第62話
「腹減ったなぁ…、」
「仕方ないでしょ! もしかして朝から捕りに行くとは言わないよね?」
焚き火に砂をかけ火を消したあと、再び南に向けて歩こうとしていた。けれどまあ、朝食も食べていない俺達は腹ペコだった。
「仕方ないよな。朝くらい我慢するか、」
「そうだよ! さき行くからね!」
「待てって、」
まあ取り敢えずはムーンウルフの魔晶で2匹、疑似生命を作り出す。白銀の毛並みがいい感じだ。
「これなに!? 取り敢えず説明を!」
「これは…、魔法だな!」
「いやいや、無理があるから!」
「いや本当に。魔法だからな、」
「ん?」
「ん?」
「ありえないでしょ?」
「いや、魔法だ……」
「じゃあ、一歩譲って魔法でいいよ」
「ならいいじゃないか、行くぞ!」
「………」
ビクビクとしながらムーンウルフの首筋へ触る。するとやはりムーンウルフも違和感があるのかブルッと体を震わせる。
「大丈夫か?」
「ねえ止めない? 歩いたらいいじゃない!」
「仕方ないなぁ、」
1匹だけ魔晶に戻して手元へ戻す。当然リリスの分だけど…、
「なに?」
「一緒に乗ればいいだろ?」
「えっ……、」
返事を聞く前にリリスをムーンウルフの背中へ乗せその後ろへ俺が乗る。リリスが後ろでもいいが、危ない気がしてならないから。
「さあ行くぞ!」
「ちょ、リョウ、本当にこのまま行くの?」
「ああ! それじゃあ行くぞ!」
ドッ!
鋭い踏み込みの音と共にムーンウルフの体は一気に加速する。それは木々の間を紙一重で躱していて乗っている人は普通に怖い。まあ、たまに避けきれない木々は俺が切り払うだけだがな!
「リョウ、もっとスピード落としてよ!」
「すまん、俺には無理だ」
「そんな~~」
リリスはこう言うの苦手なのか?
まあ、問題はなさそうだがコイツくらいなら慣れてほしいな。
「まだまだ走るが大丈夫か?」
「そんなわけないでしょ!」
「まあ、どうにもならないけどな!」
「じゃあどうして聞くのよ~!」
そんな悲鳴さえ、強い風の中に消えていく。せめて数日中には次の町に行きたいな。
「はあ、はあ、もう嫌!」
「そうか? いいじゃないか」
「よく無いって! 前なんて滅茶苦茶怖いんだから!」
「そうか? なら、後ろにくるか?」
「えっ……」
明らかに失敗したっというような顔をする。まあ、ここで助け船を出すことも出来るけど慣れてほしいしな。
「どうする?」
「え、あ、うん。じゃあそうさせてもらうよ!」
「分かった。なら次からはリリスは後ろに乗ってくれるか?」
「う、うん、」
「よし、ならこの話は終了。昼食の獲物を捕りにいくぞ!」
「えっ、もう少し休まないの?」
「まあな。リリスが疲れたのならここにいてもいいんだぞ?」
「そ、そんなことないわよ!」
「なら行くか?」
「当然でしょ!」
妙に気合いの入っているリリスを不信に思いながら大太刀を手にとる。そして当然ムーンウルフも!
「ガルルルルル、」
「げ、どうしてまた!?」
「手伝ってもらう為だ。数は多い方が早いからな!」
「そう……」
「どうする? 俺と行くか、それとも分かれるか?」
「じゃあ、分かれよ!」
「分かった。じゃあここ集合だ!」
「私、先行くね」
「あぁ」
ヒョイッと木に飛び乗るとリリスは森の中へ消える。俺は疑似生命達に獲物を仕留めここへ運ぶように命令すると自らもそうさせて獲物を探し始めた。
バンッ!
バタバタと木々に留まる森達が羽ばたいていく。火薬の匂いが俺の鼻を掠めた。
「魔物相手ならこれでいいな!」
風穴の空いた魔物を持ち上げアイテムボックスへ入れる。因みにどうやって入れるかと言うと結晶に当てるだけでいい。
「それにしても多いな、」
まだ10分も経っていないのに既に仕留めた数は5匹以上。今も近付いてくる魔力源を感じる。
「そこかっ!」
バンッ!
とてつもないスピードで飛んでくる魔物に銃口を向け撃ち抜いた。しかしその音は生き物を殺した音でなくまるで鉱石でも当たったような音だった。
「!!!!!!」
「なにっ!」
銃弾にその体を打たれたにも関わらず魔物は俺に向けて一直線に飛んでくる。そしてその魔物に何処か恐怖を感じ俺は後ろへ転けてしまう。しかしそれで良かった。魔物がぶつかった木はドロドロに溶けてしまったのだから。
「!!!!!!」
「危ないな…、と言うか、デカイ昆虫?」
その体は白く硬い甲殻に覆われ銃弾が当たったであろう場所が深くへこみヒビが入っている。
「!!!!!!!!」
ブブブブブブン、
羽を2つにも3つにも見えるくらい早く羽を羽ばたかせ2回目の突進が俺を襲う。
バンッ!
2度目の発砲。今度は落ち着いて撃てたおかげで羽ばたく羽を飛ばせた。
「よしっ!」
落ちた昆虫は残る羽をばたつかせるが片方を失った状態では悪足掻きに過ぎない。やがてそれを止めて逃げようと歩き出した。
バンッ!
3度目の発砲。仕留める気で放った弾丸だったから正真正銘色々な意味で虫の息だった昆虫は息絶えた。
「コイツ、食べれるのか?」
いや無理。食べられたとしても無理。出来ることなら嫌だが仕方ないな。俺は死んだ昆虫を仰向けに寝かせると6本の足が集まる真ん中の部分へと刃を入れていく。
ブシュゥゥ……、
切り口から茶色の体液が吹き出し俺の右半面を汚す。
「くそっ! 最悪だ…、」
昆虫の体内には白子のような内臓が詰まっていて明らかに触りたくない。そんな中俺は真っ赤な内臓を見つける。それはドクドクと脈打っていてこれだなと確信する。
「…………」
触りたくない。けど仕方ないよな。
「!!、!、」
腹を開かれながらも昆虫は口を動かし俺に抵抗の意思を向ける。
「覚悟だな、」
ブシャッ!
無駄な抵抗なのかもしれないが右手に魔力を纏わせその心臓を握り潰す。破裂した心臓は血を撒き散らし俺の手に残ったのは真っ白な魔晶だけ。
「さあ、行こう」
気持ち悪くてこれ以上何かする気力を失ってしまった。俺は右手を近くの小川で洗うと別れた場所へと戻った。
「まだなのか?」
待ち合わせの場所では疑似生命が数匹、命令した通り獲物を集めまた狩りに向かう。しかし関心のリリスはまだ来ていないな。まあ仕方ないな。
「取り敢えず……、焚き火だな。土魔法・作石」
手を翳すと土の上へ俺の想像した焚き火用の石が作られ無駄な魔力は散っていく。
「えーと、枯れ木、枯れ木…、」
周囲を見回すと湿った地域なだけあり乾燥した木等一切落ちていない。仕方ないので湿った木々を集め焚き火用に囲った石の間へと下ろす。
「複合魔法・乾燥」
俺達現代人にさ身近な乾燥だが色々な属性を応用して使っている。しかし流石魔法だ。木々は瞬く間に水分を失い最適な状態になる。
「火魔法・灯火」
やっと焚き火が焚けた。橙色の炎がメラメラと焚き火の中で燃える。これでも見てたら暇を潰せるかもしれないな。
パチパチ、
その頃、また疑似生命が戻り獲物を置いていく。もう獲物の量は山積みになっていて集める必要なんてないだろうと思われた。なので、
「戻っていいぞ、」
3匹放っていたが2匹がすぐそこにいたので魔晶へ戻す。あと残り1匹もすぐに戻ってくるだろう。
「少しゆっくりしているか『等価錬成』、」
さっき退けた大きめの石に恒例のチーズケーキと珈琲を作り完全にリラックスタイムへと移行する。
「出来るだけはやくもどってこいよ~」
誰に言うわけでもなく呟くと俺はフォークを手にケーキを口へ運んだ。




