ!」
俺は高みの見物と行こう。高い岩山の上へ登り疑似生命達の魔力を追いながら魔力を集中させる。プランは完璧に考えてある。地獄を見せる為のな!
〈キュィィィッ!〉
脳内に直接流れてくる鳴き声とイメージは発見したことを示し其奴等の死を意味している。
「闇魔法・暗獄檻」
闇鳥は体が完璧に闇なので抜けられるが闇以外の因子を持つ生物にはこの檻を越えることは出来ない。解き放っている闇鳥達を集め魔晶として回収するとその檻へとゆっくり歩いていく。なにも急ぐ必要はない。死を待つのに覚悟も必要だろうからな。
「ふはは!」
なんとも笑いが込み上げてくるんだ。憎しみ、恨みを晴らす時のこの爽快感、クズを成敗する優越感はなんとも昂るものがある。そろそろ黒い檻が見えてくる。術者である俺は通ることができる。
「…………」
相手が気付くまで俺は一切話さない。真っ暗な空が全てを隠し俺の存在さえも消しているようだ。まあ、魔力によって盗賊達の位置は熟知しているがな!
「…………」
「お、お前は誰だ!」
急に目の前へ檻が現れ相当動転しているのだろう。俺に向ける剣は震えその顔には冷や汗が浮かぶ。
「ふふふ、害虫共を殺す死神ですかね、」
ブシュゥゥゥ……、
「っ!」
「どうしたのです? 死神に会ってただで済むわけないでしょう。植物魔法・刺縛蔦」
怯える盗賊達の下半身は既に刺のついた蔦が絡み付き動きを封じている。もし今動こうとすれば刺が肉を抉る。
バンッ!
バサバサと夜鳥が羽をはばたかせ逃げていく。飛び散った血が樹木を赤く汚す。
「あ、悪魔だ……」
「ふふふ、次は何がいいですか?」
バンッ!バンッ!
その夜は悲鳴と銃声が広い広い森中に響いたと云う。
「ふわぁぁぁ。痛くない?」
「おはようリリス。よく眠れたか?」
盗賊達の死に際はわざと語らないでおこう。血で染まったその場所は綺麗に処理し俺の服へついた返り血もキッチリと洗い流した。
「うん。けど、ずっとバン、バンって銃声が聞こえてたよ?」
「ははは、大きな獲物を見付けてな。追いかけてる内に見失ったんだがその時の銃声だと思うぞ?」
「そうだね。確かにリョウからしたら獲物だよね」
「っ!」
ふふ、と笑みを浮かべると俺の肩へ手を置き顔を洗いに行く。見透かされていたようだな。




