第28話
「リョウ…。」
葛藤はあるだろう。俺の我が儘だが分かって欲しい。
「分かってくれるか?」
「うん!」
「そうか。ならそろそろ帰ろう。俺もそろそろ歩けそうだ。」
肩を貸してくれてたティナにそう言い微笑みかけると、フラフラしながら立ち上がる。出血量が多いせいだな。視界がボヤける。
「だ、ダメだよ。私が背負うから、無理しないで!」
ティナも俺に肩を貸してくれて、立たせてくれている。ほんと情けないな。
「そんな…。リアスにやらせるわけには‥。」
「リョウはいつも言うでしょ。無理するなって!」
「……。」
「ね、乗って。」
無言で背負われる。本当に、もう少し考えるべきだったな。庇うんじゃなくて先に殺すとか…。
「行くよ、」
偽装で服だけは血のあとを消した。これで町を歩いても問題ないだろう。血塗れの男を抱えてるなんて、完璧ヤバい感じしかしないだろうし。
「ついたよ、」
見慣れた宿の部屋。いつもは俺より二人の方が先に入るんだがな…。
「ありがとな、」
まだ穴虎の三本の爪痕は残っている。それに外面は治っても内部はまだ回復しないだろう。そう考えると全快するにはせめて5日は掛かる。
「無理しないで。私も…、いや止めるよ。また怒られちゃう。」
「お願いだ。」
「うん。」
「ティナも…、ごめんな。」
「うん。いつだっていいよ。そんなことより先に傷を治して。」
「あぁ。そうするよ。少し寝る」
もう夜だ。リアスの背中で少し寝てしまったが、その間に陽も暮れたみたいだ。実は今夜も予定してたことが多かった。けれどこの傷じゃあ無理は出来ない。
「おやすみ、」
そう言ったのが最後の記憶だった。
「ん…、」
まだ背中の傷が痛む。傷口は塞がったようだが、まだズキンとした痛みが体を襲う。
「リアス?」
部屋には二人共いない。と言うことは俺はある程度の時間まで寝ていたと言うことだ。それに二人が部屋にいない。何故だ?
「んっ?」
よく聞き耳をたてると外が騒がしい。それにこの宿の下も騒がしいな。何かあったのだろう、嫌な予感しかしない。その頃、廊下を歩く音がしてドアノブに誰かが手をかけた。
「誰だ!」
今この状況なら襲われたらどうにもならん。手の中に大太刀を取り出しながら待ち構える。
「リョ、リョウ?起きたんだ、良かった!」
「リアスか……、んっ?」
大太刀を下ろしたが、どうにもリアスの表情がおかしい。それに若干汗もかいてるし、何より声が硬い。
「どうしたのリョウ?」
「何があった!」
「リョウ兄、起きたんだ、良かった!」
ティナも来たがやはりおかしい。二人共まるで何かを隠してるようだ。
「何があった!?二人共、教えろ!」
「え、えーと、」
「んっ……。」
「もういい。直接確かめる!」
恐らく二人が巻いてくれたであろう包帯が傷を覆っている。これに関しては感謝するが、今は話が違う。
「リョウ、待ってよ!」
今は急ぎだ。これでも構わん!
上半身包帯だけの状況だが、そのまま階段を下りていく。
「どうしたんだ!?」
中は緊迫した状況で中には重い鎧兜を身に付けた大柄の騎士が誰かと言い合っている。
「リョウ殿は何処だ!?」
「リョウさんなら今寝込んでるよ。重症だから起きてこれないんだ!」
「なら我々が直接向かう!部屋を教えろ!」
「だから客の個人の部屋を教える馬鹿がどこにいるんだい!」
「なにを!」
あの人は何度か見たことがある。リンが注文を教えに行ってる女性で、ここは家族で営業していると聞いたので、リンの母親と言うことになる。
「お兄ちゃんは今寝てるの!だからダメなの!」
そう言って必死に騎士を抑えようとしてくれているが、なんと騎士はそんなリンに手を振り上げた。
「ちっ!」
昨日のように庇うようなことはしない。その騎士の拳を片手で受け止め、リンを片手で庇う。
「おいおい、子供に手をあげるのか?」
背中にズキンと痛みがはしる。やはりまだ無理はできんかもしれない。
「これはこれはリョウ殿。ギルドから緊急要請がきております。」
「とりあえず貴様は誰だ?」
言葉遣いが悪いと思われるかもしれないが、相手のこの高圧的な態度と何より子供に手を出そうとした人道に外れているコイツだ。こんな口調でも問題あるまい。
「私はギルド所属の騎士。ストブと申します。要請に中々応じない貴方及びお連れ様を迎えに参りました。」
「そうか。では動向しよう。」
「それは懸命なご判断です。それでは…、」
騎士の後に続こうとすると俺の手をしっかりと握る者がいる。
「お兄ちゃん、行っちゃダメだよ。死んじゃうよ!」
涙ぐんでそう引き止めてくれる。しかし行かなければならない。ギルドの権力なら宿一つくらい簡単に潰せるし、暗殺なんと御手の物だろう。
「ありがとなリン。けど行かなきゃ。これも仕事だ。」
「お兄ちゃん……!」
「リョウさん、行けば帰ってこれませんよ!」
俺とは話したことなかったがこうやって心配してくれるのが嬉しい。けど行かなければ。
「リョウ殿、早く!」
「分かっている。それよりも、この代償はどうするんだ?」
俺がいない間に相当やってたようだな。店内は滅茶苦茶だ。好きだったのに…。
「どうと言われましても。仕方のないことです。」
「はっ!?」
「なにを‥、ぐはっ!」
「仕方ないじゃないだろ。頭下げて誠心誠意謝りやがれ!」
偉そうな薄ら笑いを浮かべる騎士の顎を殴りあげ、力の抜けた足をかけ跪かせる。
「謝れ。その両手が残っているうちにな、」
跪いた騎士の背中を踏みつけながら大太刀を右肩にあてる。
「お兄ちゃん、何やってるの!?ダメだよ」
「殺しはしないよ。」
「す、すいません、でした、」
一応は謝った。けれどそれも建前だけだな。まあいいか。
「だそうだ。これで許してくれかる?」
「は、はい。私はかまいませんが…、」
「そうか。じゃあ行ってくるわ!」
まだ頭を垂れている騎士の首を掴むと無理矢理立たせる。
「リン、ごめん。怖かった?」
「だ、大丈夫。初めて名前で呼んでくれた…。」
「そうだったね。じゃあ行ってくるよ!」
「うん!」
騎士を引き摺りながら外へ出る。そしてその重い騎士を近くの壁に叩き付けた。
「朝から何宿騒がしてんだ!あそこは朝からが売りなんだよ!それを朝から騒がすなんて何考えてんだっ!」
「何とはなんです?貴方が来ないからですよ。」
「そうかそうか。なら壊した無茶苦茶にしたお前にも然るべき罰を!」
まあ当然、ある程度の苦痛はな!
「『魔力錬成』」
「ぐぁ、ぅ、ぅぅ…。」
「じゃあな。先に行く。」
普通の鉄剣を魔力で鋭くしてゆっくりと鎧に差し込む。そしてそのまま抜かずに騎士を磔にした。
「本当に騒がしいな。」
路地裏に入ると…、
「『魔力錬成』」
家に大量にある着物の中から今着れる者を選び生成する。白い生地に黒色の衣。下は灰色でと所謂袴だ。日緋色に煌めく大太刀が光を反射している。
「やりすぎだな、」
これの上から黒いカッターシャツを着ると、人混みに戻った。ギルドからの要請のせいか、武器を持った男達の通りが多い。
「あの二人は気絶させてきたしな…。」
当然。気絶していれば流石に無理矢理連れては来ないだろう。それに向こうの世界の睡眠薬を使った。暫くは起きないだろう。
「く、進めないな。」
逆に進む人も多く男達を含め俺も中々進めない。折角傷を引き摺ってきたのに…。




