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種族絶戦 ◈◈◈人の過ち◈◈◈  作者: すけ介
不穏な兆し
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第186話

荒く苦しそうな息遣い。血に染まった手は無気力に垂れ下がり床へ赤い血の海を作っていた。

《いける?》

《やる!》

バタンッ!

「何してるの!」

俺が刃を振り上げた瞬間、鋭く扉が開かれると体を貫くような叫び声が響く。

「リアス…」

「リョウ、何するつもり!」

「サンからは聞いたな?」

振り返らずに、刃を振り上げたまま話す。もしここで止めてしまえばまた覚悟に時間が掛かる。

「当たり前でしょ! 入るなって、何をしてるのよ!」

「もう既に魔法じゃ治療不可能。手術も出血量から間に合わない」

「…………」

その頃には矢継ぎ早にティナ、リリスも部屋に入ってきていて最後に入ってきたサンは俺に申し訳なさそうな視線を向けた。

「幸い俺のスキルの中には生魂を支配できるものがある。諸器官の再建の後、生魂を入れてやれば回復するだろう」

「じゃあ生魂を支配する条件は?」

「…………」

「その手で殺すことだね?」

「…………」

「どうして私達に相談してくれないの! 私達じゃ不安!?」

「…………」

「ごめん、言い過ぎた。リョウが1番辛いのにね…」

「出ていてくれ…」

「………」

「………」

「私達はここにいる。リョウだけにその辛さを背負わせたくない!」

「………」

《雷魔法・麻酔》

俺は無言でユウリの心臓を刺し貫いた。それと共に体の中へ流れ込んでくる生魂も感じる。とは言えそれに安堵する時間はない…。

「精霊魔法・集中蘇生」

生魂をそのまま魔力に変え蘇生を施す。ある程度の傷は無かったかのように回復するが体を貫かれるような傷はいまだ治らない。

「これで蘇生できなきゃ施す手はないな。『奪魂ノ統者・魂復』」

掌上に現れる生魂をユウリへと押し付ける。粒子のようにバラバラに分解された生魂はその体へと浸透していった。

「…………。もうお前は死んでるんだよな。『奪魂ノ統者・結魂』」

血に濡れた額へ指を重ねスキルを発動させる。俺には分からなかった。何故俺はこんな狂気染みた治療が出来たんだろう…。

「………」

恐ろしい程、苦しい時間。そして次の瞬間、その呼吸が、戻った。

「治療完了だ。サン、運んできてくれてありがとな…」

「うん…」

「リアスも、その言葉に目がさめたよ。ごめんな…」

頭を下げるがそれだけじゃ足りない。俺はコイツらを裏切ったのと同じなのだから。

「どうして謝るの。リョウ、は、頑張ったよ」

「………」

申し訳無さから顔を上げられないでいる俺。するといつの間にか俺はリアスに抱き締められていた。

「ごめん、ごめんね、リョウ。私最低だよ。1番辛い筈なのに、私なんかがそんなこと言える筈ないのに…」

涙声のまま必死に伝えるリアス。その声に俺自身は逆に冷静になってしまった…。

「こっちこそ、ごめんな」

「っ!」

サッと顔をあげリアスを払う。そして今度は逆に俺が抱き締めた。

「もっと、お前達を信じてやれればよかった…。そしたら泣かせないで済んだのに…」

俺の手の中で静かに泣くリアス。何度も何度も背を撫で続けた。垂れ下がった気持ちと尻尾が元に戻るまで…。

「…………」

「さあ降りよう。まだ飯も食べてないだろ?」

「うん…」

「暗い気持ちは切り捨てようぜ。ユウリも生きてるんだから!」

3人を急かしながら俺は下へ降りる。隣で静観していた裏背は消え、人に化けていたサンは狼に戻り俺の足元をついてきた。こんな気分で飯なんて食べられないだろうが済ませないわけにはいかないからな…。


「おやすみ。ユウリのことは俺に任せてくれ」

「それが1番だね…」

全員が気を使い合い、重苦しい空気はなかった。しかしそこ胸中には少なからず心配の念がこもっていただろう。

「サン、来い!」

「ガウッ…」

立ち上がり踞っているサンへ鋭い声を飛ばす。そして最後にティナの方へと向かった。

「今日はお前の番なのに構ってやれなくてゴメンな。許してくれ…」

「何言ってるの? 昼間はずっと一緒だったでしょ?」

「ありがとな…」

それだけ言うと俺はその場を離れる。そろそろ本当に奴等を殺さなきゃならないな。もう既に3人目。これ以上やられては堪らない。

「ごめんなさい…」

「謝る必要はない。サンよりユウリの方が強いんだ。お前が出来ることなんて少なかっただろう」

「…………」

顔を見ずそう告げると俺は扉を開けた。未だ血塗れでベッドの上に横たわるユウリの意識は戻らない。

「ふぅ。取り敢えず何があったんだ?」

上着を片付けサンへ席をすすめる。『等価錬成』により作ったジュースを渡すと俺自身はカクテルを作った。

「依頼で森の中へ入ったら変な人達に囲まれたの…」

「変な人?」

「フードを深く被って変な武器を持ってた。まるでお父さんの‥」

「これか?」

日緋色の銃身が光を反射した。角度により深い紅となる銃身は血の色にも見えてくる。

「少し違う。もっと四角くて角張ってた」

「劣化品か…。やはりこの時代の人間にはそれくらいしか出来ないんだな…」

それにしては性能が向上しているな。前の弾丸、ティナを襲ったのは体内にとどまっていた。

「どういうこと?」

「この武器は俺の転生する前の世界で使われていた物だ。俺のは同じ転生者に作ってもらった。が、多分ソイツらは転生者の作る拳銃を自分なりに作ったんだろう…」

「だから完成度が低いの?」

「多分な…。で、他には何かないか?」

「全員が首から十字架のネックレスをつてたくらい…」

「やはりな…。ありがとな、サン…」

「大丈夫…。何も出来なかったし…」

少なからず責任を感じているのだろう。元気の良い耳は垂れ下がりうつ向く表情は暗い。

「………。お前は悪くない…」

「…………」

それでもサンの後悔は癒えないだろう。目の前にいて助けられなかったのだから…。

「そんな顔するなよな…。こっちこい!」

「うん…」

手を広げサンを懐にしまう。特徴的な尻尾は力なく垂れ下がっていた。

「な、お前は悪くないって。俺が保証する。お前は最善を尽くした…」

「お父さん…」

小さな背中が震えていた。哀しみの詰まった涙がポタポタと俺の服に染みを作った。

「泣くなって…。お前が悪い訳じゃないだ…」

「ぅぅ……」

それでも、いや、俺がいくら落ち着かせようと言葉を重ねても意味なんて無い。目の前で人を失いかけた無力感は他人が何を言っても意味は無い。大事なのは俺の中でコイツも仲間の1人だということだ。

「サン、聞いてくれるか?」

「んぅ?」

静かな言葉に顔を上げるサン。真っ赤になった目、顔は涙に濡れていた。

「お前も俺の大事な大事な仲間だ!」

「っ!」

「何人たりともお前を泣かせることは許さない。それが同じ仲間の内だとしても…」

「…………」

「お前が悲しいと言うなら俺が受け止めてやる。だから、涙という形で自分の中に抑え込むというのは止めろ!」

虚を突かれたように固まったサン。俺を見つめるサンに片目を閉じるとワシャワシャと頭を撫でた。

「やぁ! お父さん~!」

「だからそんな悄気た顔するな。それにお前は何も悪くないだ。可愛い顔が台無しだぞ?」

「サンはリアスさん達みたいにはいかないからね!」

「娘を口説くような鬼畜じゃねえよ!」

ベッドの横に腰掛けると未だ目を閉じたユウリ。しかしその時、重ね合わせた手がピクリと動いた。

「んぅ…。リョウ…」

「おかえり!」

「あぁ…。ただいま…」

意識もハッキリしない中、その顔は笑みに変わった。全て結果オーライだ。俺が片目だけで視線を向けるとサンは笑みを浮かべた。

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