第6話
第二ヶ所目。
ここはオークの蔓延る洞穴だ。
数は推定12~13体。負けることはない。
「坊主、一人で攻略できるか?」
「はい!」
「そうか、行ってこい!」
俺は一人で洞穴に入ると攻略目掛けて走り始めた。
「三匹目、、はぁっ!」
「ブモォォォォォ!」
洞穴を疾走する勢いと魔力による単純な加速を合わせて短剣を振るう。爆発性のあるエネルギーを爆発させたこともあり、オークの首から上は吹き飛んだ。
「三匹目討伐。あと十匹!」
心無しかオークを殺す度に腕力が上がっている気がする。それに殺した時の魔力回復量も。
「ブモォォォォォ!」
「ブモォォォォォ!」
二体同時か。日本じゃまず有り得ないことだ。まるで先輩に囲まれた時みたいな圧迫感を感じる。
「っ!」
消耗品であるナイフへ滅茶苦茶な量の魔力を込めると、眉間へ向かい投げ付ける。片方は外れたがもう片方は命中した。
ドカーンッ!
「はっ!」
当たらなかった方も当たった方も大爆発を起こし辺りを爆風が包んだ。俺はその間に刺さらなかった方の顎下から刃を突き入れた。
「あと八匹。」
俺は投げた短剣がひび割れ使えないのを確認すると攻略へ向けて再び走り出した。
「ふぅ、ふぅ。あと三匹。」
一斉に五体出てきた時は流石にビビった。正直どうするか迷ったので、取り敢えずは魔力爆発で頭ごと吹き飛ばしたが…。
「ここで、最後か。」
最後の穴か。正直一番強いのがここだと思うんだが…。
「ブモォォォォォ!」
やっぱり。一際大きなオークが他のオークが持っていない棍棒を振り回し雄叫びを上げる。そしてその周りを二匹のオークが血気盛んに今にも襲い掛かってきそうだ。
「ブモォ。」
大きなオークはドスンと座ると、普通のオーク二匹へ行ってこいとでも言うようにジェスチャーする。
「ブモォォォォォ!」
「ブモォォォォォ!」
相当戦いたそうにしていたオークは何も考えずに突進してくる。
「危ないな、」
少し後ろへ飛んで避けたが、ぶつかったままオーク二匹は俺を捕らえようと走ってくる。
「くっ、、これで四本目だ。」
魔力を思いっきり込めた短剣を突進してくるオーク二匹の肩へ突き刺す。
ボンッ、ボンッ!
肩の内部で割れた短剣の破片が小爆発を起こし肩を破壊した。いや、それで収まって良かったとでも言うべきなのかもしれない。ただしそれでも本体である短剣の爆発が待っているのだが、、
ドカーンッ!
短剣は刀身を中心に爆発してオークの頭から片腕にかけてを吹き飛ばした。
「ふぅ。これでお前一人だ。」
「ブモォォォォォォォォォオ!」
煩い。大きい図体に似合う低脳そうな激昂の雄叫びだ。
「ブモォォッ!」
「よっと、、」
油断は禁物。今回のオークは優に五メートルは越えているし、その腕力は掴まれたら御陀仏だな。
「はあっ!」
およそ十メートル分程を破壊する魔力を三センチ程の球体へ圧縮し投げ付ける。
ドカーンッ!!
爆風は砂煙を巻き上げながら轟音をたてた。
「ブモォォォ。」
「やはりこれくらいじゃ死なないよな?」
「ブモォォォ」
次はこちらからだとでも言うように、棍棒を振り上げると俺に向かい振り下ろす。当然まともに当たれば即死だ。
「ふっ、、」
ギリギリ大きな棍棒の軌道上から外れると、股の下をくぐり死角に入る。そして後ろ足の踵上にあるアキレス腱を短剣を二本使い潰し両方切り裂いた。
ドスンッ、
オークが膝をついた。こうすれば急所が狙える。
「取り敢えず、五発は耐えろ。」
短剣の切っ先を中心に銃弾のような魔力の塊を形成し、爆発の力で押し出す。
ドンッ!
「ブモッ!」
ドンッ!
「ブモッ!」
ドンッ!
「ブモッ!」
ドンッ!
「ブモッ!」
ドンッ!
「ブモォォ…」
「どうだ?ダメージは入ったか?」
貫通はしなくても身体中至るところから血を流しダメージは蓄積しているようだ。
「ブ、ブモッ!」
「念のためだ、」
ドンッ!
「ブモォォォォォ!!!」
俺はもう動かない両手を念のため破壊すると、眉間へ切っ先を突きつける。
「じゃあな、」
刀身を根元まで突き刺した。そしてそれと共に俺の魔力は尋常じゃない量が回復した。
「さあ。おじさんの所へ戻るか、」
血生臭い洞窟内。ファンタジー世界なのだから仕方ないのだが、生前の熊との喧嘩がフラッシュバックしてきた。悪い記憶だ。
「お、戻ってきたか。」
「はい。」
「大きな音がしたが大丈夫か?」
「はい。大きなオークがいて大変でしたけど…。」
「大きなオーク、、、オークリーダーかっ!」
「オークリーダー?」
「オークの中で一際大きく他のオーク達に命令を出す個体がいる。所謂オークの上位種だ。坊主、よく生き残ったな?」
「はい。強かったですが、ギリギリ倒せました!」
「倒した!」
「?」
「オークリーダーって言ったらCランクの魔物だ。今の俺なら勝てるかどうか分からないぞ!」
「運が良かったんですよ。行きましょう?」
「そ、そうだな。坊主、俺と手合わせしてくれんか?」
「え、本当ですか!?」
「あぁ。場所はここだ。ルールはサバイバルトーナメントと同じ。どうせ坊主はルール知らないだろうから説明するが、殺さない限り何をしても良い。相手を気絶させるか、降参させれば勝ちだ。」
「分かりました。」
おじさんの面持ちはやけに本気だ。殺すつもりで…。
「じゃあ、この石が落ちた時が試合の合図だ。せーの!」
おじさんが空高く石を投げ飛ばす。
トンッ、
「はあっ!」
早い。下手をすればさっきのオークよりも手強いかもしれない。
ガキンッ!
「ぐっ…」
重い。おじさんの直剣の威力が剣を伝わり腕に伝わる。
「どうした、坊主の力はこんなものか?」
「くっ!」
直剣は振れば戻すのに時間が掛かりリロードが遅い。短剣よりは格段に!
「はっ!」
「んっ、」
左手による突きをおじさんは頭を動かすだけで避け、直剣による突きを繰り出す。
ガキンッ!
右手の短剣で防いだが、刃が腹を掠めた。微かな痛みが俺を襲う。
「どうした、遅いぞ!」
「はっ!」
短剣を逆手に持つと、魔力の塊をおじさんへ飛ばす。しかし全て華麗に避けられ直剣の軌道は変わらない。
ガキンッ!
「おじさん、同じことはしませんよ。」
魔力は以外と自由がきく。集めて密度が増せば当然硬くなるし、集めたものを解放すれば大爆発を起こす。さっきの爆発は囮。本名は魔力が込められた消耗品の短剣だ。
ドカーンッ!
「……。」
「おじさん、油断ですね。」
「そう、だな。油断だな、」
ダメージを負いながら剣を杖にして立ち上がる。けれどその目には闘志がまだ残っているのを俺は見逃さなかった。
「っ、」
ガキンッ!
爆発で体にダメージを負いながらも直剣で俺の首を狙う。当然警戒していたから弾けたが、少し前の俺なら死んでいた。
「ははは、学んだじゃないか。」
「ありがとうございました。」
「あぁ。そろそろ戻らなければな。日も随分と暮れてきた。」
「そうですね、」
暗くなってきた森を俺とおじさんはゆっくりと街へ戻った。
「ありがとうございましたおじさん。」
「頑張れよ。明日俺は坊主に付き合えないが、サボらないようにな。」
「はい。頑張ります!」
城門前でおじさんと別れると、俺は急いで昼間の鍛冶屋へと走っていった。
「あれ、昼間のお兄さんじゃないか。どうしたんだい?」
「いや、、オークと戦って短剣を使い潰してしまったんだ。」
「そうかいそうかい。何が欲しいんだい?」
「短剣が七本だ。3600Gであってるよな?」
「そう、だね。お兄さん計算早いねえ」
「ありがとう。少し勉学もやっていたものでな、」
俺は短剣を受け取ると、ベルトへ短剣を直し森へ出た。