第44話
出てきたのは武装した紺色の角をした者達だ。
完璧に俺を害そうとする装備をしている。
「これはどういうことだエリス?」
静かに振り向くと返答を聞かず大太刀をその可憐な首元へ突きつける。赤い血の線が一本流れる。
「わ、妾にも分からぬ。御主達、何をしておるのじゃ!?」
「ハーディング様!コヤツはハーディング様を拐ったのです。万死に値します!」
「違うのじゃ!妾はただ、」
この会話をきくだけではどうやら兵達の単独行動。そう考えるとエリスは俺と敵対していない。
「エリス分かった。取り敢えず黙らせる、」
「お前、エリス様になにを‥、」
ドスンッ!
まだ喋ってる途中だがいいだろう。頭を掴み地面へ叩き付ける。恐らくは無傷だろうが衝撃はあった筈だ。
「取り敢えず黙れ。会話にならん。」
「俺達を舐めるなー!」
「分からないか、」
座ってる状態から立ち上がり拳を向けてくる。しかしその前に頭を蹴り飛ばし怯ませ、そのまま木々へと2撃目を繰り出す、
「ぐはっ!」
「確かにエリスが1番と言うのも頷ける。回復は持っている。取り敢えず頭を冷やせ、」
魔力による短槍を握り、蹴り飛ばした奴の肩へ深々と突き刺す。木々に縫い付けた形になったが、会話するには十分か?
「ぅ…、ぐ……。お前、エリス様に、何を…。」
「何もしていない。俺はエリスを助け、エリスは俺を助けてくれた。ただの知り合いだ、」
「くっ!嘘を!」
「あっ!?」
槍をそのまま回転させ上下左右へと動かす。その度にグチャグチャという肉の音が聞こえる。
「ぐわぁぁぁぁ。や、止めろぉぉぉぉ!」
「リョウ、そろそろ勘弁してやってはくれぬか?」
「エリスが許すならいい。取り敢えずここにいる愚か者共はコイツの手下でいいのか?」
「そうじゃ。けれど何もやらんでくれ。妾は怒っておらぬ。」
「そうか。ならいい。コイツはこのまま連れていけばいい。他はついてこい!」
「リョウ、頼もしいのう。」
「まあな。これくらいは出来ないと、」
初見に思ったよりも早く終わった。まあ、肩を殺られた哀れな奴はいるがな。
「ここか?」
「そうじゃ、立派じゃろ?」
外から見ても分かるくらい大きな城。その周囲を取り囲む城壁と街を守る塀がある。俺達がいるのは塀の外だ。と言うことは、そこからでも大きい城の実物はどれだけ大きいのか……。
「凄い。アソコに住んでるのか?」
「そうじゃ、そうじゃ。そう言えばあやふやになっていたのう。改めて妾は御主を妾の家へ招こう。」
「礼を言う。が、その前にそれを許さん者共を片付けよう。」
「ま、待て……、」
担いできたのはいい。が、片腕が垂れたまま俺に向ける奴の殺意は本物だ。
「まだ言うか?」
「………。」
軽く睨むと口を瞑り、何も喋らなくなる。正確には喋れないのかもしれないな。
「御主、妾の客人に失礼じゃぞ!分をわきまえぬか!」
「………。」
「行こう。妾が招いたのだ。この者達が口出すことではないのじゃ!」
「そうだな。なら行こう、」
「エリス、さっきのは誰だ?」
「奴はレンタロ。精鋭部隊の隊長なのじゃが性格がのう。」
「まあいいか。俺の奴への対応、これで大丈夫か?」
「大丈夫じゃ。妾達魔族は自己再生能力も高いのじゃ。数ヶ月すれば肩の傷も塞がるじゃろう。」
「そうか。なら大丈夫だな。」
世間話のようなことを話ながら歩いていると、着いたのは大きな門の前、そこが開いた先には外から見えた大きな城と美しい庭園だった。
「驚いたか。妾の息子がデザインしたのじゃ。今はどこにおるかも分からぬがな…、」
「息子、か。どうかしたのか?」
「家出のようなものじゃ。妾がもう少し見ていればあんな愚行しなかったと思うんじゃがな……。」
「すまん。立ち入ったことを聞いた…。」
「大丈夫じゃ。妾の愚息はそれでもイキイキしておるじゃろう。親としてはそれだけで十分なのじゃ。」
「そうか……。」
中では屈強そうに見える人から細身の人までも、それぞれが武器を手に打ち合っている。兵達の練度が伺えるな…、
「どうじゃ妾の町の兵達は。あのような愚か者だけではなかろう?」
「そうだな。あの男は隊長か?」
「そうじゃ。親衛隊隊長ハンデスじゃ。妾には敵わぬが、他に類をみない強さをもっておるぞ。」
「親衛隊より君主のほうが強いって大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫。妾は少しおっちょこちょいでな、よく失敗するんじゃ。ハンデスは妾にとって補佐役のようなものじゃからな。」
「そっか。あとで手合わせしていいか?」
「是非。妾とて兵が強くなるのは大歓迎じゃ!」
「礼を言う。」
ハンデスという男。さっきからひたすら他の兵3人を1人で片付けている。それも連戦で…。
ガキンッ!
怒りや憎しみのない剣の音は心地いい。
そう言えばハンデス以外にも複数の兵を相手にする奴がいるな。あとで手合わせ願おう。
「ここが客間じゃ。妾は家族を呼んでこよう。あとは言っていたハンデスもじゃ。」
一度エリスは退出すると俺は1人部屋の中に残される。部屋からは美しい庭園を見下ろすことができ、真っ赤な薔薇が美しい。
「………。」
やはり1人で落ち着くとつい数日前の恋しい日々を思い出す。本当に楽しかったが、もう戻らない過去を想っても仕方ないな。
「戻ったぞリョウ。」
エリスが連れてきたのは合計3人。1人は見たことがハンデスでもう1人はエリスの旦那だろう。あと一人…、娘か?
「この方々が?」
「そうじゃ。こっちは主人のシリュウ。」
「初めまして。シリュウです」
滅茶苦茶大人しそうな人だな。正直予想外だ。
「そしてこっちが娘のリリス。」
「っ!リリスです!」
うわぁぁ。なんというか扱いにくそう。すまんがこれ以上の距離は無理だな。
「そしてこっちがさっき紹介したハンデスじゃ。」
「御初にお目にかかるハンデスだ。貴殿は我が主エリス様よりも強いとのこと。是非私と手合わせ願いたい。」
「こちらこそ。あとで案内をお願いします。」
旦那のシリュウに娘のリリス。親衛隊隊長のハンデス。よくまあこの数分でこれだけの人を集められたな。流石領主か…、
「あとはリョウ、御主の自己紹介じゃ。」
「分かった。正直敬語は苦手なんで許して頂きたい。俺はリョウ。ハッキリ言って種族も出身も覚えていない。」
「御主、覚えておらぬのか?」
「あぁ。名前とその他諸々は覚えているが、記憶が曖昧なんだ。」
当然嘘。俺は出身も何もかも覚えている。しかし種族もスキルも分からないのは事実。恐らくは種族も既に人間じゃないだろうしな。
「そうじゃったのか。それは災難じゃったな」
「あぁ。まあそれも終わったこと。俺はどうにかするつもりだ。」
「はぁぁぁ。取り敢えず今日くらいはここに泊まれ。今の御主はいつ命を落としてもおかしくない。」
「分かった。その言葉に甘えさせてもらうよ。」
「皆の者聞いたな。妾がこの者の滞在を認めた。これ以上の妨害を一切禁じる!」
扉の裏側に隠れていた者達は驚き慌てる戻っていった。この部屋の中の全員が気付いていたがわざと無視していたのだ。
「これでよい。改めて紹介することにするのじゃ。シリュウは主人に値する者じゃ。政治等に関しては全て一任しておるんじゃ。だから妾はお飾りのような者なのじゃ。」
一瞬音のでないため息が聞こえた気がした。苦労があるな、シリュウ。
「そして娘のリリス。もう少し女らしさを磨けと言うんじゃが、武術の方が好きなんじゃと。」
「うっさい!母さんには関係ないでしょ!」
「むぅ。言うのう。」
エリスとリリスの間で火花が散る。
「二人共止めなさい。客人の前ですよ」
「んっ……。」
「そうじゃな。」
喧嘩がありながらも仲睦まじいその姿は家族という言葉を体現しているように思えた。




