第39話
見える。イフリートは今から私を飲み込もうと口を広げ私を噛みきろうとする。ならっ!
「やあっ!」
槍をその口内へ突き刺し、そのまま上顎と下顎を閉じないように短槍を入れる。
「じゃあね!」
夜月にだけ出来るこのスキルの恐ろしいところ。それは身体能力の桁違いの向上。
「ぐうっ!」
空回転の後の回し蹴りはその人に大きなダメージを与えて跪かせる。
「バイバイ。強かったね!」
ニッコリと微笑みかけると右手に持つ槍で眉間を貫く。それと共に滅茶苦茶な疲労感が私を襲いフラフラと足元がおぼつかなくなってきた。
「ど、どうしたの!?」
ずっと私を支援してくれてたティナは私の異変にすぐ気付き急いで駆け寄ってきてくれた。その頃、私の体はいつもの人と大差ない状態に戻っていて、『夜月妖』も『獣化』も解けてしまっていた。
「少し、フラフラして…。」
「凄い熱だよ。大丈夫なの!?」
「うん。少しやりすぎちゃっただけ。それよりリョウの所に…。」
「ダメだよ。今行ってもリョウ兄は喜ばない。ちゃんと安静にしとかないと!」
「け、けど…!」
「大丈夫。リョウ兄も分かってくれるよ。」
やっぱりティナの方が大人だなぁ。
こんな状況でも感情的になってない。私なんてこんな体で、足手まといになるって分かってるのに…。
「ごめん。そうだね。今はゆっくりした方がいいよね…。」
「そうだよ。けど町の中は危険。町の外に出よう?」
「うん。」
手を引っ張られながら慎重に町の中を壁外へ向けて進む。まるで出来の良い妹みたい。
「リアス、敵兵が門を封鎖してる。蹴散らせるけど、リアスは大丈夫?」
「うん。少し辛いけど動けるようになったよ。あれくらいなら…。」
「分かった。じゃあティナに付いてきてね。くれぐれも自分1人で戦闘しないように!」
「分かってるよ、」
「じゃあ行くよ!」
建物の影から躍り出ると…、
「■▧■▧■▧■▧■▧■▧■▧■▧・土槍」
ドンドンドンと地面が盛り上がり敵兵達の足元を襲う。けれどそれだけじゃ倒しきれず、生き残った人達は私達目掛け襲い掛かってくる。
「はあっ!」
「リアス!やっちゃダメだって!」
これくらいの敵なら今の疲労感の襲う体でも戦える。大丈夫。まだ行ける!
「もらったぁ!」
「っ!」
目の前の敵に視線を置いてると、背中の方から戦斧を振り上げた大柄の兵が私を狙う。
「■▧■▧■▧■▧■▧■▧■▧・土槍」
「ティナ!」
「だからダメだって!リアスはまだ回復してないでしょ!」
周囲を見回すと立っている兵は無く、全員が死んでるか立てない状態にされていた。
「ティナ…、凄いね。」
「リアスに言われたくないよ。ほぼ1人であんな人を倒したくせに!」
「それは……、」
「リョウ兄、喜んでくれる筈だよ。ティナ達が強くならなきゃろくに旅も出来ないからね…。」
「確かに。私達が強くならなきゃ…。」
「けど、今はそれより休もうね!」
「うん……。」
ニッコリとしながら言われたけど滅茶苦茶怖かった。逆らったらどうなったんだろう…。
そして城門を出て数分。森の中を進んだ所。
「ここでいい?」
「うん。私はどこでも…。」
「そう。じゃあティナはここを少し作り替えるから、中にいててね!」
そう言ってティナは洞穴を出る。私もしっかりしなきゃ。
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「リョウ兄、怖いよ…。」
リアスの前じゃあ気丈に振る舞ってたけど、本当は全然大丈夫じゃない。滅茶苦茶不安だし滅茶苦茶怖い。
「あっ、そうだ。精霊魔法・土操作、樹操作」
リアスを休ませている洞穴を緩やかな坂にして、下向きの穴にする。そしてその上へ木々を植え付けて洞穴を隠蔽する。
「ここにリョウ兄がいたら…、」
きっとこんなに不安にはならなかったと思う。逆に楽しくも感じたかもしれない。それくらい、リョウ兄はティナにとって大事な人だった。
「リアス~」
中へ入ってみると疲れたのかリアスは寝ちゃってた。一夜だけだけど、中も少しは整えたいな。精霊魔法を使えば出来るししちゃおっか!
「精霊魔法・土操作」
中を広く掘り進むと壁を綺麗に整え、出口へ坂を作る。安全の為、樹木等で入り口を塞ぐ。
「ねぇ。リョウ兄、置いてかないよね?」
洞穴を出て空を見上げると、丸い月が薄い光を発してる。その光は淡く儚い。
「寒い…、」
森の夜は冷える。ヒュゥゥと吹く風は冷たい空気をティナの体に当ててくる。
「ん、、もう、夕方?」
あれから洞穴に戻ってリアスの横で寝た。寒いから…。
「リアス、リアス。ねえ起きてよ!」
「んぅ、、ティナ。もう朝?」
「もう夕方だよ。早く戻らなきゃ!」
「えっ!夕方!?」
洞穴の穴からは赤みを帯びた陽の光が洞穴の中を照らしてる。ティナも魔力は回復したしリアスだって元気。そろそろ戻らなきゃ!
「リアス行くよ。リョウ兄が帰ってたら心配するよ!」
「そうだね。行こう!」
ティナ達は期待を胸に洞穴を飛び出す。けれどそんな期待はすぐに絶望に変わる。だって、城門を入った所には…、
「なに、これ…。」
ティナ達が通った筈の道も昨日より荒らされて、泊まっていた宿は全部潰れている。そしてその中には…、
「リンちゃんっ!」
ボロボロになった床に仰向けに寝かされてまだ幼い目を閉じている。
「え、こ、これ。」
駆け寄ってみると何かに弾かれてしまう。よく見ると薄い魔力の結界で、その結界はリンちゃんの上へ置かれた魔晶から放たれているみたい。
「ねえ、魔晶って…。」
「リョウ兄じゃない!?」
こんな魔晶を通した魔法なんてリョウ兄以外見たことない。と言うことは、昨日リョウ兄がここに来たってこと!
「リョウ、何しにここに来たんだろ?」
「ティナ達を探しに、かな?」
「………。」
「………。」
「もしかしてリョウ。ここの惨状を見て…。」
「可能性はあるね。ティナ達、生きてるって知ってるかな?」
「分からないよ。けど、もしかしたら………。」
その時、ギギギという音と共に宿の扉が開かれ、どこかリョウに似てる大柄の男性が血塗れの剣を片手に宿に入ってきた。
「お前達、リョウの連れか?」
「あ、貴方は!?」
ティナ、こんな人知らない。記憶力には自身あるけどこんな人見たことない。
「俺は仁。リョウの戦友だ。」
「リョウ兄の?」
「そうだ。アイツのことだからここにいると思ったんだが……。」
「リョウに何か?」
「アイツ、俺達とここに攻め込んだのはいいんだが、なんせ単独作戦だったから見付からなくてな。」
「じゃあ……?」
「行方不明って所だ。」
「そんな……。」
「アイツのことだ。お前達を放置することはないだろう。帰ってきたら教えてくれ。」
「は、はい。」
仁と名乗る男の人はそう言うと宿から出ていった。残されたのはティナとリアス。それとリョウ兄が魔法で守るリンちゃんだけだった。
「これからどうする?」
その夜、二人で城壁の上に座り月を眺めていた。町中の敵兵はリョウ兄達の活躍により全滅。残されたのは多大な被害と大きな悲しみだけ…。
「私はリョウを探すよ!ちゃんと私達が生きてるって…、それにまた、会いたいし!」
「ティナも。こんな別れ方なんて辛いよ。それに置いてかないって約束してくれた。今度はティナが追い掛けるべきだと思うよ!」
「行こう。私達だって行けるよ!」
けど、今ある手掛かりは少ない。
けれどその中に鍵はあった。実は今日の昼間、大きな黒い何かを纏った人が北の方へ飛んでいったらしい。勘違いかもしれないけど、絶対にそうって確信がある。だからティナはそれを信じて進む。
「ティナ達は絶対にリョウ兄の所へ行く。待っててね…。」




