第49話
「御主人様、御食事の御用意が出来ました。」
「分かったのじゃ。リョウ、行こうぞ」
「そうだな。」
俺とエリスはメイドさんの後ろへついて歩いていく。静かな廊下に響くのは俺達3人の足音だけだった。
そんな中、エリスは急に振り向くと…、
「そういえば、今日は重臣を招き宴会を開く予定じゃ。食事の前に少しあるが、知っておいて欲しいのじゃ…。」
「っ?」
「心配せずともよい。少し面倒だと思うが大丈夫じゃ!」
「全くもって不安しかないんだが……」
「すまぬな。妾が客を連れて来たというだけで重臣共が騒ぎ始めてのう。」
「まあいいか。朝、刀を突き付けたことから分かるように害さえなければ俺は大丈夫だ。けれど、エリス、お前の重臣だろうとなんだろうと、俺に害があるならば斬る!」
「分かっておる。妾とて言い聞かせたつもりじゃ。それに御主はそう見えて優しいからのう。奴等が過ぎたことをせぬ限り刃は抜かぬだろう。」
「よくお分かりで、」
「伊達に長く生きておらぬ!」
「御主人様、御団欒の最中申し訳御座いません。そろそろ会場に到着致します。」
見えてきたのは巨人でも通れそうな凡そ10メートル程の巨大な扉。冷めた話、どうやって開けるんだ?
「そうじゃな。礼を言うのじゃ、」
「はい。仕事ですので、」
主従関係がしっかりしているな。
それも悪い意味でなく良い意味でだ。
「うわぁぁ、」
扉を通ると中はとてつもない広さで、そんな部屋の端から端まである長いテーブルの上へ料理が並べられている。そこにいる人々も様々な色の礼服を纏っており、なんとも田舎者育ちの俺からすればカラフルと言わざる終えない。
「どうじゃリョウ。賑やかじゃろう?」
「だな。それに艶やかだ、」
「わかる気がするのう。実は妾、こんな宴会は苦手なのじゃ。なんと言うか、派手と言わざる終えぬからのう。」
「それをエリスが言っていいのか?」
「まあ…、ダメじゃな」
「分かってるのかよ!」
「…………」
「…………」
「た、立ち話もなんじゃ。妾達も前へ集まらねば」
「そうだな。さっきからこっちを観察してる奴等は誰なんだ?」
「騎士団の部隊長達じゃ。騎士団最強のハンデスが破れたのを認めたくないんじゃ。だから御主を嫌っておる。気を付けい」
「分かった。処理はレンタロと同じでいいよな?」
「大丈夫じゃ。殺さなければ何をしてくれても構わぬ」
「分かった…。」
殺さなければいいんだ。
と言うか俺、ヤバイな。こっちに来て殺すことに全然抵抗が無くなっている。まあ仕方ないか。力が全ての世界でそれを得るには殺さねばならぬのだから…。
「リョウ!」
既にステージの手前にはエリス家族が勢揃いしていて、親衛隊隊長ハンデスが武装姿で周囲を警戒している。
「随分仲良くなったではないか?」
「まあな。年が近いからだろう。」
「それだけかのう?」
ニヤニヤと笑うエリスは心底楽しそうだ。
あとで何を言われるか容易に想像がつく。
「リリスか。似合ってるじゃないか!」
「え…、な、何よ急に!」
「いやいや、真面目に。」
「だ、か、ら、からかわないでよ!」
全身鮮やかなな紅赤のドレス。
昼間のハーフプレートの鎧姿からは想像できないくらい可憐な印象をうける。
「からかってないって。正直な感想だ。」
「っ!」
「リョウ、そろそろ勘弁してやってくれ。」
「ん?なんのことだ?」
「はぁぁ。御主、本音じゃったのかっ!」
「母さん!失礼じゃない!?」
「すまぬ…」
「取り敢えずリョウ、ホントにからかわないでよね!」
「だからからかってないって……」
「もうっ!」
ヤバイ。一瞬可愛いと思ってしまった。
心を寄せてはダメだ。二の舞になる……。
「さあ。お喋りはこれくらいにして妾達も上がらねば。妾とシリュウが先に上がる。リョウは妾が呼んだ頃に上がってくれば良い」
「分かった」
「うむ。では上がるとしよう」
俺とリリスは一歩下がり他の客達に混ざる。その時、少しだけ嬉しいと思ってしまった。
「始まるな、」
「ええ。」
二人が舞台の上へ上がると周囲の来客は一斉に静まり返る。こう見ると、舞台の上へ立つエリスは威厳があるよな。
「今日は妾主催の宴会へ集まって頂き感謝するのじゃ。皆知っての通り強大な魔力源の調査に向かった妾じゃったが、そこで見付けたのは妾やハンデスをも凌ぐ強者じゃ。」
そこで一旦話を区切ると横目で俺の方をチラ見した。そろそろと言うことか、
「普通はそこで彼を疑う所なのじゃが、妾にはどうも悪しき者とは思えぬ。それに妾の命を救ってくれた。そんな客人を今宵は招き宴会を開いたのじゃ。」
まあ、そんな所だろうな。
これ以上に説明できることはないだろう。なんと言っても俺の情報は全くもって少ない。これ以上説明して無駄な詮索が入るよりはマシだろう。
「先に客人から自己紹介をしてもらいたい。リョウ、前へ」
「じゃあ、行ってくる」
呼ばれたので舞台へ上がる。改めて見ると人の数は数えきれない程だ。しかしながら俺には全くの緊張感がなかった。何故なら……、
「紹介に預かったリョウだ。敬語等は苦手なので御了承願いたい。また、俺への干渉は一切断る。領主であるエリスからも干渉した場合、殺さない限り何をしてもいいとの旨を頂いた。以上!」
俺はそう言うと舞台を降りた。正直ここは戦場と同じ。俺を権力的に狙う者達がいてそれと同時に純粋に殺そうとする殺意が俺に向けられていた。当然、ここで明言しなければ面倒なことになるのは必然だった。
「リョウの言う通りじゃ。リョウは妾が招いた客人じゃ。危害を加えることは一切許さん。もし危害を加えたのならリョウが言った通り、身は保証できぬ。また、妾の客人に危害を加えたことから重罪を課す故、覚悟せよ!」
その声に会場には電気が走ったかのような緊張感が広がる。これで手を出すものがいれば相当の猛者か相当の愚か者だろう。
「まあ、それは良いのじゃ。折角の宴会じゃ。今宵は楽しもうぞ!」
数秒前とは打って変わった美しい笑みでそう叫ぶ。そしてそれを合図に宴会が始まった。エリス達二人も舞台から降り俺達の方へ歩いてくる。
「エリス、迫力あるな…。」
「でしょ。長年領主っていう役職についてるとそうなるんだって。それを私にも求めるんだなんて無理だし!」
「求められてる、のか?」
「そう。やがて私がこの領地を継ぐ時の為にだって、」
「そうか……。」
「二人共どうしたのじゃ?」
「………なんでもない。」
「?」
エリスは納得のしかない顔をして、リリスは何処かガッカリしたような、俺に求めるような顔をするが、今はこれでいい。俺は何も知らない方がそれぞれの為にもいいだろう。
「それよりも、リリスが母さんは凄いだって、」
「なっ! リョウ、何を言ってるの! 私そんなこと言ってないし!」
「嬉しいことを言ってくれるのリリス。御主が妾のことをそのように言うとは」
「だ、か、ら、言ってないし! リョウもなんとか言ってよ!」
「俺は知らん、」
「リョウー!」
この方が丸く収まる気がする。
エリスはちゃんと分かってるらしいが、乗ってくれるだけありがたいことだ。
それからはエリス家族と俺とで会場内に挨拶しながら夕食を楽しんだ。まあ、その間も重臣達から品定めをするような視線を向けられたが、危害を加えられたら処置すればいいだろう。




