第3話
アクリル板の説明を元にすると、この子の言う貴族とは西洋で実権を握っていた王族及び上層部の人間を指すのだろう。けれど、何故俺を貴族と?
「どうして、貴族だと思うんだ?」
「えーと、、名字があるからです。貴族の方々の名前には、名前と名字があってそれ2つ合わせて名前なんですよ。」
「そうか。俺は貴族じゃないし心配しなくていい。」
「ほ、本当ですか、。分かりました!」
貴族、それはこの世界では煙たがられる存在なのだろう。それにとてつもなく恐ろしい存在。
「それにしても一つだけ聞きたいことがあるんだがいいか?」
「はい。どうしたんですか?」
「君は何故ここにいる。そして俺をいつ知った?」
これが一番疑問に思っていた。転生と言われこうなるとは誰も想像つかないだろう。目を覚ましたら見知らぬ子が一緒にいる。状況理解が追い付かない。
「私は、、、、ま、迷子になっちゃったんですよ。お花積みに出掛けたら、急に雨が降ってきちゃって、、、」
「そうか。で、俺のことはいつ知ったんだ?」
「えーと、、その後雨が止んで帰ろうとしたら、道が分からなくなっちゃって、、その後、森の中で倒れていた所をここまで運んだんですよ。」
色々と突っ込みたいところはある。そもそも話が途切れ途切れで違和感がある。けどまあ、悪い子ではなさそうだし、止めておこう。
「そうだったのか、ありがとう。じゃあ俺は失礼する。」
「ま、待ってください!」
俺が洞穴から出ようとすると、急いで俺にしがみつくと、涙目で訴えかけてくる。
「どうしたんだ?」
「わ、私と一緒にいてはくれませんか。そんな、一人なんて、、、」
「はぁ……。分かったよ。」
くっ…。体が変わって価値観も少し変わったようだ。ヤバい、滅茶苦茶可愛い。無理だ、絶対に無下には出来ない。
「あ、ありがとうございます!」
「ただし、、一つ条件だ。」
「っ、」
何を突き付けられるのかと思っているのか緊張した面持ちで身構えた。
「俺も丁寧な言葉とかは苦手なんだ。だから丁寧な言葉遣いは止めてくれ、」
「は、はい。」
「…。」
「あっ、、うん!」
「そうだ。無理強いはしないけど、やっぱり丁寧な言葉は疲れるからな。」
「そ、そうだね。」
「あぁ。えーと、、リアスは家に戻りたいんだよな?」
「え、あ、うん。」
「出掛けてたら迷ったんだろ?」
「うん。そうだね、、」
「どうした?」
「いや、、私のことなんかを心配してくれて、、嬉しかったんだよ。」
笑顔でそう話すが、目尻には涙の跡が伺える。それは嬉し涙だと信じたい。
けど、それにしてもヤバいな。日本ではこんな経験なんて無い。そもそもこんなに積極的に喋ったことさえなかった…。
「……。そんなこと、当然だ。リアスのことなんてよく知らないけど、今は俺と一緒にいるんだ。当然のことだと思うけどな。」
「リョウ、って良い人だね。」
「そうか?」
「うん。私、そんなこと言われたことないよ。だって、、」
「?」
「やっぱり無理。ごめんね。私、やっぱりもう少ししないと伝えられないや。まだ怖い…」
「そっか。言いたくなければ言わなければいいだろ?無理強いはしないって言った筈だ。」
「うん、ありがと。けど、本当についてっていいの?」
「どうしてだ?」
「だって、私がいたら邪魔になるんじゃないの?」
「いや、、正直心強い。是非一緒にいてくれたら助かるし嬉しいよ。」
「っ!」
「行こう。迷子になったのなら街からはそこまで離れていないだろう。親はいるのか?」
「いえ、、、私がまだ子供の頃に、、」
「すまん、、」
「私、親に会ったことないんだ。」
「そうなのか?」
「うん。私もいつ死ぬか分からないから、、」
「ん、何か言ったか?」
「なにも。」
最後の方は聞こえなかった。まあいい、詮索はしない方がいいだろう。
風が髪を揺らした。小鳥や獣達の声も遠くに聞こえる。あれから数日歩き続けて少しは親しくなれたのかもしれない。まあ、俺には竜次や桜咲しか友達がいないから分からないけど、、
「方角はわかるのか?」
「一応ね。きっとこの方向だと思うんだけど、、、」
「分かった。それよりも、リアスは俺のことを疑わないのか?」
「疑う?」
「あぁ。一つ目に俺は初対面だぞ。それに一人で森林の中倒れていたんだ。十分警戒すべき相手だと思うんだが、、」
「あー、、そうだよね。けど、私にはどうしてもリョウに頼らなくちゃならない事情があるんだ。だから、」
「そうか。いつか話せる時が来たら話してくれ。」
「うん。」
そのあと、少しの静寂が辺りを包む。その空気はやけにピリピリして、少しの悪意も感じる。俺達以外がいるのか?
「大事な話していいかな?」
「どうしたんだ?」
急に真面目な面持ちになると、体ごと俺に向き直る。今気付いたが、リアスの肌には傷痕が多いな。
「これ、見てくれる?」
「ちょ、」
リアスは上の服を半分まで捲ると、脇腹の所を指差す。そこには六芒星が複雑に絡まる痛々しい焼印がある。これは、、、奴隷?
「分かった?」
「……。」
「奴隷、だよ。私ね、実は逃げてきたんだ。そしたらリョウが倒れてて、どうしても助けてあげたくなって、、、けど、ごめんね。嘘ついちゃってた」
「……。」
「嫌でしょ。私、きっともう少しでまた連れ戻されちゃう。けど、それより前にリョウに会えて良かった。ありがとう」
「……。」
「逃げてもいいんだよ。私といたらリョウも殺されちゃうかもしれない。」
無言で俺はその事実を受け止めた。予想もしていた。それにこうなることも分かっていた。だからもう涙ぐみながら話すリアスを見たくない。
「そんな、俺が、俺がお前を見捨てることなんて出来る分けないだろ。見損なってくれるな。絶対にお前を奴隷になんて戻さない。絶対にだ!」
「やっぱり優しいねリョウ。けど、もう遅いよ。ありがとう、最初で最後だけど、初めて人の温もりを感じれた気がしたよ」
にこやかに笑うと立ち上がる。その目には涙が流れていた。そして俺の目にも涙が流れていた。
「商人さん。私は戻るからこの人には何もしないで欲しいんです。お願いします!」
「ほう。この数日の間に随分と仲良くなったもので。この奴隷がそんなに気に入りましたか?」
物陰から出てきたのは中年太りのおっさんだ。その手には数々の宝石が光っており身なりもいい。しかしその顔は金への執着心と欲望にまみれ醜い。
「奴隷、彼女を奴隷と呼ぶか!?」
「ほう、彼女と来ましたか。どうです、この娘を買いませんか?さすれば全てあなた様の思いのままですよ。」
揉み手をしながら商談へ入ろうとしたがそんな物俺には関係ない。久しぶりに随分と気が立ってるんだ。
「はっ?俺に彼女を買えと?俺には今お前を殺せば全て終わると思うんだがな?」
「さあ。それはどうでしょうな。この娘には魂命契約が施されてします。魂命契約は命を掛けていますからね。もしあなた様がそんなことをすれば、この娘はどうなりまさかね?」
「くっ、」
「どうです。買いませんか?」
「いくらだ?」
「そうですねぇ、、ざっと3500000G程でしょうかね。」
「3日待て。3日後にはきっちり払ってやる。」
「分かりました。それでは交渉成立です。3日後、この先の街で待っています。」
商人は良い商売が出来たとニヤつきながらいつの間にか置いてあった馬車に乗り込んでいった。