第43話
外にある簡単な小屋なだけありすきま風が俺の体を震え上がらせる。
「ん……ぅ…。」
流石にもう一度寝ては風邪をひく。朝一の二度寝ほど危ないものはない。
「くぅぅぅ。」
ベッドの上で伸びをすると、足にしがみつく者がいる。
「そうだった。昨日はこう寝たんだったな、」
しがみつくエリスを引き剥がすと、布団を被せベッドから抜け出す。隙間から入る風は本当に冷たくて家の朝を思い出す。
「そう言えばいつの間にか消えてたな、」
背中に生えていた真っ黒い翼はいつのまにか消えていた。いつ消えたのか検討もつかないな。
「少し体でも動かすかな、」
冷えた体を暖める為、小屋を飛び出し池に向き直る。血に濡れていた大太刀は輝きを取り戻していた。
「はっ!」
空振り。前方に構え真っ直ぐに振り下ろす。風を切る音と共に鋭い一撃が放たれる。
「はっ!」
「はっ!」
「はっ!」
それを幾度となく繰り返す内、踏み込んでいた場所にヒビが入る。水辺で洞窟の手前に建てられた小屋周辺の地面は岩で、その岩にヒビが入ってしまったのだ。
「疲れた……。次は大鎌かな、」
ハッキリ言って見た目だけじゃないのかと思うような大きな鎌。柄の部分だけで俺の身の丈を越え、刃もそれに匹敵する程の大きさを誇る。
「おりゃっ!」
両手で肩に構え振り下ろす。やっぱり鎌といえばこの切り方だが、刃の重さについつい体のバランスを崩す。けれど…、
「ふうっ!」
体勢の下がった状態からの刃を下に向けたままの切り上げ。返す刃で敵は切りつけられるだろう。そして…、
「はっ!」
柄を頭上で一回転させた後の切り下ろし。コンボ的には行うことができれば大抵は倒せるだろう。
「けど無理だな、」
バランスが悪く取り回しも利かない。ハッキリ言って隙だらけだ。絶対に無理!
「ふぅぅぅ。一度呼吸を静めるとすぐに収まるんだよな。」
息切れも疲労感も一度深く深呼吸すればすぐに収まる。まだまだ使いたい武器はあるのだ!
「次は鉄鞭だ!」
持ち手を握りしなやかに振り下ろす。鉄のワイヤーのような素材でその所々に鋭い刃の付いた鉄鞭は十分な殺傷能力があるだろう。
パチンッ!
流石にこの武器は振るだけじゃ自分に帰ってきて危ない。木々に打ち付けてみるがやはりやりにくいな。
「そうだ!」
魔晶の疑似生命を使えばいい。慣れない武器なので相手はゴブリンで…。
「グギャァァァッ!」
「おらっ!」
鋭く飛んだ鉄鞭はゴブリンの右手に巻き付きしっかりと締め上げる。
「グギャッ?」
「ふっ!」
手首だけで鉄鞭を引くと巻き付いた鉄鞭が刃を巡らしながらゴブリンの右手を切り刻む。
「グギャァァァ!」
「おらっ!」
魔力を巡らせワイヤーを引き刃を連結させる。元々そのような形で出来ている刃は綺麗に連結し2メートル近い鉄鞭は短めの直剣のようになる。
グサッ!
加速するスピードで刃が体を貫く。元々が鞭とはいえ、魔力により連結させた刃は鋭くゴブリンの体を深く突き刺した。
「ふぅぅ。朝から疲れたな、」
まだエリス自身起きてきていない。逃げるなら今。けれど逃げる気にはなれない。確かに俺はエリスの町にとって不純物になるかもしれないが、招かれたならば行くしかない。
「鑑定があればいいのにな、」
こんな森でも少しは野草もあるだろう。それを見分けられないのが悔しいな。
「ふぅ。まあいい。腹減ったな……。」
まだエリスは起きてないがいいだろう。飯の調達くらいしてもいいよな?
「ふっ!」
相手は魔物。気合いを入れるため魔力を巡らせると、背中から黒い翼が生える。どうやら体内の魔力濃度が高ければ生えるのかな?まあいい!
「さあさあ、行くか!」
バサバサと黒い翼が空を切る。個人的には鳥が1番調理するのが簡単だと思う。と言うことで空を飛んでいるのだが、やはり朝早いせいなのか見付からない。
「仕方ないな。獣でいいか?」
地上にいる獣達なら所々に見える。今だってゆっくりノシノシと歩くイノシシが見える。
「あれでいいや。雷魔法・落雷」
雷とは空気間の静電気のようは物だ。ならば魔力を使い実演すればいいだけのこと。
ゴゴゴ、ビリッ!
目で追えないスピードで光が走り、地上にいるイノシシを的確に仕留めた。ジュゥっと煙をたてるイノシシは普通に食べられそうだ。
「取り敢えず回収、回収、」
降りるのさえ面倒なので風魔法を使い手元まで運ぶ。そして手に乗せ風魔法を解いた瞬間、
「おっと、」
滅茶苦茶重い。両手で抱えるがギリギリだ。それに翼を羽ばたかせるの辛い。
「もういい、」
持つのが面倒なのでアイテムボックスへ突っ込んだ。こんなの持ってたらまとまに動けない…。
「さあ戻ろう。」
予備装備として持っていた大太刀を片手に持ち直すと、俺はエリスが起きてないことを祈りながら小屋へと戻った。
「あちゃぁぁ…、」
小屋の近くへ来ると扉の前に両手を組み俺を待ち構えている。戻るのが怖いんですが……。
「仕方ない!」
観念して小屋の前へ降りると、エリスは何も語らず俺を見る。
「ごめん、」
「ん。もうよい。何をしておったのだ?」
「朝食を調達してきた、」
「昨日、妾がすると言わんかったか?」
「…………。」
「まあ良い。妾も捕ってきてくれたのだ。文句は言えぬな、」
やれやれという表情を浮かべると近くの岩に腰を下ろす。それと同時に大きな布を敷きイノシシを置く。
「御主、朝からコヤツを仕留めたのか!?」
「そうだが、不味かったか?」
「大丈夫じゃ。御主は朝から動けるのじゃな?」
「まあな。朝は得意だし、」
「そうかそうか、それは良い。妾も見習わねばな!」
「俺もだ。食べよう」
「ふぁ。満腹じゃ!」
「俺もだ。朝からは多かったかな?」
「大丈夫じゃろう?証拠にもう無くなっておるしな!」
「そうだな。そろそろ行くか?」
「もう少し休憩せんか?」
「分かった。紅茶でもいるか?」
「良いのか!?」
「あぁ。どうする?」
「なら貰おう。砂糖も入れてくれ、」
「了解だ。」
紅茶を淹れる、と言っても俺がするのはパックの紅茶を熱湯に突っ込むだけ。炎魔法と水魔法を同時展開すれば熱湯を作るなんて簡単だしな!
「暖かいのう…、」
「淹れたてだからな、熱いのは飲めるか?」
「大丈夫じゃ!」
「そうか、」
この紅茶等を嗜む時、そう言う時だけは静かで落ち着いている気がする。正直俺はこの雰囲気は大好きだ。なんとも落ち着く気がして…、
「真面目な意味で、御主、妾と来ぬか?妾の領地には御主のような者が必要なのじゃ!」
「………。」
「すまぬ。突然は難しいかもしれぬが考えてみてくれ、」
「分かった。そこを見て感じて考えるよ、」
「それでよい。妾も無理には引き留めぬ!」
「ありがとなエリス。」
「………。」
「そろそろ行くか?」
「そうじゃな。妾の町まではそう遠くはないなじゃ。歩けば着くじゃろう。」
そう言いながら小屋を出る。外は静かで鳥達の囀りが聞こえるくらい…、
「こっちじゃ。妾についてまいれ!」
「了解だ。」
進むのは小屋を北側に行った場所。
森は薄く、何度も歩かれている形跡がある。
そして少し進んだ頃、草村の中から違和感を感じる。見た目が怪しいというわけでなく、何か殺気のような者を感じる。その時…、
バサッ、
「これはどういうことだエリス?」
俺は大太刀をエリスの首へ突きつけた。




