第48話
ドカーーーーッン!
「やっちゃった~。」
「ハンデス様、もう少ししっかりと抑えなければなりません!」
どうならこの国一の魔法使いの娘であるリリスには才能があったようだ。しかし元々完璧な武人のハンデスは見た目通り至極不器用なようで魔力が暴走を起こし周囲を抉る。当然そんな雑な爆発では俺の結界もリリスのも破れる筈はなく、俺は比較的近い場所で指導できる。
「ハンデスさん。もう少し魔力を抑え小規模な物で試してみては?」
「小規模……、了解した。」
練習用に使う炎は小さくなり扱いやすくなった筈だ。そしてそれを圧縮する段階…、
ドカーーーーッン!
また爆発。ハンデスさんはどうやら同時操作が苦手なようで、始めは別々に動いても途中で合わさり大きな爆発と化してしまう。
「…………。」
「…………。」
「ハンデスさん。ハンデスさんの課題を説明しましょう。まず始めに魔力の同時操作です。そして次に魔力接触時の別離操作。あとはそもそも圧縮する力も問題があります。」
「…………。」
「改善方法として両手に炎を宿すこと。そして二つ目に関しては魔力をぶつけてそれをバラバラに分けること。そして最後のに関しては魔力で物を浮かせたり押したりすることです。分かりましたか?」
「あぁ……。」
「それでは健闘を祈ります。」
「…………。」
正直これ以上ここにいては面倒だ。リリスに任せこの場を退散しようと城に戻った。その後ろにちゃっかりリリスがいるのも知らずに…。
「ふぅ。ハンデスを教えるのは疲れた…。」
始めに通された客間に戻ると中には誰もいない。取り敢えずはそのソファーへ座ろうと姿勢を変える、と……、
「っ!」
「リリス、なにしてるんだ?」
全く気付かなかった。後ろからポンッと肩を叩かれ初めて気付いたほどだ。
「いいでしょ!」
「まあいいか…。」
今頃広場では爆発が連発しボコボコになっているだろう。けれどまあ気にしない。気にすれば負けだ。
「…………。」
「…………。」
「勝手についてきてこの雰囲気はないだろ?」
「ここ、私の家だし!」
「………。」
「メイドさーん。少し食べられる物持ってきてくれる?」
「承知しましたお嬢様。」
部屋の端に控えていたメイドさんはそう言うといそいそと部屋を出ていく。これが貴族なのだな。
「リョウ、改めて自己紹介。私は魔族のリリス。魔法も武術もできるわよ!」
「なら俺もだな。俺はリョウ。名前も故郷も忘れたがこの力だけは残っている。ただの浪人だ。」
「分かったわ!これからは呼び捨てでいいわよね?」
「大丈夫だ。俺も呼び捨てにするからな!」
「こちらこそ!」
「思っていたよりいい奴だな。」
「どういうことよ!?」
「喋りやすい。それにフレンドリーだし。」
「なんか嬉しい……。」
「俺もだ。同年代と話すなんて久し振りだからな。」
「リョウって今何歳?」
「14だ。」
「私も!」
「仲良くしような。」
「うん!」
「旨い…。」
「良かった。この茶葉は私が作ったのよ!」
「本当か!凄いな。」
「それ程でも……。リョウだって色々なことできるでしょ?母さんからも聞いたし!」
「エリス、何処まで話したんだ?」
「何処までって?」
「いやぁ。毒を受けた後はリリスによく世話になったからな……。」
「そうなんだ。母さん、可愛いでしょ?」
「そうだな。確かに美人だよな。」
「………。」
「それでも、負けないくらいリリスも綺麗だと思うぞ!」
「っ!」
「顔立ちもいいし、性格もいいと思う。それはリリス自身のいい所だと思うぞ!」
「か、からかわないでよ!」
「からかってるつもりはないんだがな…。」
「だって…、だって、会って間もない私の何を知ってるのよ!?」
「そうだなあ。直感かな!」
「っ……。」
「まあそれでも気分が悪かったら謝るよ、」
「いいって。私もごめん、言い過ぎたよ。」
「なんか変な感じになったな。ゴメン、」
「大丈夫大丈夫。食べよう?折角メイドさんが作ってくれたんだし!」
「だな。食べよう、」
「そろそろ時間だ!じゃあねリョウ!」
「あぁ。また明日、」
何か用事があるらしく、メイドさんに預けたコートを受け取ると部屋を出ていった。残された俺は紅茶に映る自分を見てフッと笑った。
「メイドさん、」
「はい、リョウ様。」
「部屋を出ていてくれるか?」
「畏まりました。」
メイドさんが出ていったことで気配も無くなり本当の意味の静かな時間が訪れる。紅茶から漂う香りが俺の心を鷲掴みにする。
「…………」
俺もここで落ち着くのもいいかもしれない。
田舎者の俺が各地を転々とするのもいいが、一ヶ所に留まり第2の故郷とするのも悪くない。
「検討していくか、」
真面目に考えていくのも悪くない。
一庶民としてこの町で暮らすのも……。
「明日はどうするかな…。」
鑑定でもして自分のスキルを確認しよう。早めにスキルを確認した方が最大限に能力を活かせるだろう。
「これ美味しいな、」
リリスが頼んだ茶菓子はバターの香りが漂うクッキーでチョコの斜線が入っている。
「………」
クッキーの断面を思わず確認してしまう。クッキーのアルコールで失敗したことがあるからだ。どうも警戒してしまう。
「大丈夫!」
アルコールは入っていない。クッキーの香ばしさが余韻として残る。紅茶の苦く特有の薫りとクッキーの甘さが最高にマッチしている。
紅茶を片手に窓辺を眺めると、紅色の夕焼けか部屋の中を照らす。そろそろ夜だな…。
トントン、
「どうぞ、」
「リョウ、やっと終わったのじゃ。戻っておったのじゃな」
「あぁ。ハンデスとリリスに魔法を教えてからな、」
扉をノックして入ってくるのはエリス。漆黒のドレスを着て、印象が変わる。
「それは御苦労じゃった。ハンデスに魔法を教えるのは難しいじゃろ。」
「まあな。けど、覚えようとするから上達も早いと思う。」
「ほほう。御主は教師に向いてそうじゃな、」
「教師、か。無理だな。」
「そうかのう。なら妾ならどうじゃ?」
「エリスに教えるのは比較的楽だろう?逆に俺の方が教えてもらいそうだよ!」
「機会があればまた語らおうぞ。」
「そうだな。それにいつまで立ってるんだ?座らないのか?」
「そうじゃな。少し休憩するかのう」
俺の対面へ腰を下ろす。はためかせたドレスの端が美しい。
「メイドさん、もう一つ紅茶をくださーい」
「承知致しました」
扉の外からそんな声が聞こえると何処かへ行く足音が聞こえる。
「それにしても、ドレスも似合ってるじゃないか」
「そ、そうかのう?」
「あぁ。エリスに合ってる気がする」
「嬉しいことを言うではないか。そう言う御主は着替えぬのか?」
「んー、まあ、着替えるか!」
パチンッ
「ふぁっ!」
「こんな感じでいいか?」
着替えたのは黒いコート等の普段着。さっきまでは本当の意味の普段着を着ていた。
「それは魔法じゃなかろう?」
「まあな。人間の町にある属性を持たない魔力を使った技だ。俺もよく覚えていないがな、」
「御主も似合っておるぞ!」
「ありがとな。」
「妾、実は御主を呼びに来たのじゃ。そろそろ夕食じゃからな、」
「そうだったのか。分かった。何時くらいになるんだ?」
「そろそろとしか聞いておらぬのじゃ。暫くすればメイドが呼びにくるじゃろう。それまでは紅茶でも啜って待とうぞ、」
いつの間にか用意された紅茶を手にそうやって笑った。




