第37話
「何がしたい!お前達は何がしたいんだ!俺から、俺からどれだけ奪えば気がすむんだ!」
無意識に魔力が溢れ、辺りを濃厚な魔力が渦巻く。普段見えも感じもしない筈の魔力が肌で感じられる程に…。
「っ!」
聞こえていた風の音や人のざわめき、周囲の気配が消えるの視界が暗転した。何も見えなくなり、自分の怒りだけがフツフツと心の中で渦巻いている。
どこか、転生した時の真っ白な空間にも似ている。
「やあ僕、元気!?」
急に軽快な感じで話し掛けられ振り向くと、そこには自分と瓜二つの人物が腕を組み、俺を見ている。
「お前はだれだ?」
「僕は君自信、僕は白狩遼。君と一緒に歩んできたもう一人の君さ。」
「もう一人の俺?」
「そう。君が隠してたりすることも色々知っているよ。例えば君は昔ムシャクシャしてやってはいけないと言われていた木を切り倒したことがあった。」
「っ!」
「ねっ。これで信じてくれたかな?」
「………。」
「まあ、すぐに信じてほしいなんて言わないよ。僕が一番知ってるからね!」
「一つ聞いていいか?」
「どうぞどうぞ!」
自分じゃないのだがその人物がこんな喋り方をしていると違和感があるな。
「何故、今出てきた?」
いるのならもっと早く出てこればいい。
「んー、難しいなぁ。何故だと思う?」
「はっ!?」
「まあ分かんないよね。答えは簡単。君の感情が極度に揺らいだからだよ。」
「………。」
「そうだよね。理解してるよね。知ってるよ。ずーと見てたからね!」
「………。」
「僕、本当は挨拶だけにしようと思ってたんだけど、君が辛そうだから話を聞いてあげるよ!どうしたの?」
「お前、俺にそれを語らせるのか?」
「んー。嫌かな?」
「挑発してるのか?」
「そんなことないよ!僕はただ聞いてあげようとしてるだけだしね!」
笑いながらそう話してる姿。一言で言うとウザイ。そしてこいつの正体が分からなくなってきた。
「じゃあなんなんだ!お前は何がしたい!」
イライラしてくる。薄ら笑いを浮かべる顔が嘲笑っているように思える。
「なんだろうね。僕には君が怒ってる理由が分からないよ。」
「はあっ!」
イライラして思わず顔面を殴りかかってしまった。けれど…、
「どうしたのかな?」
奴はまだせせら笑いを浮かべ立っている。
殴りかかった拳は空を切り、奴には一切にダメージを与えていない。
「どういうことだ!?」
「言わなかったかな。僕には実体がない。君のように体があるわけじゃなく、僕はただ君の中にいるんだから。」
「くっ!」
「君は何か勘違いをしているね。君は恋人を殺した相手に復讐したくないのかい?思い出してみて?奴が恋人を殺した瞬間を。」
フツフツと込み上げていた怒りはなくなり、奴が手を振り下ろした瞬間だけがマザマザと思い出される。それは静かな殺意。研ぎ澄まし奴を仕留める為だけに作る殺意だった。
「………。」
「思い出したかい?」
「あぁ。」
「君のやりたいことは?」
「殺したい。」
「出来る?」
「出来ない。」
「なら力をあげよう。」
コイツが取り出したのは黒い炎。その中には飛んできた矢と崩れ去った宿、手を振り下ろした瞬間がはっきり写り出されていた。
「君はこれを受け入れるんだ。」
黒い炎が俺を取り囲み、足元を渦巻いた。そしてそれはドンドンと上がってきて、腰の所まできた。
「あれ、どうしたのかな?」
黒い炎はそこで止まった。俺の顔にはニヤリとした笑みが宿る。
「お前、俺は元々二人のことを引き摺っていない。そんな俺に洗脳が聞くとでも?人を従わせるにはこうするんだよ。」
コイツが同様したことで俺にも魔力が戻った。スキルは発動可能!
「『霊化』」
魔力で出来た体なら精神体である奴にも触れられる。
「分かってるだろうな?」
「き、君。少し落ち着こう。僕は君に力を‥」
「死ね!『断絶ノ矛』」
グサッ!
さっきは触れられなかったコイツの体に深々と手刀が突き刺さる。貫いたちゃんとした肉体の感覚が伝わってくる。
「君は…、ユウリを見殺しにした!」
「っ!」
「はっ、やろうと思えば止めれた筈だろ。」
「喋るな!」
「シュラもだ。君がしっかりと見ていれば止められた!」
「喋るなあ!」
「君は認めたくないだけ。自分の情けない過ちを!」
「っ!」
手刀を抜き去ると、今度は首を掴む。
「どうしたんだい、君は僕を殺せない。」
「死ね!」
グシャ………。
骨が砕けると共にコイツの首は落ちて、消えていった。それと共に黒い空間にはヒビが入り光が入ってくる。
パリンッ…。
ガラスの割れるような音と共に、黒い空間は霧のように消え去り人のざわめきが戻ってきた。
「………。」
抱き締めていたシュラをその場へ寝かす。
周囲には敵兵達が俺を取り囲み槍を構えていた。
「………。」
視界がまだ若干暗い。けれど体の中からはフツフツとした魔力が溢れ始めている。
「シュラ、最愛の人よ。永久の別れを…。」
その体に結界を張ると、敵兵を睨み付ける。
「分かってるな?お前達…。」
「ひぃぃっ!」
叫び声を上げた時には大きな風穴が空いた後だった。
「次死にたい奴はどいつだ?」
バンッ!バンッ!バンッ!
バンッ!バンッ!バンッ!
飛び行く弾丸は鎧の上からでも眉間を撃ち抜き血を撒き散らした。
「火炎魔法・粘炎」
弾丸に付与する形で発動した魔法は敵兵に着弾するとそこを中心に燃え上がり体に纏わりつきながら燃えていく。
「ふぅぅぅ。」
何故か俺の背中には天使のような大きな翼が生えていた。ただし真っ黒だが…。
「シュラ、俺と来てくれ、」
シュラを連れ『影移動』である場所へ移動する。そこは…、
「親父さんと、一緒にな。俺もいられなくてごめん。」
鍛冶屋の中へ親父さんと一緒に寝かせると、頬の血を拭き取る。
「じゃあな、」
美しい橙色の髪を撫でると鍛冶屋を後にした。
復讐心は薄れた。けれど俺にはもう何も残っていない。さっき騎士長の死体を見付けた。その回りにはシンと回復使いの死体も。
「ん、」
鍛冶屋を出た所には槍を構えた兵が出口を取り囲んでいて、遠くには弓を構えた弓兵達が俺を狙っていた。
「ちっ!嵐魔法・真嵐刃」
取り敢えず前方の槍兵達は一掃した。けれど遠くの弓兵達はまだだ。
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!
雨のような矢が俺を襲う。
「闇魔法・重力10倍」
一気に重力が大きくなり飛んできた矢は全て地面に落ちてしまう。そして影響を受けた弓兵達も片膝をついている。
「アイツを殺したせいかな。能力が上がってるんだ。」
本当に。スキルも増えてるだろうし、スキルの能力も上がってる気がする。後で確認するべきだな。けれど、先にこれを終わらせる。
「ひぃぃっ!く、来るな!」
「断る。じゃあな、」
ここ数日で大量の血を浴びた大太刀にまた世話になる。
「お前らもな!」
後退るものの刃からは逃げられない。追い掛ける魔力の斬撃はしっかりと命の根を刈り取った。
ヒュッ!
まだまだいるみたいだな。もういい。殲滅する。
「堕炎魔法・黒炎球」
振り上げた手に黒い炎が灯ると、1メートル程の黒炎の炎球が形作られる。
「燃え上がれ!」
振り下ろす手と共に炎球は爆散して弓兵を襲う。黒炎はその特性故に弓兵達の命が燃えるまで燃やし尽くした。
「さよなら、」
この世界に転生してまだ1ヶ月も経っていないが色々と思い入れのある町だった。さようなら。ここの思い出と共に…。
俺は捨てることにした。ここの記憶を…。




