第31話
静かで冷ややかな風が窓を揺らす。俺の開けた窓はガタガタと物音をたてていた。
「二人共、俺が帰ってこれたら、また会おうな。」
部屋にその旨の手紙を書き残しておくと、窓から飛び降りた。睡眠薬の効力期間は分からないが超強力で5日分くらいは効くと思う。
「あとはあの人へ。」
俺の向かったのはサバイバルトーナメントの会場。そこの真ん中に立つのは恩師の姿。
「おじさん…。」
「坊主。立派になったな…。」
「おじさんのおかげです。」
「そうか。行くのか?」
「はい。ここが好きなんです。守りきりたいんです!」
「そうか…。俺は止めん。けれど、死ぬなよ。」
「はい。ありがとうございました…。」
影に入るとその場を去った。無駄な言葉は必要なかった。ただ礼を言えただけで十分だ。
次に向かったのは鍛冶屋。店外にはシュラがモゾモゾと歩き回っていた。
「ごめんな、シュラ。」
最近練習し始めた弓で鍛冶屋の柱へと矢を突き立てる。
「リョウっ!」
ビクッと一瞬止まったが、そのまま影に入った。ここで会えば行けない気がするから…。
「冒険者及び騎士団達よ!我等の街を守る為、いざ出陣だ!」
『うぉぉぉぉぉぉぉーーーー!』
「お前達、俺達も行くぞ。ギド、ユウリ。俺達三人は先陣をきる!準備しろ!」
『はいっ!』
今回使う武器は大太刀。ユウリと試合した時と同じ装備だ。因みに俺の防具は遊撃隊からの支給品だ。
「ギド、ユウリを守ってやってくれないか?」
「隊長、奴も覚悟はあります!」
「それでもだ。出来る限り俺は同胞を殺させたくない。」
「……了解しました。」
「ありがとう。」
いよいよ城門が開いた。そこには見渡す限りの兵達が。
「うわぁぁ。ギド、いつもこれだけいるのか?」
「いえ…。今回は本気なようです。」
「そうか。けれど変わらない。俺達がすることはあの軍勢の中を突き進むだけだ!」
「はい!」
「それでは我等の街を守る勇士達よ。剣を持て!」
『うぉぉぉぉーー!』
「進めー!」
『うぉぉぉぉぉぉぉーーーー!』
「行くぞ、二人共!」
「はい!」
「……。」
流石遊撃隊だ。他の騎士とは比べ物にならない圧倒的スピードで走る。まあ、そんな化け物達に余裕でついていけるんだけどな。
「隊長、バリスタです!」
「全員避けろ。まともに受けるな。」
『はい!』
「俺は先に行く。お前達も早くこいよ!」
「はい!」
「火魔法・身体強化」
ギドの返答を聞くと魔法を使いながらスピードを上げる。そして敵軍の中へ突っ込んだ。
「お前が敵将だな!お前達、そこの者を殺せ!」
『うぉぉーー!』
俺に向けて大勢の殺意が向けられる。
「そんな者じゃ意味ないな。仁の殺意の方が強かったぞ。」
あの体の芯までも鷲掴みにされるような殺意よりはこんな雑な殺意なんて弱い。
「取り敢えず死のうか?火炎魔法・核爆破。氷魔法・核爆破。雷魔法・核爆破!」
1つ1つが人を数百人殺せるような威力の魔法だ。けれどまあ、乱すには十分だろ?
ーーーーーーーーーーーー!!!
吹き荒れる炎と氷と雷。全て合わさる物ではないが相殺もしない。そんな中を誰が生きていようか?そこ一帯に残っているのは俺1人だった。
「遊撃隊達よ!攻めろー!」
俺の開けて場所へと雪崩れ込んだ遊撃隊の者達はそこを中心に敵陣を荒らしていく。
「俺達はこのまま敵陣を真っ二つに突き進むぞ!二人共、心してかかれ!」
「はいっ!」
「……。」
ユウリも話してはくれないがしっかりと頷く。その両手には短めの直剣が。
「行くぞ!」
左右に遊撃隊達は攻めていく。俺達はそれを見送った後、そのまま真っ直ぐ敵陣を攻めていく。
「て、敵将だ‥、」
「黙れ!」
叫びきる前に首を飛ばすと、その周辺の者達と対面する。
「化け物がっ!」
「失礼だな、人を化け物扱いなんて!」
振り下ろされた直剣を避けると、膝を深く鳩尾へ捩じ込む。
「次は誰だ?」
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!
放たれた矢は俺を狙ったのだろうがそれは結局仲間を殺すことになる。
「ぐはっ!」
鳩尾に攻撃を受け動けない奴を盾にしながら弓隊へ近付く。
「死ねよ!火炎魔法・核爆破」
ーーーーー!
そこ一帯の弓隊を吹き飛ばした。ユウリに使ったくらいの威力だから殺傷能力は少ない。
「はあっ!」
ガキンッ!
直剣はやはり強者意外は雑魚だな。大太刀との打ち合う衝撃だけで怯んでしまう。練度が低い!
「はあっ!」
「ひゃぁ!」
グサッ!
肉を貫く感触と共に生暖かい血が俺の手を汚す。その時…、
「っ、」
背中に一本矢が当たった。放ったのは兵の中に隠れている1人。強者だな!
「溶岩魔法・炎隕石!」
作り出された大小様々な隕石は全て俺を狙った奴を狙っている。
「落ちろ!」
ドカンッ、ドカンッ、ドカンッ!
隕石は辺りを抉り俺を狙った奴をも殺したかと思われたが、死んでいるわけない。避けるのは容易いのだから。
「っ!」
見付けた。水の結界に守られながら逃げている。『影移動』を使い奴の背中へ回る。
「っ!」
相手の驚愕の表情が伺えた。が、既にその時には腹に大穴が空いていた。
「隊長、そろそろいいのでは?」
「そうだな。それぞれ城門前で合流だ。最後に潰してから戻るぞ!」
「はい!」
「……。」
「ん、待て!」
「どうしたのですか?」
「ユウリ、その右手どうした?」
いくら黒装束とはいえ血のあとはよく分かる。切り裂かれた生地の内から血が滲んでいる。
「な、なんでもねえよ!」
「見せろ!」
傷口は縦5cm。小柄なユウリからすれば手を動かせなくてもおかしくない傷だ。
「か、勝手にするんじゃねえ!」
「黙れ。お前が死んだら勝っても嬉しくないだろ!」
「……。」
幸い殺した中には精霊魔法を持っている奴がいたらしい。それも戦場なだけあって回復系だ。
「これで、いいんだよな?」
精霊魔法と言っても魔法と大差ない。単に人には普通使えないだけ。
「……。」
「ギド、先に行ってくれて構わない。俺はコイツを背負っていく!」
「な、何を勝‥」
「隊長!危険です!」
「大丈夫だ。俺には奥の手もある!」
「……分かりました。お気を付けて!」
「ギドも気を付けろよ!」
「はい!」
ギドなら大丈夫だろう。心配なのはコイツなんだよ。
「俺は絶対に…、」
「行くぞ。今のお前は何も出来ない。理解できるな?」
「……。」
「ならどうする!?」
「自決する…。」
「何故そうなる!」
「……。」
「命令だ。乗れ!」
「はい…。」
意外と軽い。やはり戦闘の支障にはならんな。
「掴まれよ、」
「……。」
それでもしっかりと掴まってくれる。まあ、振り落としてしまうと危ないし、しかと掴まってくれなきゃ俺も動けん。
「行くぞ!」
ブシュッ!
襲いかかる兵の首を切り裂く。血飛沫は俺を汚すが今回は風により血を散らす。ユウリに浴びさせる訳にはいかんしな。
「火炎魔法・核爆破」
血路を開くにはやはり爆発が一番。火炎の核爆破は兵を薙ぎ倒し体を焦がす。
「大丈夫か!?」
「……。」
頷いたのが分かる。これくらいの爆風が大丈夫なら基本的な攻撃は問題ないな。
「はあっ!」
「うるさい!」
振り下ろされた大剣と打ち合うと、軽い大太刀は押し負けてしまう。
「くっ!」
「隊長さんが弱いのぅ!」
調子にのりやがって!大太刀の恐ろしさを教えてやろう。
「はっ!」
ブシュッ!
落ち着いた状態からの日本刀程怖いものはない。油断していた男は肩から脇腹までを両断された。
「火炎魔法・紅炎雨」
大きな炎の球が弾け敵に炎球が降り注ぐ。
やはり紅く染まってしまったな…。




