第63話
「遅いなあ。どうしたんだ?」
あれから随分待ったが中々リリスが帰ってこない。とっくにチーズケーキも無くなり珈琲も飲み終えたというのに…。
「手伝ってくれ、」
魔晶を発動させ今日以外と世話になっているムーンウルフに飛び乗ると俺は焚き火を後にして森林の中へ走っていく。何をしているのか知らないが遅すぎる。焚き火も消していこうかと思ったが帰ってきた時に面倒だと思い止めた。
「ガルルルルルッ!」
ムーンウルフが威嚇の声で何かを俺に知らせる。それに答えるように前を向くと直線上には大きめの蝙蝠猫が。
バンッ!
火薬の匂いと共に銃弾は血の鉄臭い匂いを撒き散らす。しかしそんなことを気にする者はここにはいない。俺もムーンウルフもへばりつく血を気にも止めず突き進んだ。
「なんだこれ…、」
ムーンウルフの鼻を頼りに探すと開けた場所に全面血で汚れた地面と横たわる狼の魔物が。その腹には日緋色金の直剣が突き刺さっている。しかしそのような状態でも微かに息をしていてまだ生きていることが分かる。見るからにリリスだな。直剣を回収すると銃口を頭へ向ける。
バンッ!
取り敢えず虫の息の魔物は殺し魔晶を奪う。そして周辺を観察すると木にまだ新しい血の跡を見つけ、その根元から1本、血の後が続いてるのを発見した。
「嫌な予感がするな、」
「ガルルル、」
何気に俺の呟きに応答してくれたムーンウルフをポンポンと叩き、スキル『消音』を使いながら草村の中を歩いていく。
「グニヤァァァァァ、」
先の方で魔物の鳴き声が聞こえ急いで移動する。幸い『消音』を使っているので音で勘づかれることは無い。
バンッ!
何かに牙を突き立てようとした魔物を撃ち抜きその体をどかす。するとやはりそこにいたのはリリスだ。
「…………」
「おい、しっかりしろ! 目を開けろリリス!」
どうやら気を失ってるみたいだ。まあそれも無理はないだろう。肩から脇腹にかけての大きな傷がある。その他にも右手に深傷を負っている等の傷があり無事とはとても言えないだろう。
「…………」
「ここまでありがとうムーンウルフ、」
流石に重症のリリスをあそこの焚き火まで運ぶのは無理がある。と言うことでその処理にむいてそうな…、
「水属鳥、クラッシュコング、頼むな!」
「キュィッ!」
「ウホホッ!」
水属鳥には炎の始末を、クラッシュコングには大量の獲物の内持てる量だけを運んでくるようにと命令し、俺は近くの岩場へと穴を掘りリリスを寝かせる。
「開始早々ホント不吉だな…、
水魔法・流水、土魔法・補強」
手を流水で洗い、掘った穴の壁も補強し平らにして処置できる場所に作り替える。広さも広くしてヤミラスで泊まった部屋の半分くらいの大きさには出来た。
「まずは傷口の消毒だな…、水魔法・微流」
手の中に集められた魔力は手から解放されると共に清潔な水に変わり傷口の固まりかけていた血なども一緒に流す。
「精霊魔法・蘇生」
やはり無練習の俺の魔法では深い傷は治せない。これも大量の魔力を注いだのだが、全身につく小さな傷を治す程しか出来なかった。
「まあ、悔やんでも仕方ない。俺のできることをしよう、」
魔法に頼りきってはダメだ。対処すべきなのは前の大傷と前腕の爪の傷。魔族であるとはいえこれ程の傷が危険なのには変わりないだろう。
「…………」
ドキドキする。もし自分の処置が間違っていると考えると手が進まない。消毒液を前腕の傷口へ振り掛けて消毒をする。そして傷口を繋げるように包帯で右手を巻き前腕の処置は完了。
「ふぅ。さて、どうするか?」
そう、残る傷は前の肩から脇腹にかけての傷だ。正直どうやって巻けばいいかよく分からない。一応切られた服の隙間から消毒液で消毒したのはいいものの、この次が難しい。こんな時だが流石に気を失っている女の子を脱がす訳にもいかないし、かといって放置も出来ない。
「くっ!」
あとで罵られても構わない。俺は自分の良心を信じて動く!
その後、蘇生と包帯とで傷口を守る形で包帯を巻き仰向けに寝かせる。本当に何があったんだろな。けど……、
「頑張ったな。偉かったぞ、」
まだ目を閉じ静かに眠っているリリスを眺めるとさっきまでの緊張感なんてものは消えてしまう。穏やかな気持ちだけが心に残る。その頃、
「ウホホッ!」
「キュィッ!」
ヒュゥッと静かにゆっくりと俺の肩へ留まる。クラッシュコングの方も俺達の獲物を部屋に置き俺の前で服従の姿勢をとる。
「ありがとな、もう戻っていいぞ」
魔法を解き2匹は魔力の粒子となり消えていく。俺はそれを確認すると再びリリスを横目で見ると獲物の方へと足を運んだ。リリスも心配だが想っても仕方のないことは理解している。
「えーと……、」
狼、猪、鳥、猿、獲物の内訳としてはこれくらいで、量も申し分ない。だが、ここが一応室内で焚き火が出来ないことを考えれば良いとは言えないだろう。
「あんまりな物も無理だろうしな、」
流石に病み上がりの子にバリバリの焼き肉を食べさせる訳にはいかないだろう。ここは一肌脱ぐしかないな!
「まずは何をつくるかな、」
と言ってもそれだけ。炭水化物も無ければ野菜類も無い。けれど、俺には強い味方がいる!
「『等価錬成』」
無ければ作ればいい。だしの素にうどん、そしてきざみネギ、そして厚いめの鍋。火も中で出来なければ外でやればいい。
「火魔法・灯火」
過程は割愛し穴の前で焚き火を灯す。その上へ鍋を置き水を半分越え程まで注いでいく。そして沸騰してきた頃、だしの素を入れ蓋を閉めた。
「すこし休憩……、」
その場へ腰を下ろすとこれからのことについて考える。傷を負ったリリスを連れ無理な移動は無謀といえる。
「寒いなあ、」
さっきの魔晶を取り出し煌めく魔晶の表面へ指をのせる。
「火魔法・発熱刻印」
魔晶の内部へ魔力を流し刻印型の魔法を発動させる。すると内部には魔法が刻まれるということだ。
「そろそろかな、」
蓋を開けると出汁の色がしっかりついたスープ状態だった。あとは食べる手前にうどんを入れるだけ。それと同時に鍋は火から離すことを忘れない。
「土魔法・石針」
いくら食べさせられないとは言え、肉がないのは寂しい。若干楽しみに思いながら疑似生命達が仕留めた鳥を大太刀を使い掻っ捌いていく。
「ふぅ。疲れる、」
1度気の抜けた状況から鳥を捌くのはあまりにも憂鬱だ。しかし、それでもやらなければならないのには変わり無い。毛皮を剥ぎ肉を切り石針に肉を刺す。そして鍋の下側で焼いていく。
「ふぅ……。やっと一息、」
あとはスープ状態になったスープにきざみネギとうどんを加えるだけ。それまでは少し休憩だ!
「…………」
外ですることも無くなりボウッとしていると鍋かは水分が吹き零れてくる。沸騰したか?
「ん、」
鍋を火から離して吹き零れを拭こうとすると、
「熱っ!」
だよな。ホント馬鹿だと思う。さっきまでガンガンに火に当たってたのに熱くないわけないよな。
「火傷したか…、」
触った指先が滅茶苦茶ヒリヒリして耐えられない。けどまあ、これくらいなら……、
「精霊魔法・蘇生」
白色の魔力の粒子が火傷に集まり痛みが消えるような感覚になる。そして魔力が散った頃には火傷も綺麗サッパリ消えている。
「心配だし…、戻ろうか」
怪我人を残して出ているのも俺からすると心配で仕方ない。肉は弱火だし放置しても大丈夫だろう。俺は鍋を手に狭い穴の入り口を通り抜けた。




