第188話
「リョウ、ありがとう。もう大丈夫…」
「ん、あ、そうだな。ゴメン…」
思わず抱き締めていた、が改めて考えると立ってるのだってキツイ筈なのに…。やはり俺はまだまだだな…。
「別に謝る必要はない。俺も少し嬉しかった…」
無愛想で少しの飾り気ももない言葉だがそれが素直に嬉しかった。まあそんな言葉が少しむず痒くもあり、俺はユウリを席へすすめ自分もその対面へ座る。
「あー、あー、少し暑いな。ユウリは?」
「お、俺もだ…」
「窓でも開けようか!」
間抜けな演技で俺は席を立とうとする。初々しい反応をするユウリを見ていると自分まで恥ずかしくなってきた。
バタンッ!
「ぃって…」
扉の前を通った時、勢いよく開かれた扉に俺は襲われた。そしてそんなことをしたのは獣耳をピコピコと動かすサンだった。
「大丈夫!? お父さん!」
「あ、あぁ。次からは気を付けような?」
「う、うん…」
ションボリと肩を落とすサンだったが不覚にもそんなサンが可愛く見えた。なんと言うか…子供が素直に反省?してるような姿って微笑ましいと思う…。
「まあいいや。サン、それより頼んだものは?」
「あるよ! バッチリ!」
「よくやったな。ありがとう」
サンからバスケットを受け取るとそれごと机に置いた。しかし椅子は2脚。と言うことでベッドに座ろうとしたサンだったが俺はそんなサンを止めた。
「どうして?」
「お前だけそっちなんて仲間外れみたいじゃないか。植物魔法‥」
不思議そうに首を傾げるサンとユウリ。魔法がない世界じゃバカかと言われて終了だな…。
「草造!」
やはり便利だ。魔力を集めた一点を元に伸びる小さな小さな木が形を整えながら椅子の形をとる。それもサンに合わせた形でだ。
「お前、こんなことも出来るんだな?」
「魔法は人を屠るだけのモノじゃないってことだ」
目を輝かせるサンに片目を閉じると椅子の上へと乗っける。「えへへ」と上機嫌に笑みを溢したサンの尻尾はブンブンと左右に揺れていた。
「お姉ちゃん…」
「サン、心配かけた」
「大丈夫。サンも何も出来なかったから…」
昨日宥めたのにまたかよ…。お互いに後悔がありお互い相手を心配しているとか…高難度過ぎるだろ…。
「なあお前達、結局何があったんだ?」
「俺から話す‥」
それから聞いた話はサンの言っていたことの通りだった。朝依頼を受け森に入るといつの間にか、変な人間達に囲まれていた。そして銃弾を受けた後、接近戦となり深手を負った…。というかユウリが気付けない程の隠密能力なんて…油断出来ないな。
「と言うことだ。これからは覚えていない…」
「分かった。ホントに、生きててくれてよかった…」
「…………」
もしこれでユウリを死なせれば俺は同じ人を2度も死なせてしまう。そんなの…耐えきれない…。
「お姉ちゃん…ゴメンね。サン、何も出来なかった…」
「大丈夫。サンは最善を尽くしてくれた。こうやって俺を運んでくれただけで十分だ…」
そうやって笑みを浮かべたユウリ。ユウリを見つめるサンの瞳には涙が浮かんでいた。
「ぅぅ…。お姉ちゃん、良かったよ~!」
「どうして泣く? 俺は生きて‥」
「そう言う意味じゃないんだよ。受け止めてやれ」
「ん…」
ぎこちないながらもサンを抱き締めるユウリ。なんともその姿がやはり初々しく、俺は本日2度目の笑みを溢した。
「そろそろ外が騒がしくなってきたか?」
「ん! 俺達も降りよう。依頼を受けてこなければ…」
「止めろ!」
「ん?」
「お前は病み上がりだ。お前は気付いてないかもしれないが俺の治療は荒療治過ぎるんだぞ?」
「分かってる。けど‥」
「お願いだ。少しくらい休んでくれ…」
「ん、分かった…」
きっと俺がいなければいつの間にか宿を出て依頼に出掛けていたのだろう。全く…。律議にも程がある…。
「そう言えばサン、獣で行くか人で行くかどうする?」
「昨日は人になってたけど…」
「恐らくは気付いていないぞ?」
「そっか…。けど折角人になれたから人になってるよ!」
「分かった。さて…勘違いがないことを祈るよ…」
どうせまた「連れ込んだ!」みたいな感じで一悶着ありそうだ。そもそもそらって俺が女誑しみたいじゃないか…。
「ねえ、驚くかな?」
「どうだろうな? ユウリはどう思う?」
「きっと驚くと思う。リアス達はすぐに驚くから…」
「ふっ、そうだな!」
階段を降りるとそこには既に沢山の客が席を固めていた。そしてその中の一角、たった3人で机を占領している者達を見付ける。
「リョウ兄!」
「おはよう、ティナ。リアスもリリスも、おはよう」
「おはよう。今日は遅かったね!」
「今日は私の方が早かったからね!」
そう言って胸を張るリアス。しかしその隣では苦笑いを浮かべるティナがリアスを宥めていた。なんせ、俺は寝ていないのだから…。
「あっ、ユウリ!」
「ホントだ。もう大丈夫なの?」
「ん…。心配掛けた」
「そんなことないよ。本当に大丈夫!?」
「俺はそんなに柔じゃない。リアスはリョウと同じことを言う…」
「っ!」
「ふっ、そんなこと言うなよ。リアスもお前が心配で言ってくれてるんだぞ?」
「ん、そうか…。ごめん、リアス…」
「う、うん…」
あまりの切り替えの早さに流石のリアスも動揺を隠せない。と言うかリアスの上をいくなんて、ユウリ、強者だ…。
「さて、リアス達は朝食は?」
「食べちゃったよ。ティナがリョウはもう食べてるって言ってたから!」
リアスの後ろで親指を立てるティナ。視線で礼を伝えると俺はユウリと共に席についた。
「お前達、今日は何か予定はあるか?」
「ない」
「ない」
「ない」
「見事に全員予定無し。分かった。なら今日は全員で遊びにいこうか!」
「やった!」
「ん、リョウ、けどユウリは?」
「当然連れていく。お前も来るだろ?」
「ん、少しでも動かなければ体が鈍ってしまう。是非ついていきたい!」
「そうか、そうか。あとは‥」
静かにそして少し怯えながら俺を見る人が1人。出会ってから殆ど一緒にいなかった人だからまだ慣れていない…。
「レジェネータ。お前はどうする?」
「可能ならば着いていきたいです…」
「ふっ、遠慮することはない。お前は既に奴隷じゃないんだから!」
「ありがとうございます」
「さてさて、と言うことで何処か生きたいんだがいい所はないか?」
「んーー」
「んーー」
「んーー」
「…………」
「…………」
全員が考えるがなかなかいい案は浮かばない。と言うよりこの人数、総勢7人の俺達が全員で行ける場所なんて限られている。
「リアスお母さんと言った所は?」
『っ!』
そう言って机の下から顔を出すサン。全員がその姿に驚き疑いと軽蔑を込めた視線が俺に注がれる。
「弁明させてはくれないか?」
『ない!』
「問答無用?」
『そう!』
「サン、お前から説明してくれないか?」
「分かった~」
そう言うとサンの体は大量の魔力で包まれたかと思うと中から赤い立派な毛並みを持つ魔物が現れる。なんと言うか、立派だ…。
「お前ら、これで分かったか?」
「ど、どういうこと!?」
「サンのスキル、『人化』だ。人の姿に化けられる」
「もしかしてそれもリョウ兄が?」
「どうだろうな…。それより‥」
『話を逸らさない!』
全員からの叱責に俺は黙るしかなかった。改めて俺は初めからサンについて説明した。
「一応分かった…」
「理解してくれて助かる。で、目的地はリアスと行った場所でいいか?」
『うん!』
満場一致の答え。
俺はその言葉に頷くとそれを提案したサンの頭を撫でながら席を立った。