第30話
「取り敢えずこの部屋を片付ける。異論のある者はいるか!?」
控え室の中には武器が散乱し、壊れた家具等も多数散乱していた。
「何故今やるんですかい?」
「ここでやれと?今から血を浴びに行くのに気合いも入らないだろう?」
「……。」
「と言うことだ。全員自分の武器を持って外に出ろ。家具類は壊れているものを全て撤去する。」
『はい。』
遊撃隊達を全員部屋の外へ追い出す。しかし残っているのが1人だけ。それは俺がダメージを与えすぎたせいだで体が動きにくいからだ。
「ここの者達は人情が無いんだな。」
「お前程じゃない!」
何故か嫌われてるな。ま、どうでもいい。取り敢えず片付けさせてもらう。
「風魔法・集風」
手の内に作る風の中心。魔法を使うと部屋中のガラクタとゴミが手の内へ風に乗って集まった。
「火魔法・焼却」
魔力で集まったゴミ達を魔法により燃やし尽くすと、灰になったゴミを部屋の外へばらまく。
「さあ。あとは家具の整頓だな。」
ゴミ類を集めた時に使った風はゴミだけでなく家具まで巻き込み元よりは家具が散乱した状態になってしまった。
「これは、ここか。」
倒れてる棚を壁に立て掛け、落ちている小物をそれに乗せていく。魔法による風によって倒れたので破損はない。
「おいっ!お前。」
唯一保護していたベッドは風の影響を受けず、布団1つ乱れていない。
「なんだ?」
「この結界を何故張った?」
「風から守る為だが?」
「だから何故だ!?さっきは殺そうとしたくせに……。」
「殺す理由がないからかな。お前が死にたいなら別だが。」
「……。」
「話は終わりか?」
「……。」
無言でコクりと頷くと、それっきり喋らなくなる。まあいいか。やることはまだまだあるんだ。
「ふう。終わった…。」
散乱していた家具やゴミは全て片付けられ見違えるほどまでに綺麗になった。真ん中にテーブル。壁際には各家具達が位置している。そんな中、ベッドは端っこに置いた。
「お前達この寒い中待たせて悪かった。中へ入ってくれ。」
『はい。』
「それぞれ武器類は武器掛けに置いといてくれ。もしくは各自で携帯してくれ。また、この控え室内での武器使用は禁止する。模擬戦は素手でやってくれ。」
「なら俺は携帯させてもらうぞ。」
「俺もだ、」
「俺も、」
「各自自由にしてくれて構わない。ただし控え室内での使用行為はそれ相応の罰を下す。以上だ!」
『はい!』
「では改めて自己紹介させて頂く。俺はリョウ。前回サバイバルトーナメント優勝者だ。あと出生及び故郷について控えさせて頂く。次はお前達の番だ。と言っても名前だけでいい。」
「リョウさん。俺達、名前は捨てました。」
「なにっ!?」
「名前、故郷、親族、自分までも捨てました。俺らは遊撃隊。死を覚悟する必要があります。」
「そうか……。」
「……。」
「ならお前達に名前を与える。それを名前にしろとは言わん。しかし俺はお前達のことをそう呼ぶ!」
全員が驚愕の表情を浮かべザワザワとした雰囲気が蔓延する。正直、俺は人だ。コイツらのような存在は容認できん!
「いいんですかい?」
「なにがだ?」
「俺らに名前なんか与えて、上層部は…。」
「そんな物気にしない!それにお前達が裏切らん限り問題無い!」
「……。」
「そして正直俺がお前達に名前をつければ時間が掛かる。意味は分かるな?改めて自己紹介を頼む。」
『はいっ!』
「お、俺はギドです!」
「俺はシン!」
それからは全員の名前を聞き、これからはそう呼ぶことにした。そして最後は…、
「お前の名前、教えてくれるか?」
この遊撃隊唯一の女性だ。その目には憎しみ混じりの複雑な感情が宿っている。
「……。」
「そうか。いつでもいい。好きな時に教え‥」
「ユウリ…、俺の名前はユウリだよ!」
「そうか。これからはそう呼ぶ。」
「……。」
「『魔力錬成』」
『うわっ!』
やはりこんなスキルは珍しいのか。俺の魔力錬成に驚き声が上がった。
「飲め。回復のポーションだ。」
小さな10cmくらいの結晶型のガラス瓶。その中には半透明で青い液体が。
「ん、」
ポーションを受け取ったユウリはそれを一気に飲み干す。会ったばかりの俺の薬を飲むというのは勇気があるのか、馬鹿なのか…。
「礼を言う。」
体を起こしベッドから出ると、そう言って俺に向かい片膝をつく。
「俺はリョウ隊長に服従を誓う。さきの無礼、お許し願いたい。」
律儀な人だな。正直、もっとフレンドリーでいいんだが…、
「許す。俺は不和を生みたくない。体が休まり次第、参加してくれ。」
「はい。」
「それではギド、敵陣乱獲の作戦を締めるぞ。全員席につけ!」
『はいっ!』
「まあまず、お前達がどんな戦法をとっていたか知らんが、俺達遊撃隊は相手の陣を掻き乱したあと、雪崩れる冒険者及び騎士達の援護だ。まあ、作戦通りに行くとは思えん。相手の奇襲等の妙計の対応も俺達の任務だ!」
『はい!』
「その中で、初めに敵陣に突っ込む人員を募りたい。合計3人。その内1人は俺が行こう。あと2人、誰か一緒に来てはくれないか?」
「俺が行きます!」
手をあげたのはギド。大剣使いのギドはこんな作戦には向いてるだろう。
「あと1人、誰かいないか!?」
流石にこんなに危険過ぎる作戦には誰も参加したがらない。けれど最低でも3人は必要だ。シンがやりたがっているが、弓使いのシンには向かない仕事だ。
「俺が、行く。」
言ったのはベッドから起き上がったユウリ。彼女は俺が見にもって知っている通り、両剣使いだ。けれど…、
「出来るのか?」
「俺を舐めてんのか!これくらいの傷っ!」
「そうか。ならいい。作戦決行は明日。他遊撃隊の諸君は俺達の後に続き敵陣を掻き乱す。それぞれ準備をしていてくれ!」
『はいっ!』
黒の袖をはためかせながら扉を出た。俺はわざとここを出た。俺への賛否両論あるだろう。それについては気にしない。陽の暮れた道を闘技場へ向かって歩いていった。
「手際のいいことですね。」
「ありがとうございます。」
「今日はもう帰ってもらって構いませんよ。明日は最後かもしれませんから。」
「そうですね。1つ質問よろしいですか?」
「はい。」
「遊撃隊所属のユウリという女。アイツの生い立ちを教えてくれませんか?」
「あの娘に、惚れましたか?」
「いや、恐らく違うと思います。」
「恐らくとは?」
「はい。私は時たまに自分の感情が分からなくなる。恋愛に関しては恥ずかしながら疎いのです。」
「そうですか。詮索は止めましょう。あの娘は元々はスラムで暴れていた小娘でした。」
「スラムですか?」
「はい。スラムで暴れていた彼女は憲兵に捕まりましてね、それからは……。」
ダンマリが答えを示していた。そりゃああなるのも頷けるな。
「私が見掛けた時には既に目に魂はありませんでした。それを哀れに思って遊撃隊として養っているのです。」
「そうなんですね。ありがとうございました。」
「はい。どうか、あの子を救ってやってください。」
「そうですね。私に出来る限り…。」
断言は出来ないが、俺はユウリをもっと人らしくしてやりたい。憎しみに染まっているあの目だけは見たくないから。これが終わるまでは…。
「いよいよ明日、か…。」
静かな月が照らす森は明日紅く染まるとは思えなかった。




