第193話
「ふぅ。皆でこんな所に来るなんて滅多にないよね~」
「リリスとは2人で来たぞ?」
「ズルーい!」
「リアスがいう!?」
「んー!」
それにしても騒がしい。計7人という大所帯の俺達はカフェの一角を貸し切りにしていた。
「それにしてもヨルソンもやるね?」
「そうだな。ホント、騎士としてのアイツは何処へ…」
下に降り、標的の首をとると俺達はそのまま飯屋へと戻った。ヨルソンを連れ戻そうと中へ入ると意外に2人がいい雰囲気になっていたので周囲の店員に伝言を残し出てきた、から多分大丈夫。
「けど良かったんじゃない? 独り身よりさ!」
「まあな。と言うか俺達はアイツの両親じゃないぞ!」
その後、首を送り届けレジェを迎えに行った。その頃には爛々と照らす太陽もピークに達しており、俺達は近くのカフェへで昼飯代わりに入ってきていた。
「けど良かったじゃない。頼まれてたでしょ?」
「まあ、な。本当は自分達で進展させてやるべきなんだろうが…」
「いいと思うけどな~。それはリョウの優しさでしょ?」
隣から話し掛けてくるリアス。その姿をマジマジと見つめたサンはその後、同意するかのように俺へと視線を向けた。
「そうか…。まあ、アイツらのことはアイツらに任せるとしよう!」
俺達がいまここで、どれだけ話したって自分達のことを決めるのはアイツらだ。他人が口を出すことでも心配することでもないだろう。
「ねえリョウ、結局今日はどこか行くの?」
「急に話を変えたな…。まあ、今日は鍛冶屋にでも行こうかなと思っている」
「そうなの? またどうして?」
「こないだ見てた刀がどうしてもな…。少し話してみたいんだ」
「そっか~。じゃあ私達も行く~」
「当然連れていくぞ!」
話は纏まった。無言で立ち上がったユウリに視線を向けると俺達はカフェを出ていった。
「お久し振りです」
「おうおう、て、また増えてるじゃねえか!」
「またって…」
「それにお前、ロリコ‥」
「断じて違うぞ!」
久し振りに会って言うことがそれかよ…。失敬なことを呟きかけた親父さんを無視し、俺は皆を引き連れ鍛冶屋の中へと入っていく。
「あ、リョウ、いらっしゃい。リアスさん達も!」
扉を開け中へ入るとシュラが卓上の食器を片付けるところだった。御盆を置き駆け寄ってくるシュラをギュッと抱き締めると驚くシュラに声をかける。
「久し振り。挨拶代わりだ!」
「う、うん!」
周囲からは微妙に痛い視線を向けられるが気にしない。シュラの指示通り全員が席につくと武器を片付けた。
「ふぅ。改めて久し振り!」
「うん。少しビックリしちゃった…!」
照れながら前髪をイジるシュラ。後から入ってきた親父さんは何故か無言で奥の作業場へと姿を消した。
「いいだろ? これからはチョクチョク邪魔するしさ!」
俺の言葉に嬉しそうに笑うシュラ。しかしその純粋な笑みの裏には本人も気付かない隠れるモノがあった。分かっていながら何も出来ないってのは心苦しいものだな…。そしてそうこうしていると親父さんが何かを黒絹に包みながら持ってくる。
「父さん、ナニ?」
「これを包んだのは誰だ?」
「ぶぅっ! 言わないでって!」
そのやり取りだけで分かる。まあ、確かに親父さんがあんな丁寧な包み方出来ないよな~。
「それは?」
「あたしからのプレゼント。父さんから聞いたんだ!」
無邪気に笑うシュラ。親父さんからソレを受け取り両手で俺に渡してくる。
「いいのか?」
「うん。あたしの初めてのを使ってくれるなら…リョウがいいから!」
爽やかな笑みを浮かべるシュラ。包んである黒絹を丁寧に外すと中から深紅の光が目に飛び込んでくる。
「これは…」
「受け取ってくれる?」
「……」
「リョウ?」
「あ、ゴメン。ありがとう、シュラ!」
「あはは、あたしので良ければ!」
あまりに濃い光に俺は目を奪われていた。黒絹を丁寧に巻き直し傍らに置くと俺は改めてシュラを見る。
「シュラ、俺と来てくれるか?」
「っ!」
「リョウ、ちょっと待て!」
違う方向からの声。その方向へ視線を向けると困惑した様子の親父さんだった。
「何ですか?」
「今、なんて急じゃないか! それにどうして今なんだ!?」
「準備ができたからですよ」
「っ………。少しリョウ、お前と2人で話がしたい」
「…分かった。親父さん、俺達が出よう」
《闇魔法‥》
皆へ視線で「行ってくる」と告げると俺は親父さんの近くへと移動する。心配そうな顔をするシュラに笑みを向けると俺は魔法を発動させた。
「影移動!」
「ここは?」
「シュラが来る場合、住む場所です」
ドンッ!
思いっきり殴られた。俺は地面を削り宝石だらけの壁に叩き付けられる。
「ふざけるな! こんな場所へ娘を送り出せるか!」
言っていることは分かる。宝石の粉が累積した地面が冷たい…。
「んぅぅ…。理由を聞いても?」
体に力を入れ立ち上がると真正面からその姿を見る。父親としての姿だな…。
「俺はお前と会うまで、シュラには辛い想いさせた。もしかすると俺にシュラの父親である資格なんてないのかもしれない。けれど‥」
1度そこで言葉を切った親父さん。先を促すように視線を向ける。
「けれど俺はそれでも娘が、シュラが心配なんだ!」
「…………」
俺は無言でその眼を見返す。俺が到底勝てないような深い意志を、深い愛情を宿す眼は一切の揺らぎもない。
《複合魔法・創築》
親父さんがこんな行動に出ることは分かっていた。だから俺は敢えてここに連れてきた。これを見てもらうために…。
「な、なんだこれ…」
目の前に壁が現れゴツゴツした壁は真平らに加工される。壁には扉が作られ壁を含め手前の空間には細かい細工が施されていく。
「俺は既に人の域を越えている。ソイツらはこの世界では多く存在するがそれでも数はやはり少ない」
「…………」
「俺はそんな現状の中、その高みへと足を踏み入れた。俺はそれを自分の為に使う!」
「…………」
「俺に、シュラを任せてほしい!」
俺は友達として大事なシュラ、大切な仲間であるシュラを守りたい。その為には鍛冶屋の中では果たせない。
「任せられるのか?」
「任せてほしい!」
再び深く頭を下げる。人生経験の浅い俺には親父さんの考える、父親としての考えを推し測ることは出来ない。
「………。シュラのこと、娘のことをよろしく頼む…」
その姿は不思議と俺の心に響く。下げられた頭に秘められた想いを俺は認識しきれているのだろうか…。
「戻りましょう…」
「あぁ」
《闇魔法・影移動》
サッと消えた俺達。俺の心には親父さんの想いが響き、改めて自分の言ったことの重さを感じた。
「お、おかえり…」
鍛冶屋へ戻ると「どうだった?」と言うように俺を見つめるシュラ。リアス達も気になるようで片目を向けてきていた。
「シュラ、行ってくるといい…」
「いいの!?」
「リョウと話はつけた。信用できたんだ」
「………。リョウ…」
「一緒に来てくれるか?」
淡くも深みのある橙色の髪が彼女の表情を隠す。緊張した静寂が部屋の中を包む。これで断れたら俺、耐えられるかな…。
「嬉しい…。ありがとう」
「シュラ?」
「是非、ついていかせて下さい!」
その一言に俺の心は不思議と明るい雰囲気に満ちた。友達が一緒に来てくれるだけなのに…、どうしてこんなに嬉しいのだろう。
「これからも、よろしくな!」
「こちらこそ、よろしくね!」
俺達はかたく握手を交わす。泣きながら笑うその姿を見ていると俺までももらい泣きしそうだ。