第40話
バサッバサッと黒い翼が風を切る。
月も出ない闇夜が俺の体を隠す。鳴り響くのははばたく翼の音だけ。
「はぁぁ…。」
さっきまで夕日が顔を出していたが今となれば、夜の静寂が周囲を包んでいた。どれくらい移動しただろう。溢れる魔力を操作してないからずっと魔力が漏れだした状態で飛んでいた。
「降りよう…、」
疲れた。自分の魔力に視界が遮られ前が見えにくい。降りてから操作すべきだ。
バタンッ、
精神的にも肉体的にも疲労を感じていた俺は、気を抜いた瞬間墜ちていき見事木々に衝突する。
「くそぉ…、」
異世界だと言うのにこう言うところは前と同じ。木々にぶつかった瞬間、肩に気持ち悪い虫が落ちてくる。
「まあいいや。」
薄暗く見慣れない木々が生い茂る。もしかしたらもう人の大陸じゃないかもしれない。
「はぁぁ。少し休もう。」
取り敢えずぶつかった木に背中を預け、一息ついた。ここまでずっと飛び続けたせいで翼の生えている肩元は筋肉痛で千切れそうだ。
「この現象はなんなんだ?」
全く理解出来ない。
俺は単にムカつく自分似の奴を刺殺しただけ。
もしかすると今俺が手にしているこの力は奴の力でもう1人の自分を殺したので本物である俺に宿ったのかもしれない。
「取り敢えず『鑑定』…、…、ん、発動しない?」
唱えても念じても『鑑定』が発動しない。
もしかするとスキルも一新されてるのかもしれない…。
「まあいいか。」
正直スキルなんてどうでもいい。取り敢えずは寝る。正直疲れて眠くて仕方ないんだ…。
「んぅ。」
目を覚ますと地上にあった月がきえ、代わりに太陽が照り輝いていた。薄暗く気味の悪かった森も普通の森と大差ない。まあ、木々の種類は見たことない物ばかりだが…、
「んーーーーー、ふぅ。」
伸びをしてフッと力を抜く。太陽の光が心地いいくらいだ。
「取り敢えず歩くか。」
ほぼ墜ちるみたいに着地したので周囲の地形が全く分からない。木々の背も高く見上げることも難しいし、何より木々の数が尋常じゃない。
と言うことで歩き始めた。
「のはいいものの、目的がないってのもな……、」
ただひたすらに歩き続けた先に何があるのだろう。この人を捨てたような俺に何が待つ?
「静かだな…、」
昼間だと言うのに風の音や獣の声さえ聞こえない。聞こえるのは自分の足音だけ。
「こっち、かな?」
木々が割れ微かに獣道のように見えなくもない道を見付けた。その先はまだ見通せないが、闇雲に歩き回るよりはいいよな?
バキッ、
落ちている枯れ木を踏み潰してしまった。
そんな音でさえこの森の数少ない物音で、異様な静かさに不気味さも覚える。
歩いていると異様に草花が揺れる。歩いているとまるで俺を中心に風が吹いているように……、
「そうかっ!」
その呟きは遠くの場所まで響く。けれどそれよりも自分の理解したことが衝撃的だった。
「俺の魔力は漏れ続けているんだ。なら抑えてやればいい!」
不必要に全身から染み出るように出ている魔力に意識を移すと確かに魔力はずっとで続けている。
「これでよし、」
簡単な魔力操作。恐らくはこれでここの生物達は戻ってくるだろう。漏れ出す程の魔力だ。無意識に威圧していたような物だろうからな。
「そう言えば魔法は使えたよな、」
炎、風、水、土、四大属性は全て使える筈だ。それに重力を操った闇魔法も操れる筈だ。そう考えると今俺が使えるのは四大属性に合わせた闇属性。そして合わせて使った場合、闇属性は全ての属性に何かしら影響してくれるだろう。
「あー、何かないかな?」
今なら魔物だって大歓迎だ。まあ、秒でボコボコにするけど…、
「グニヤァァァァァ!」
「うわっ、ホントに出た。」
空から飛来したソイツは大きなコウモリのような翼で山猫のような獰猛な身体。そして足だけは鷲のような鳥類のものだ。
「グニヤァァ!」
「危ないだろ!」
勢いのついたスピードのまま鋭い爪を向けてくる。咄嗟に避けたが服が少し切り裂かれてしまった。
「グニヤァァァァ!」
「くそっ!」
バンッ!バンッ!バンッ!
バンッ!バンッ!バンッ!
「グニヤァァァァァァァァァ!」
「なんだと!」
飛んでいく銃弾はその素早い動きに躱され、銃弾をすり抜けた先に向けられたのは俺の胴。
「グニヤァァァ、ニャ、ニャァァ」
「なんちゃって。銃弾はそんなに遅くないよ!」
懐に入り込んだところを殴りつけると、がら空きの首を掴みあげる。
「じゃあな、」
バンッ!
捕まえたまま頭を撃ち抜く。少しは暇潰し出来たかな…。
「腹減った………。」
そう言えば昨日は何も食べていない。色々な意味で興奮してたから忘れていた。
「………。」
無言で今手の中にあるコイツを目の前へ持ち、色々な角度から観察する。
「止めよ…。」
山猫なんて食っても美味しくないだろう。流石に山育ちとは言え、猫は食ったことない。
「そうだっ!良いこと思い付いた!」
ポンッと手を叩くと、早速とっておきの作戦を決行した。
「ピィーーーッ!」
「ピィーーッ!」
「ピ、ピィーーーッ!」
「よしよし、うまく引っ掛かったな。」
死んだ山猫の体を木々に張り巡らせた糸で空中に浮かべそのまま放置。流石にそのままではよらないかと、首元の動脈を切って血を滴らせる。
「ピィーーーッ!」
鳥達が啄み始めた。最悪そんなことどっちでもいい。俺が欲しいのはあの鳥達なんだから。
「よしよし、土魔法・囲壁」
鳥達に気付かれぬよう静かに鳥達を遠くから壁で囲む。そしてそれを上にまで広げ、遂に完全に囲うことに成功した。
「やった!あとは殺すだけだ、」
殺るのは簡単。中に穴虎を一匹だけ放ち鳥達を仕留めさせる。
「ありがとな。」
穴虎の頭にポンポンと触れると魔晶へ戻す。残すは穴虎が仕留めてくれた数匹の鳥達だ。
「さあさあ。焼くぞ!火魔法・宿火」
石で囲った穴の中へ感想した木々を入れ、魔法で火をつける。あとは鳥の処理。じつはそれなら慣れている。首を落とし腹を裂く、臓物を取り出す。あとは食べやすい大きさに切って焼くだけ。
「『魔力錬成』」
出来ないよね。忘れていた。スキルは魔法以外現在使用不能。け、れ、ど!
「あるんだよね~!」
日常的に使うものは『魔力錬成』で作っていた。調味料等もある程度は揃えていて、必要な物などが無くて困る等は基本的に無い。
「鉄板と…、醤油で!」
アイテムボックスに入っている鉄板を石の上へ置いて、それの上へ鶏肉を並べる。そして焦げ目がついた頃、引っくり返してしっかりと焼いていく。
「そろそろかな?」
焦げ目がつきそろそろ食べられそうになった頃、今こそ、醤油の出番だ!
「旨そう!」
醤油の匂いが周囲を包み、そのあと肉本来の匂いが周囲を包む。一度火を消すと肉達を皿に乗せ一口。
「旨い!」
1から自分で捕って捌いて焼いた肉は最高に旨かった。そのあとはひたすら同じ作業を繰り返し至福の昼食を楽しんだ。この後、地獄が来るとも知らずに………。
「ふぅ。満腹満腹!」
鳥を数匹分食べて満腹になった俺は少しの眠気に襲われながら味の余韻を楽しんでいた。その時!
「キシャッ!」
「んぐっ!」
鋭い痛みが俺を襲う。咄嗟に刺さった槍級の棒は俺の体内へ毒物を捩じ込んだようだ。意識がボンヤリとして定まらない。ここじゃ危険だ。おぼつかない足取りのまま俺は向きも分からず歩き始めた。




