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種族絶戦 ◈◈◈人の過ち◈◈◈  作者: すけ介
暗躍の将軍
198/619

第197話

「○△□○△□○△□○△□!」

吹き荒れる炎が周囲を焼き、俺達を含めたあらゆる生き物を焼く。はぁ、修復が大変だ…。

「まさか刃が通らないとはね…」

「違う。勢いが強すぎるだけだ」

「分かってるけど…」

何度かリアス達が駆け付けてきたが俺はそれを断固として断った。今回だけは危なすぎる。それに裏背もいるんだから大丈夫だろう。

「○△□○△□○△□○△□○△□!」

「喧しいな。たかが魔物風情が!」

「白狩君、口が悪いよ。けど少し苛々するね」

奴には基本的に魔法が効かない。何故ならその凶悪なまでの黒炎に阻まれるからだ。とは言え、俺が本気で込めた魔法なら撃ち破れるだろう。その為には…

「裏背、時間を稼いでくれるか?」

「へぇ~、それで倒せるの?」

「分からない。ただやらないよりはいいだろ?」

「了解。仕方無いからのってあげるよ!」

「礼をいう!」

俺は一旦下がると岩影に体を隠す。そして1度深呼吸するとその岩の上へ上がった。

「『奪魂ノ統者・与魂』」

己の胸に手を当てながらスキルを使う。手を通して俺の体を巡り出す生魂は魔力へと還元され一時的にではあるが俺の標準値を突破した。

「これを邪力に変える…」

体から漏れ出す魔力が見えるように、あからさまに黒く染まっていく。凶悪な程のその存在感は周囲の魔物を硬直させるほどだ。

「まだだ。まだいける!」

俺の方へ向かってくる魔物は邪力にあてられそのまま死に至る。殺気の塊、そして己をも殺した十字架を背負う力はそれに値する程の負の力を持っていた。

「ねえ白狩君、少しキツいんだけど?」

「分かっている。その炎さえ消せればなんでもいい。複合魔法‥」

やっと魔力が俺の限界値にまで到達した。できればこれを突破したいところだが、それをするの寝込むことになるんだろうな…。

「○△□○△□○△□!」

遠くから鋭い咆哮が聞こえる。周囲の全てを震え上がらせるようなその咆哮は仲間である魔物でさえ緊張で固まってしまう程だった。

「邪神ノ炎封刻!」

黒い影のような物が奴の足元?を囲む。それは次第に大きく広がっていき、いつの間にか奴全体を囲むようになる。そしてその頃には対照的に奴の上にも黒い影が広がっていた。

「封!」

ガチンッ!

影は奴を潰すように重なりあう。しかしその間、僅かなその間には小さな人影が見えた。

「くっ、失敗か!」

「そのようだね…」

いつの間にか戻ってきた裏背。その体にはあちこちに火傷による傷が見える。

「おれはなんだ? もしかして『人化』か?」

「かもしれないね。だとしたら少し厄介だ…」

残留する邪力が晴れた先には真っ赤な民族的な服をきた少女が炎のように揺れる真紅の髪をなびかせていた。あれが敵なんて、心苦しい…。

「ん、近付いてこない?」

「そうだな…。何故だ?」

行こうか行かまいか…。俺と裏背は誘惑に負けた。慎重に翼を羽ばたかせながら近付いていったんだ。

「……………」

「魔法が、効いているのか?」

彼女の体表には黒い血管のようなモノが脈打っている。縛るように張り巡らされたソレは只でさえ痩せた彼女の体をより拘束しているようで見るに耐えなかった。

「どうする? 彼女は人だけど?」

「んっ?」

「調べたところ、どうやらあの魔物は霊鳥フェニックス。あれは恐らくギリギリ魔物の範疇のフェニックスが昇華に失敗した姿らしいね!」

「…………」

「君に殺せるかな? どうやら今の彼女は君の呪縛に意識も縛られているらしいよ?」

「………。話してみてもいいだろうか?」

「止めといた方がいいよ?」

裏背の忠告を無視し俺は少女の対面へとやってくる。痩せ細った体は所々に裂傷の跡があり、彼女の目自体も片目は無くなっていた。

「…………」

「聞こえているなら返事をしてほしい。君にはまだ意識があるのなら俺には交渉という手が残されているんだ…」

「…………」

その時、ピクリと肩が震えると物凄いスピードで俺を殴り飛ばす。その威力はあんな華奢な体から出せるものじゃないように思える…。

「ぐうっ、俺は…。お前を殺したくない…」

「…………」

「お前も辛いんだろ? こんなこと?」

「…………」

「助けてやれるなんて無責任なことは言えない。けれど…」

「…………」

「頼む。俺にお前を斬らせないでくれ!」

俺の渾身の感情をぶつけても彼女の表情は変わらない。ただ、残っている眼から涙が溢れただけ…。

「ワ、…ワ、ハ……」

「な、なんだ? どうしたんだ?」

無表情ながら放たれる言葉には明確な意志が込められていた。涙に濡れた言葉の真意は俺にはまだ計り知れない。

「コ、コロ……、シェ…」

「なっ! そんなことできるわけ‥」

グサッ…

彼女の腹部から何やら黒く染まった刃が突き出ていくる。傷口から流れ出す血と吐き出した血で彼女は既に血だらけだった…。

「君には、これが1番の幸せだろう」

剣を抜いた裏背は動かなくなった彼女を懐に収めると静かに呟いた。垂れ下がった腕がどこか己の無力感に直結した…。

「裏背、礼をいう…」

「君には出来ないだろう。もし君がこれをすれば平気で皆を殺すことになるだろう」

「…………」

「しっかりと埋葬してあげよう。炎鳥らしく、火葬でね!」

そう言って片目を瞑る裏背。なんといっても、俺にはやはりコイツが必要なのかもしれないな…。

「リョウ、ど、どうなったの!?」

急いで駆け寄ってきたリアス。1度俺を見て裏背を見る。そして再び裏背を見る、いや、その手の中を見た。

「奴だ…」

「そう…。残念だったね…」

「どうしてだ?」

「助けて、あげられなかったんでしょ?」

「…………」

「リョウは優しいから…。ちゃんと埋葬してあげなきゃ!」

俺は一瞬、コイツを蘇らせてやろうかとも考えた。しかし止めた。昇華に失敗、つまり魂が割れて片割れに本体が呑み込まれてしまった。もうその魂は壊れていた…。

「そう、だな…。皆を呼んでくれ。大将が消えたんだからじきに魔物は帰るだろう」

「…………」

血塗れの土地を見ながら考える。最後に俺を見た時、死ぬ寸前の目には理性が宿っていた。もしかすると救えた‥

「んっ!」

目を閉じ考えていると柔らかいのが俺の頬に触れた。ギュと抱き締められた俺は見上げられる形になっていた。

「リョウ、本当に頑張ったね!」

「っ!」

「いつもリョウは優しく皆に接する。だから私達の知らない葛藤もよくあると思う」

「…………」

「いつでも私達に相談してね!」

ニコッと笑みを浮かべるリアス。本当にこの顔にだけは逆らえない。リアスの言く葛藤なんて今の笑顔で吹き飛ばされてしまったよ…。

「相談、か…。リアス、ありがとな…」

「うん…。私はただ自分の意思を伝えただけだよ。好きな人が目の前で悩んでいるのに無視なんてできないよ!」

「リアス…」

躊躇していた手が止まった。抱き締めようか悩んだ手は迷いなくその体を抱き寄せていた。

「あの子にとっての救いは死。けどリョウにとっての救いは違うんでしょ?」

「よく分かってるじゃないか!」

血塗られているもののその髪は鮮やかな輝きを失っていなかった。抱き締めた時に感じるリアスの息遣いをほんの近くで感じられる。こんなにも生きてる者って温かいんだな…。

「リョウがあの子に対して後悔するなら私も後悔しちゃう? リョウがここまで哀しむことを私は止めなかった、ってね!」

「リアス…」

「私達はいつまでもリョウと一緒にいる。いつまでもね!」

そうやって目を閉じるリアス。欲しがりだな…。俺は静かに唇を重ねた。今回ばかりはリアスに救われたから…。

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