第35話
「遼…、」
泣かない。そこまで生きていないが経験上俺は感情を露にしてはすぐに崩れる。今は絶対に耐える。
「リョウ様、娘はなんと?」
「ありがとう、だってよ。」
「そうですか…。」
「仕事は終わりだな。俺は帰らせてもらうぞ。」
「えっ…。あ、はい。」
俺は1人、ユウリの血で紅く染まったその服のまま本陣を去る。そして離れた一本の木の影に隠れると…、
「ぐ……、何故………、何故死んだ、何故!何故!」
泣かないなんて無理だろう。折角救えたと思ったのに、それにまた何故俺の目の前なんだよ!
「ごめん、ごめん。」
謝っても謝りきれない。本当に、守るって……。
「ユウリ……。」
二度と会うことの出来ない人よ。俺は愚かにも油断した。お前を失うことがここまで辛いとは…。
「じゃあな、」
俺の中で何かが無くなった。今着ている鎧を脱ぎ去ると、ユウリのだった剣をその場に突き刺しそこをあとにした。
「ふぅぅ。」
今日だけはいつもより飲んでいいだろう。
なんせ一人、人が死んだんだ。仕方ない…。
「もう一杯。」
一人の酒ほど飲みやすいものはない。夜風が俺を撫でる中、久しぶりに感傷に浸っていた。
「ユウリ……。」
酒を飲むほど悲しみは薄れるが、その分消失感だけが尾をひくように胸に残る。
「もう無いのか……。」
アイテムボックスに入れておいた酒は飲み尽くしてしまった。
「ん…、」
最近は酒に慣れたのかさほど酔わなくなっていた。今はこれしか無いというのに……。
「遼!」
したから叫ぶ声が聞こえる。見下ろすと声の持ち主は仁。その顔には若干の怒りが含まれている。
「どうしたんだ?仁。そんな怒った顔して?」
「どうしたじゃない!お前はどうせあの娘が死んで腐ってるだけだろ!それであの娘が報われると思っているのか!?」
「お前には関係ないだろ!1日くらい腐っても構わんだろ!」
「さっき、壁内から急報だ。敵兵が多数侵入だと。よく考えて行動するんだな、」
その時、目の前が真っ暗になり、膝から崩れ落ちてしまった。感じた痛みは鈍く、俺の心をさ迷っていた。その時…、
パキンッ…。
「なっ!」
左手の薬指へ嵌めていた指輪が真ん中から真っ二つに割れてしまった。それだけで俺の心は黒い何かに押し潰されそうになってしまった。
場所は空の高い高い所。ずっと町を見渡すことができ、所々に炎が立ち上っている。
「っ……。」
一瞬、ほんの一瞬だがこのまま墜ちて暴れまわろうかという考えが頭を過った。しかしそれをしては無駄死にするだけだ。
「はぁ。」
悲しくないわけじゃない。今回の一件は全て俺の油断が招いた結果だ。本当に俺のミスだ。けれど何故かもう気にならなくなっていた。けれど捨てられない物もあるのも事実。
「……。」
ピカピカと光ったり消えたりする星はまるで俺の心の内を表しているようだ。骨肉に凍みる夜風が溢れかける涙を乾かした。
「うああああああああああああああっ!!」
静がな夜空に鋭い叫び声が木霊した。
「リョウ様…。」
本陣の騎士長の部屋へ入るとまだ血のついたユウリの剣を傍らに置いて、騎士長は静かに目を開けた。
「騎士長、今日の作戦を教えてください。完璧にこなします!」
普段着として生成した黒いロングコート等を来た姿は俺が昨日までの気分を払拭しようとした為だ。
「リョウ様、無理は…。」
「していません。私はこの町を守るためここへ来たのです。本来の目的が達成されてない以上、まだ帰ることは出来ません!」
「……。分かりました。今作戦の内容を説明しましょう。」
そう言い通されたのはこの仮設拠点でも一番大きな部屋である会議室。その中には昨日見た諸隊長達や遊撃隊の者達。そして真ん中には仁が堂々と座っていた。
「この作戦には今戦で活躍してくれたリョウ様も参加してくださるとのことだ!」
騎士長は威厳たっぷりに言い放つと、俺に椅子をすすめた。
「……。」
仁は片目だけで俺を見ると何も言わず再び目を閉じた。その目からは読心の得意な俺も何も感じられないような目だった。
「それでは会議を開始する。今我等の町は敵将に奪われた形で占領されている。しかし幸いなことに全方角の敵兵達は同士達が討ち滅ぼしてくれた。残るは町の中にいる者達だけだ!」
全員がダンマリとしながら頷くと、騎士長は話を続ける。
「しかし偵察に行かせた者達の報告では町はボロボロに荒らされており、壁などには血痕も残っているようだ。このことから察するに敵将は我等の町を壊滅させる気でいるようだ。諸君等の話を聞かせてくれ。」
「……。」
やはりすぐに意見は飛ばない。俺的には根絶やしにすることくらいしか思い付かないんだがな。本当に…、許せない。
「グラシリク、そろそろ根絶やしにするべきじゃないか?」
「ジン、それは難しいと思うぞ。我等とて多数の勇士を失った。それだけの力は残っていないだろう?」
「可能だ。ここには先の戦いで功績を上げた者達が揃っている。それにグラシリク、お前も見ただろう。あの強大な魔法を!」
「そ、それはそうだが。」
なんとも俺の意思に沿うように話が進むな。根絶やしにしてやればいいんだ。
「私もその意見に賛成です。奴等は我等の町を蝕み破壊した害虫。この機に全て無くしてしまいましょう!」
「……。」
「皆さん、貴方達は先の戦で激戦を繰り広げた勇士です。私はその力を信じたい。貴方達の力で我等の町を取り返しましょう!」
『っ!』
「リョウ様、私よりも司会に向いてますな。」
「それほどでも。それよりも奴等は殺します。絶対に、罪を償わせるべきだ。」
ユウリを殺した罪、その身で償え。そしてこの平穏な町を脅かした罪、簡単には購えない。
「諸君、猛者二人がこのように言っている。諸君等はどうしたい!?」
『我等は我等の町を取り返したいです!』
「そうか。それでは我等の町に侵入した敵兵の掃討作戦を決行する。諸君、心してかかれ!」
『おぅー!』
それから説明されたのは掃討作戦の内容。
まず全方位の門を各精鋭で塞ぎ、退路及び補給を断つ。そして中は中心を真ん中とした円状に攻め込み敵と当たれば各個撃破。そしてその中を暴れまわるのは俺や仁を含めた特別精鋭部隊だ。
「諸君、諸君等は特別精鋭部隊として集められた謂わば最高戦力だ。活躍を期待している。」
メンバーは五人。その内三人は敵将討伐時のメンバーだ。そして残りはシンとあとは回復使いの女性だ。シンはユウリのことを気に掛けていたらしく、ギド等からは煙たがられていたようだ。
「基本的には各個人での行動は慎んでほしい。しかし仕方の無い場合は予め報告の上、別行動を許可する。また、この中でジンとリョウは個人での殲滅を担当してもらう。我等三人は共にまいる。」
「一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
回復使いの女性が遠慮しながら手をあげる。この中で常識人なのはこの人だけかもしれないな。
「どうぞ。」
「何故、ジン様とリョウ様は個人なのですか?」
やはり核心をついてくる。まあ気になるだろうな。俺の場合、そもそも許さん気がする。
「理由は簡単だ。ジンとリョウ、この二人の戦闘方法には周囲を巻き込む謂わば個人戦で本領を発揮する。なので仲間のいる状態では完璧な戦闘をこなせないと言うことで別行動をとってもらう。異論はあるか?」
「ありません。ご回答、ありがとうございます。」
「それでは作戦を決行する。既に他の者達は持ち場についた。我等もまいる!」
『はい!』




