第41話
今回もまた視点変更しています。
誰かはまだ秘密です。
風が心地よい。
冬の風が過ぎ去ったこの時期は散歩びよりじゃ。
「それにしても、魔物共はおらぬのか?」
散歩をしていれば二匹や三匹遊んでやるのはザラなんじゃが…、今年は中々出てこぬのう…。
「おーい、誰もおらぬのか?」
妾達の耳は良いと自負しているが、獣の声さえ聞こえぬ。しかしそれも理由は分かっておるのだ。何故なら妾が来たのはそれが理由なのだから。
「なんじゃ?」
ずっと放たれていた魔力が消えてしまった。
妾が目印にしていた魔力源が無くなる。面倒じゃな。
「相手は魔族かのう?」
魔力操作に長け、ここの魔物共を震え上がらせる程の魔力。魔族以外には考えられんのう。
「妾も油断できぬなあ」
この正体の知れぬ者のせいで妾の町では家畜共が体調を崩しておるのだ。報復と忠告、どちらにせよ妾はその者と会わなければならぬ。
「魔物共は戻ってきたか…。」
獣の足音が聞こえる。妾を狙っておるな?
「ロロロー!」
こやつはここ特有の魔物で名をクイックリーと言う。奴の攻撃より先に気付かねば痛手を負う相手じゃ。
「■▧■▧、火魔法・バーンアップ」
妾の使う魔法は人のそれとは違う。それでも何が違うかと言われ答えられる者は数少ないじゃろうが、取り敢えずは違うんじゃ。当然威力もじゃがな。
「鈍ってないかのう、おぬしら?」
去年の魔物はここまでは弱くなかったと思ったんじゃが。まるで弱い。
「弱いんじゃーーー!張り合いがないのじゃーーー!」
「ピィーーーッ!」
「お主らもじゃっ!
■▧■▧■▧■▧、火魔法・ウェーブ」
妾の手に添う炎が魔物共を焼き尽くす。落ちていく羽は真っ黒な炭になってチリと化す。
「ウホホホホホホホホホッ!」
「なんじゃ!」
妾に全く気付かれずに近付いたその魔物は妾を思いっきり殴り飛ばす。
「ウホッ、ウホッ、ウホッ、ウホホホホ!」
「強い、のう。」
木々にぶつかって一瞬意識がとんだ隙に魔物は両手を使い全速力で走ってくる。ダメじゃ。体の節々が痛くて体も動かない。
「っ!」
目を閉じて恐怖を押し殺していると、どれだけ経っても魔物が来ない。ゆっくりと目を開けると、妾の目の前には男が1人、妾を狙う魔物を同格の力で抑えつけている。
「お主は!?」
「………。」
男は何も話さない。ただ苦しそうに魔物を抑えるとそれに勝る力で魔物を押していく。
「ウホッ!」
魔物もその力には驚き必死で押し返そうとするが、この男の尋常じゃない力を前に意味を成さない。
「………!」
「ウォーーーーーーーッ!」
男の掌から炎が吹き出て握り合う魔物の拳を焼き焦がす。それに悲鳴のような叫び声をあげるが男は全く離すことは無くやがて…、
ボキッ
力の抜けた魔物の手は遂に男の力に押し負け砕かれる。
「………!」
「ウボッ!」
それからは圧倒的だった。男の拳も尋常じゃない威力があるらしく、魔物の腹に深く深く捩じ込まれる。
「………。」
「ウボッ!」
なんと拳だけで無く蹴りまでも強力。その姿勢から蹴りあげられた足に魔物は蹴り飛ばされ近くの木々に巨体をぶつける。
「………。」
男の手の中に信じられないくらいの魔力が集まり断絶した魔力球を作り出す。断絶した魔力球の中は高密度過ぎて全く原理は分からない。けれどその威力だけは分かり……、
「ウボゥゥゥゥゥッ!」
ーーー!ーー!!!ーー!!ー!ーーーー!
爆発が周囲を包み妾さえ恐怖を抱いてしまう。当然それを向けられた魔物は恐怖を感じ後退るが、殺そうと放たれたのだ。魔法は魔物を殺し周囲の木々までも薙ぎ飛ばしてしまった。
「………。」
男は魔物が死んだのを見届けるとトボトボと歩き出す。その背中には何が写っているのか妾にはまだ分からない。
「お、おぬし、」
咄嗟に呼び止めてしまった。男はピタッと止まるとゆっくりと振り向く。
「………。」
「おぬし、妾を助けてくれてありがとう。礼を言うのじゃ。」
「………。」
興味の無さそうな目で聞いている。と言うよりも耳に入っていない?
バタンッ
その場に男は倒れた。よく見るとその顔には汗が滲んでいて苦しんでいるのは確実だった。
「………。」
妾には仕事がある。けれどここでこの男を放置しては人としてどうなのじゃ?
「おぬし、大丈夫か?取り敢えずこっちに来るのじゃ!」
妾1人ではこの男を背負うことは出来ない。なら近くの安全な場所に運ぶくらいしか……。
「ここじゃ。ここなら魔物は寄り付かぬ。」
そこには妾の町の住民が作った森の休憩場所が。森の中は危険なのでそれ用の道具は揃っているようじゃ。
「おぬし…、スピシュリの毒を受けたのか?」
スピシュリとはスピアーシュリンプの略語で猛毒を持つ魔物じゃ。幸いよく出る魔物である為、解毒薬は常備されていた。
「………。」
「意識が無いのじゃな。取り敢えずはこれを飲め。解毒薬じゃ。」
棚の中の解毒薬を水に溶かし男の口へ入れる。これで少しは意識も楽になるかもしれない。
「そのままじゃぞ…、」
隣の棚からは真っ白の新しい包帯を取り出し、傷口に巻き付ける。妾が水魔法を使えないのが辛いのじゃが、今は包帯でカバーすることくらいしか出来ないのじゃ。
「大丈夫かのう?」
薬も包帯も使って今出来るだけの治療はしたのだ。しかし安心とは言えない。まだ苦しそうな顔を見ると安心出来ぬのじゃ。
「………。」
「おぬしは誰なのじゃ?その力、人間ではなかろう?」
力だけを見るには獣人と言われても分からぬ。けれど獣人ならば魔法は使えまい。次に妾よりも強力な魔法を使ったことから人間ではあるまい。と言うことはこの男は聖霊か魔族と言うことになるのじゃ。けれどそれにしては力が強すぎる。
「………。」
「まあよい。まだ話せるほどには回復せぬだろう。妾は外に出ておるからのう。」
バタンッ
ここは休憩用の小屋である為、近くには水源である池がある。澄んだ水で全然汚れがない水じゃ。少し汲んでいってやるか。
「妾は何をしておるのじゃろう?」
危険な人物への忠告をしに出てきたのに妾は一体…。まあ、無くても出てきたのじゃがな!
「そろそろ戻るかのう?」
小屋の外に置いてある小さめの瓶に池の水を汲み取り持って入る。中ではまだ意識の戻らぬ男が静かに寝ていた。
「………。」
「ほれ水じゃ。少しは飲め、」
綺麗な布に水を染み込ませ口元でそれを絞る。大量に飲ませては意味の無い気がするからのう。
「まだ熱いのう。大丈夫なのか?」
額に乗せていた布はこの少しの間で暖かくなっていて体温の高さを教えられる。取り敢えず妾は礼が言いたいのじゃ。
「………。」
「借りは返させてもらうんじゃ!」
妾がここで男を看病すれば命の借りも返せるじゃろう。借りを作ったままじゃ嫌じゃからのう。
「………。」
「それにしても強いのうおぬし。妾なんぞおぬしには叶わぬわ!」
はははっと笑っていると、男が目を開ける。その瞳にはまだ光は宿っておらず、まだ話せぬことを表しておる。
「礼を言う……。」
「妾もじゃ。おぬしには命を助けてもらったのじゃ。これくらいは御安いご用じゃ!」
「借りは、返してもらった。そらじゃあ、失礼する」
フラフラな体で無理に立ち上がると男は扉に手をかける。
「無謀じゃ。おぬし、今日1日くらいは休んでまいれ!」
「そういう、わけには、いかない。」
「何故じゃ。取り敢えず座れ。妾にも説明せよ!」




