第19話
「持ってきたよ!合わせて1100Gだよ。」
「分かった、」
アイテムボックスの中から金を出そうとするが、それよりも先にティナが金を支払っていた。
「いいのか?」
「うん。お世話になってるしね!」
「そっか。ありがとな、」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんって仲良いね!」
「ありがとうリンちゃん♪」
「うん!」
ニコニコと頷くと軽快な足取りで次の接客へ向かう。朝から愛くるしい。保護欲が駆り立てられる…。
「美味しそう…。」
昨日俺に持ってきてくれたのはリンが俺達の為に無料で作ってくれた物らしい。昨日のが質素とは言わない。普通だった。けど運ばれてきたのは思っていたよりも豪華だった。
「豪華…、」
「ティナもそう思う。安いし豪華だし最高じゃない♪もう食べちゃお!」
「いただきます!」
具は定番のトマト等から始まり肉やアボカドなどの変わったものまで様々だ。それにセルフでかけるタレ等も数種類ついてくる。
「トマトとトマトのダブルコンビ、意外と旨いな。」
「そうなの。じゃあティナも!」
数種類のタレと数種類のサンドウィッチ達は組み合わせを考える遊びみたいな感覚もあり楽しい。そして俺達二人がそんなサンドウィッチ達に夢中になっていると…、
「おはようリョウ。ティナも、」
若干髪が跳ねたまま、欠伸をして近付いてくる。まだ寝惚けてるな…。
「おはよう。先に顔洗ってきたらどうだ?」
「んー、洗ってきたよ~。」
「絶対嘘だろ!早く洗ってこい!」
「分かったよ~!」
寝起きのリアスは覚醒しきらない意識のままフラフラと顔を洗いに向かう。そのあとを俺達二人は苦笑しながら見送った。
「ホント、リアスったら朝弱いな。」
「そうなんだよ。昨日なんて朝大変だったんたから、」
「そうだったのか。今度朝から驚かしてみるか?」
「いいね、それ!ティナもっ!」
二人で悪いことを考えてると肩をトントンと叩かれた。俺は滅茶苦茶嫌な予感がして振り向くのが戸惑われた。そしてそれはティナも同じなようで、俺に目配せしてくる。
「はぁ、」
小さなため息をはき、俺は振り向いた。そこにはニッコリと笑うリアスが。
「二人共、何を話してたのかな?」
口元はとにかく笑っている。しかし俺とティナを見据える目は全く笑っていなかった。
「え、えーと…。」
「?」
「ごめん!」
「リョウは?」
「すまん!」
「なんちゃって、二人共冗談だよ。」
意地悪に笑うと俺の横へ座る。本当にやられたな。マジでドキッとした。
「朝から頭がキレてるな…。」
「バカにしてたけど中々やるものでしょ!」
「嫌味な言い方だな!」
「少しくらいはね♪」
「じゃあそんな賢いリアスにご褒美だな」
「えっ!」
隣に座るリアスへ手を回すと、抱き寄せる。
「少し乱れてるな、」
抱き寄せたリアスの髪を櫛を使って直し始める。その間ずっと俺にくっついてる状態で…、
「ちょ、ちょっと恥ずかしいよ…。」
「いいだろ♪」
「ホント、酷い目にあったよ…。」
「嫌だったか?」
「そうじゃないけど…。」
「ティナはどんな気持ちでいれば良かった?」
「なんだ、焼きもちか?」
「そうだよ!中々ティナにはしてくれないじゃない!」
「そうかな?」
「そうだよ!」
「まあ、また今度な。」
「……。」
「さあ全員揃ったし大きな料理でも頼もう。リアスも腹減ったろ?」
「そうだね。お腹減ったよ!」
「今日は何するの?」
「んー、昨日のことで遅れたが、二人の武器合わせをしよう。武器は適当に調達してきたから…。」
「いつの間に!」
「秘密だ。さあ行こう。闘技場なら借りれるしな!」
と言うことで闘技場!
「珍しい…。人が少ないじゃないか。」
初めておじさんと来た時、人が多く大きな魔法なんて実験出来なさそうだった。しかし今なんて俺達と他に数える程しかいない。東京ドーム程もある広さなのに…、
「広ーい。こんな所で試合したの!?」
「まあな。あと冒険者になるなら、せめて素手の俺とはやり合えるようにしなきゃな。」
「えっ!」
「…、」
「そりゃそうだろ?俺なんてまだまだ弱い方だ。そんな俺なんかの素手やり合えないようじゃダメだろう?」
「……。」
「……。」
「ん?」
「と、取り敢えずやってみよう。どれくらい出来るか分かんないし、」
「そ、そうだよ。リョウ兄、ティナとリアス同時でいい?」
「あぁ大丈夫だ。二人共、取り敢えず武器は何にする?」
「じゃあ私は槍で!」
「ティナは大弓!」
「分かった。じゃあこれだな、」
ホントに贅沢過ぎる日緋色金で出来た槍と弓を二人へ放り投げる。当然、普通の槍と弓に見た目を偽装して。
「ありがと、じゃあ始めるよ!」
「あぁ。好きなタイミングでいい。」
「やあっ!」
流石獣人。体のしなやかさと、体の柔軟な筋力を使った突きは十分に生き物を殺せる。
「まあ、当たらなきゃ意味無いよな?」
突きとは一点に力を集め対象を貫くと言う手法の技だ。と言うことは槍の刀身に当たらなければダメージは皆無ということだ。
「やっ!」
「、」
「やっ!」
「、」
「やぁ!」
時に手刀、時に魔力で槍の勢いを逃がしながら避けていく。そしてその度に外れた威力の分、リアスの体力は削られていく。
「はあ、はあ。なんで当たらないのよ!」
「まあ武器無しの打ち合いだし、俺も当たったら危ないしな。」
「もうっ!」
ヒュッ!ヒュッ!ヒュッ!
俺の真上、リアスの頭上、リアスの肩越しに放たれた矢は的確に俺を狙う、が!
「嘘でしょ…。」
肩越しのは蹴り折って、真上からのは少し前へ動き避ける。そして頭上からのは指二本で掴む。
「まあこんなもんだろう。俺から行くぞ、」
飛んできた鏃を指先に挟むと、近付いたリアスの首へ当てる。
「リアス脱落、」
「だね、」
そしてティナへ振り向くと、既に矢を構え俺を狙っていた。
ヒュッ!
矢は真っ直ぐに俺に向かって飛んでくる。その矢に迷いはなかった。なら、!
カキンッ!
「ねえ、可笑しいよね?」
掴んでいた矢を思いっきり投げて飛んでくる矢を叩き落とした。
「はい、ティナ脱落。」
「完膚なきまでに…。」
「ホント反則的だねリョウは!」
「酷くない?」
『酷くない!』
「酷い…。」
「で、どうだった?」
「私は双槍かな。私の突き主体の欠点も補えるし…。」
「ティナは?」
「えーと、、大弓、かな。あとは魔法も使いたいから短杖とかあったら最高だよ」
「そうか。ならそれらの武器は二人にやるよ。短杖に関しても調達してこよう。」
「えっ、いいの!」
「あぁ。二人もそれで練習するといい。練習相手は用意してやる!」
「どういうこと?」
そう言えば二人に魔晶は渡したが説明はしてなかったよな。
「それは…、魔晶?」
「そうだ。これに魔力を流すと‥。」
周囲の魔力を奪い赤色の肌をしたゴブリンが姿を表した。ご丁寧に棍棒まで持って…。
「魔物っ!」
「そうだ。これを使えば命令通りの行動をする魔物のような存在を作れる。だからこれを練習相手にすればいい!」
「っ!」
「どうした?」
「奇抜な発想だなって、」
「まあ、そうかもしれないな。けどまあ、練習相手にはもってこいだろ?」
「確かに…。」
「さあ頑張れ。二人にはそれぞれゴブリン三体だ。永遠に復活するから疲れたら言えよ。」
俺はそう言うと魔晶を発動させ…、
「お前達三匹はリアスの練習相手だ。そしてお前達三匹はティナ相手だ。それじゃあ、スタートだ!」
その声と共に、炎に包まれたゴブリンは動きだした。あっ!そう言えば普通のゴブリンよりも圧倒的に強いわ!