第2話
俺が最後に感じたのは冷たくなっていく体に儚いなって感想を抱いたことだった。
俺は死んだ、のか?
手も足も無い気がする。魂と言う奴なのかな?
移動は出来る、前へ行こうとすると体がフワフワと浮かびながら進む。これは実体がないからなのかな、、?
(あー、あー、、声が出ない?)
まあ、当然か。声帯がないんだ、、声が出ないのも頷ける。それに意識もボウッとして定まらないし、視界も霞んで見える。これは眼球がないせいなのか?
(それにしても、二人は?)
同じ時に同じくして死んだんだ。もしかしたらこの近くにいるかもしれない。辺りを包む静寂は生物の気配を一切感じさせないが、一応探してみる。俺だって一人は寂しいからな。その時、眩い光が視界を覆うと、突然視界がクリアになり手足の感覚が戻った。
「ここは…?」
手足の感覚が戻り地に足がついている。そのことから自分の体を眺めると、生前の時と同じ白狩遼の体だった。
「誰かー!?」
とんでもなく広いわけじゃない。たまにテレビで見た芸能人の家の部屋程の広さだ。しかし不思議なことに何も置いていないし壁が六面全て真っ白だ。それも白いレンガに覆われ、まるでこの世の物とは思えない。いや待てよ、ここはあの世、だよな?
「誰も、いないか、」
予想していたことだが返事は無い。竜次の声も桜咲の声も聞こえない。二人はそもそも死んだのか?死んだのは俺だけなんじゃ……
そうこうしていると、部屋の真ん中に透明なアクリル板のような物がフワフワと浮かび上がる。
「なんだこれ?」
糸か何かで支えられているわけではない。本当に浮いていたのだ。それに本当になんの変哲の無いように見える。
ピコンッ
「うわっ!」
突然そんな軽快な音が聞こえると、アクリル板へ俺の読める日本の文字で何か書き出されていく。
《貴方は何をしたいのですか。
選択をお願いします。》
「はっ?」
何をしたいと問われても回答に困る。俺はただ訳もわからず連れてこられただけなんだが、、、
・《生きたい》
・《死にたい》
「はっ?」
これに回答を求めているのか?
生きたいか死にたいかなんて、答えは決まっているだろう。俺は生きたいと書き出された方に軽く触れる。するとその文字は消え失せ、また初めのように質問が書き出される。
《貴方はベリタスで死亡しました。
転生か転移、選択をお願いします。》
転移、転生。小説等で出てくる所謂異世界転生、異世界転移と言うものか?
転移ならこの体のままだよな、、、そして転生ならまた新しく、か、、、。転生だな。
俺は転生と書き出された方へ触れた。すると例にならって文字は消え、次の質問が書き出される。
《転生に決定しました。
記憶引き継ぎの有無選択をお願いします》
記憶を引き継げるのか。そうだなぁ。もし、二人が同じように転生するなら記憶は持っておいた方がいいよな。
俺は《引き継ぐ》を選択する。するとアクリル板の文字が全て一斉に消え、何やら新しく書き出され始めた。
《決定事項》
《・生存意欲の確認ー有り》
《・転生転移選択ー転生》
《・記憶引き継ぎの意思ー有り》
《この三つの項目が決定しました。ご質問はございますか?》
質問、、始めから俺に話し掛けているお前は誰だ?
「お前は誰だ?」
俺の質問には無言で答え、アクリル板には…とだけ表示された。まあ、教えてくれることは無いだろうと思っていたがやはりか。
《他にご質問は?》
いつの間にか文字は消え、この短文だけが表示される。
「無い」
俺がそう答えると、気のせいか文字はボヤけるように消えて、再びアクリル板に最後であろう文章が書き出された。
《それでは終了です。お疲れ様でした。
また、転生先及び転生先別生物情報は出来ません。それでは来世では御幸せに。》
その文章が流れ出すと、アクリル板は少しずつ色を薄め消え始めた。
「待てっ!」
俺が叫ぶとアクリル板は色を取り戻し薄れかかっていた部分も元に戻った。
「いくつか、質問していいか?」
《どうぞ。》
これはもしやアクリル板を通した会話と考えていいのかもしれない。何故なら対応速度や対応パターンが多い。やはり誰かとの会話の可能性が高いな。
「俺が転生するであろう世界は、どんな所だ?」
《ベリタスの地図上ではヨーロッパと言う地方のような場所です。気候は温暖で自然災害も多くありません。しかし欠点として政治形態や治安だけは劣悪です。》
「そうか。分かった。2つ目にベリタスとはなんだ?」
《貴方達転生者、もしくは転移者が来る場所のことです。この部屋はあちらの世界にあり、もう既に貴方達の世界ではないのです。》
「なら、そのベリタスとの違いはなんだ?」
《魔力と呼ばれる存在です。厳密にはもっとありますが、今回はこれだけ説明しましょう。魔力とはあちらの世界のあらゆる事柄に関連があり、生き物にも宿っている物理学等では図りきれないエネルギーです。》
「分かった。じゃあ最後だ。俺の他に来た者はいないか?」
《その質問にはお答え出来ません。この場所に関連、及びこの場所に関わった者の情報さえ一切の提示を許可されていません。》
「そうか。仕方ない。あと一つだけいいか?」
《はい。》
「もう少し話術を学べよ。」
《!》
《それはどのような意味でしょうか?》
「俺と話す内に口調がドンドン砕けてきている。始めはプログラムだろうと思っていたが、感情の宿っているような単語や言葉が自然に登場していた。お前が誰だかは知らないが、俺を転生させてくれてありがとう。正直、劣悪な生前の環境よりはマシだと願う。」
《……。》
「質問は終わりだ。頼む」
《ありがとうございました。それでは転生を開始します。良き人生を、》
魂が人型になった時と同様に、眩い光が視界を覆った。さあ、どうなるのか…
「ん、、、ぅ、」
家にいるみたいだ。心地よい風が吹き抜けたのを感じた。
「ここは、、」
どうやら長い間倒れていたようで体が痛い。
恐らくは洞穴等、自然に出来た穴の中なのだろう。子供の頃、山の洞穴に遊びにいった時と似た感じだ。
「俺の、体は?」
見た目は生前と同じ14歳程だな。服も日本とは違うがさっきの説明から推測するに西洋等の服なのだろう。
「それにしても、誰かいるのか?」
洞穴は奥行き5メートル程で、高さは1.5メートル程か。けれど入り口は1メートル程しかない。
ゴソッ
「誰かいるのかっ!」
入り口付近の草が揺れ動く。獣か!?
「ど、怒鳴らないで下さいぃ、」
ゆっくりと入ってきたのは俺と同い年くらいの女の子だった。どうするべきか、、魔法等がある世界なら油断は出来ない。
「お前は、誰だ?」
「え、えーと、、」
「敵じゃ、ないよな?」
「は、はい。」
冷静に考えて始めて気付いた。俺も心細かったのだろう。少し安心してしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「ん、?」
顔に出ていたのか。俯く俺の顔を心配したように見つめてきた。こう見ると警戒している自分が馬鹿らしいな。
「わ、私はリアスです。あなたは?」
「俺は……」
「い、いえ。言い辛かったらいいんです。ごめんなさい。私、詮索する気は無いんです。」
本当に俺はダメだな。心配させる気はないんだが、、、
「すまん。心配させたな。俺の名前は白狩遼だ。」
「シラカリリョウ、、、貴族の方ですか?」
「っ、貴族!?」